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「どうよ仕事は。」
「どうよ仕事は。」
「ああ、わるくないね。」心配してくれる晃一に答えた。
「そっか、よかったやん。」まだ世界は平和にあふれていて、バイクで風を切り、川辺を走っていく。
「まぁ慣れるまでは大変かもしれんけど。」
「もう慣れた。」
「はいぇ!」久しぶりに笑う。川辺にバイクを置いて、風と太陽の光を思う存分浴びる。
「そういやこないだの千夏っての覚えてるか?」ああ、あの弁当屋の子やろ。
「どうよ?」どうよって何がよ。
「お前のこと気になってるみたいやで。」
「もてる男は参るね。」
「なぐっていいか。」どうぞ。頭をはたかれる。こういう関係がスキだ。俺の中にもまだスキなことが残っていたんだな。
「正直言っていいか。」
「なにがよ。」晃一はサイダーのペットボトルを開ける。
「俺、どっちかと言えばもう一人の子のほうが気になってるんやけど。」
「ふーん、じゃあさダブルデートしようぜ。あのナホって子も誘ってもらって。バイクで。」晃一はステキな奴だった。
「だけどさ、あの子バイク嫌がってたやんか。」
「大丈夫やって。初対面やから遠慮してたんやって。まぁまかせろや。」俺はどっちだっていいけど。
「よっしゃ、そしたら決まりやな。」おお。でもサンキューとは口に出さなかった。いつでも何かを飲み込んでしまう。
こうして彼とナホのストーリーが始まるわけだ。しかしガルシア・マルケスやファイブ・スター・ストーリーのようにはいかない。彼には郊外のフツウと呼ばれる家と家族がいるだけだ。「フツウ」に自覚的になったのはいつからだろう。ここにフツウの家族Aがいる。彼らは日本の真ん中の地域のミドルクラスのど真ん中の常識で生きている良き人々である。ここにフツウでない家族Bがいる。彼らは日本の端っこに生まれ、端っこの階級の端っこの仕事でもって生きている貧しき人々である。AはBを嫌い、BはAを嫌っていた。しかし時代はいつしか変わり、AとBは両方豊かになった。豊かになるはずだった。経済的な余裕は精神的な余裕をいつくしむ。だからAはBをスキになり、BはAをスキになる。というわけにはならない。それでもAは自分が中心だと譲らず、BはAの自己中心的な態度を非難する。非難は反抗を呼ぶ。マスコミは格好のネタをあげつらう。しかも彼らはそれが自分の使命だと譲らず、まるで列車で席をゆずらない子供みたいに駄々をこねる大衆諸々。多様性はどこにいったんだ。最初から小さき島には村、田、中しかないのか。やがてAは落ちぶれるだろう。Bは自分の勝利を祝うだろう。しかし新婦をエスコートするのは決まって「フツウ」のCなのだ。ここに何か教訓はある?
こうして彼とナホのストーリーが始まるわけだ。




