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さよならだけが人生さ。
さよならだけが人生さ。彼はTWのバイクで川沿いを走った。もう6月。風に湿り気がある。夏の香りがした。ちょっと前までさわやかな空気が流れてたのに、今やジメジメとした熱帯低気圧の中にいるみたいだな。晃一を誘って夜のツーリングでもしようかと思ったが、雨が降ってきた。仕方なしに彼は妹の家に寄ることにする。仕方なしに?
「もう夏やな。」その前にまずは梅雨やろ、とは言わない。
「うまいなこのカレー。」くうちゃんもおいしそうに食べている。
「おいしい。」この子に障害があるなんて信じられん。
「ただいま。」そうこうしているうちにシンジが帰ってくる。
「おじゃましとります。」疲れ顔の奴に向かって言う。
「パパに、おかえりは。」ミユがうながすと、くうちゃんが叫ぶ。
「おかえり!」でもなんだか幸せそうじゃないか。
「ただいま。」くうちゃんの頭をなでるパパ。
「スーツ、暑いやろ。」俺が聞くと、シンジは黙って麦茶を飲む。
「そうはいってもオフィス仕事やし、外にも出るしな。」サラリーマンのつらいところ。
「でももうすぐ夏のボーナス。」ミユがスーツを受け取る。
「少ないなりにがんばります。」やっと笑顔になるシンジ。
「お風呂にする?ご飯?」昔からの聞きなれた会話。
「今日はなに。」シンジがお皿を見る。
「カレーかぁ。」気持ちはわかるけど、その言い方はちょっと。
「なんなん。仕方なしに食べてもらわなくていいけど。」ほら不機嫌。
「じゃあ風呂。」後ろを向くシンジ。
「じゃあってなによ。」そこでくうちゃんが騒ぎ出す。完全に空気を読んでる。
「うるさい、そら!」ミユが叫ぶ。
「ちょっと、叫ぶなよ。」俺はどうしたらええねん。
「叫んでないやん。」シンジはネクタイを放り投げる。
「ちょっと。」ほんまやで。寂しそうにくうちゃんがスプーンを振っている。
「ビールでも飲もうや、シンジ。」あの颯爽とした男はどこに行った。
「わるい、ススム。」ええんよ、義兄弟。
仕方なしに彼は妹の家に寄ることにする。




