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「ねぇ、ちょっと止まろうや。」
「気持ちいいな。」ほんまに。
「ねぇ、ちょっと止まろうや。」おおっけー、おっけー。晃一と千夏のバイクと並走して、琵琶湖のほとりに下りていく。
「うわー琵琶湖ひさしぶり。」バイクを降りると千夏が伸びをする。
「いやほんま気持ちええな。」晃一も言う。
「あ、大丈夫?」俺はナホのメットバンドをほどいてあげる。
「ありがとう。」それがほとんど初めて彼女が俺に言った言葉だった。
「おりゃ。」千夏が小石を投げた。それは湖の表面から静かに、そしてしずかにおちた。波がさらっていく。
「しずかやな。」俺はつぶやく。ナホがうなづく。
「走れ。」突然晃一が走り出す。地面の小石がじゃりじゃりと音をたてる。
「待てよ。」俺も続く。風、風を感じる。後ろでは千夏とナホの笑い声がする。
「おせーぞ、ススム。」わかってるわ。わかって、いる。
彼の後ろから誰かが肩をつかむ。黒い影。黒い手。黒い羊。彼にはその姿を見ることはできない。いや本当はわかっているのだけど、わかりたくないだけなのかもしれない。静けさが湖面に漂い、空は薄い雲におおわれている。遠くでお寺の鐘の音が聞こえる。湖の横を、彼は一人で歩いている。横には誰もいない。奴らはここの住人ではないのだ。ないからだ。いつだって、いつだって薄い一枚の布でさえぎられている。ただ風さえ吹けば、その布がぺラッとめくれ「それ」は姿を見せる。そんな瞬間がある。
そんな瞬間がある。




