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「す、すむ。」はいはい。見つめあう。
「ちょっとお兄ちゃん、くうちゃんと遊んであげて。」ああ。
「す、すむ。」はいはい。見つめあう。くうちゃんはちょっと照れる。こんな小さくても女の子なのだ。
「すす、む。」はいはい。抱っこする。彼女は笑顔になる。俺だってそんな顔を見たら嬉しくないはずがない。
「たかい、たかい。」高い、高い。やわらかい彼女の腕、その弾力に俺は生きている実感を感じる。
「すすーむ。」生そのものである彼女の存在は、あらゆる者を勇気づける。もちろん俺も。
「なぁまた大きくなったんちゃう。」俺は台所の妹に声をかける。
「うん、ほんま最近よう食べるから。」ただ少し年齢にしては言葉足らず。ことばたらず。
「まだ病院の結果は出ないんか。」聞いてみる。
「う、うん。」妹の動作が途切れ途切れになる。
「小学校行けば大丈夫やと思うけどな。」たしかに少し様子がおかしいときがある。子供っぽさや、人見知り、とはまた違う。
「うーん。」
「クーン。」くうちゃんがマネをする。それから犬の鳴き声ごっこが延々と始まる。たとえ何がどうであろうと、大人にはマネできない濃密で純度が高いビックリ箱。つまり中身が空っぽなのがポイント。
彼らはいつから遊び心を忘れたのか?成人して社会人になり、各年代で訓練を積み、罪と罰を重ねて、行き苦しい世の中を編み出して。損と得を勘定し、感情を押し殺して、ストレスを溜め込み。ときに感傷的になり。ときに暴れん坊になり。ときに種馬になり。ときにサファリーパークのライオンに挨拶をして。ウサギ小屋でノウハウ暮し。家畜化された安全弁。安全な不利をした効率化。仕事という名前の拘束道路。ウソとマコト。ウンコとチンポコ。いつわりの報告書。信じるものが欺かれる社会。それも悪くはない。わるくは・・・
それも悪くはない。




