20
「うん、わるい。」ジャズ演奏に気をとられて、つまずいて足をケガした。
「動けるん?」ナホが俺に声をかける。
「うん、わるい。」ジャズ演奏に気をとられて、つまずいて足をケガした。俺たちは地元のジャズフェスティバルに来ていた。
「はい。」彼女はしゃがみこんで、ハンカチを出す。
「あ。いた。」血で真っ赤に染まる。
「ごめん。」いや、あ、ありがとう。
「うん。」ナホは心配そうにしている。
「よう、大丈夫か。」向こうから晃一とチナツが缶ビールを手にやってくる。一瞬それがタイキとヨウコに見えたのは、ジャズの音色のせい。
「ちょっと、どうしたん。」チナツが聞く。
「いやさっき人に押されてん。」周りの人がこちらを見ながら通り過ぎていく。
「大丈夫か。」おばちゃんが声をかけてくれる。
「あ、はい。大丈夫です。」俺は顔を上げる。
「無理せんときや。」おばちゃんは心配そうにして歩いていく大阪の町。周りではジャズバンドの演奏が続いている。
「血出てるやんススム、とりあえず向こうの木陰いこ。」おお。
「ほら、大丈夫?」ナホがティッシュで血をふいてくれる。
「痕になるほどじゃないやろうけど。」俺はなすすべがない。木陰が5月の太陽をさえぎっている。ジャズの音色がこだましてる。
それは彼の心のどこかにある。もちろんパッション、ビール、音楽。そして帰国して、この町のジャズフェスで一人さまよい歩き、彼がたどりついたのは。相変わらず同じ町。生まれた町。そして彼が得たもの、手放したもの。なにがなんだかわからない空を見上げて彼は歩いていた。ガンガンンガン。激しい音がした。そこには、隣にはいつも愛すべき人がいた。
ガンガンンガン。




