46
「久しぶりやん、ニイちゃん。」はい、とだけ俺は答える。
「久しぶりやん、ニイちゃん。」はい、とだけ俺は答える。
「夏休みかー、ええな。」おばちゃんはそう言うと、シワだらけの手でカレーの入ったドカンを運んだ。
「子供たち待ってるで、お腹すかして。」そうすね、俺は30個のドカンをトラックに詰め込んだ。
「ようニイちゃん。そうか夏休みも終わりか。」交野さんが声をかける。
「だいぶ焼けたな。海か。」いえ外でバイトやってて。
「そっか、暑かったやろ。」そうですね。
「味噌汁忘れたわ。おー焼けたな、にいちゃん。」清原さんは忙しそうに走っていく。
「部長に挨拶したんか。」平山さんがゆっくり俺の肩をポンポンと叩く。
「あ、さっき行ってきました。」経理のお姉さんは休みでしたけど。
「にいちゃん知らんかったか。」え?
「事務の彼女、部長と不倫関係やってな。」え、そうなんすか。
「奥さんに見つかって、辞めさせられたんやって。」おばちゃんが嬉しそうに言う。
「びっくりやな。」平山さん。
「部長も元気やで。」おばちゃんが声をひそめて言う。
「おれなんてもうそんな元気ないけどな。」平山さんはそう言いながら笑う。
「あたしゃまだまだ働くで。」カッカッカっと元気に話すおばちゃん。
「あんたもがんばってや。」はい。そうするしかない。
変わらない日常と、居心地のよさ。そして少しの変化。彼とナホの同居生活。薄汚れた町の片隅。木造アパートだったが、トイレはちゃんとあったし、広さもそれなりだった。何より部屋が畳だったのでくつろげた。何かを犠牲にすれば、何かを手に入れることができる。カラスが鳴いている。黒い羽をバタつかしている。不吉な雲が流れてくる。相変わらずカンカラコンと空き缶は転がる。遠くで犬が吠えている。風は?ない。
変わらない日常と、居心地のよさ。




