呪いの中毒患者
人を呪うのは、快感です。
私の死ねという言葉だけで、気にくわない人間がこの世から本当に消えてくれるのですから。
そんなの我慢のしようがないじゃないですか。
誰かを呪うと考えただけで、私は下半身の奥がムズムズと痒くなってきます。
そして終わった後は、何時だってセックスをした時のような、気持ち良い気怠さが身体を包んでくれました。
小中高と至って普通に過ごしてきた私が、その快楽に気が付いたのは最近の事でした。
毎日のように死んでくれと呪っていた上司が、本当に自宅で首を釣ってくれたのです。
私はニタニタと笑いつつ坊さんのお経を聞きました。
葬儀の時、美しい奥様が子犬のように鳴いている姿がとても印象的でした。
二人の間に子供はいないらしいので、直ぐに旦那の両親から離婚届が突きつけられたらしいです。
肩身の狭さに耐えきれなかった奥様も、後を追うように自殺したのだとか。
私はその事を人伝に聞いても、可哀想だとは思いませんでした。
寧ろ、私の言霊には、ここまでの力があったのかと快感に身を震わせていました。
ある時、部下が私の陰口を囁いていました。
暗いだの、トロいだの、散々の言われようだったので、私は彼を殺すことに決めます。
ただ、それでも私の下で数年間は働いていた事もあり、情けにも似た感情が心の中にあったのです。
悩んだ挙げ句、私はせめて苦しまないようにしてあげよう、と思いました。
まあ、結果的に、彼は膨らんだ水死体となって海の上を漂うことになってしまったのですが。
棺桶の中の彼は、化粧されてはいても別人のように顔が崩れていました。
とても感情の判断はできませんでした。
私は新聞の一覧を賑わせたし、派手好きの彼らしい最後なので良しとすることにしました。
ある日、この会社は悪霊に憑かれているからお払いをしようと社長と神主が言い出しました。
仕事にも差し支えるし、めんどうなので消しておきました。
等と、私は調子に乗って殺しすぎたのかもしれません。
社員が誰もいなくなり、会社が倒産してしまったのです。
今思えば、かなり利己的な理由で人を消してきたのかもしれません。
これは流石に反省せねばいけないでしょう。
生きていくための仕事が無くなってしまったのですから。
この不況では満足な職もなく、私には履歴書に書けるようなスキルもありません。
結局の所、実家に戻るしかなかったのです。
「結婚もせず、暢気に出戻った女に用はない。とっとと都会に帰れ」
しかし、父は扉を開けた途端、疲れた私をそう罵りました。
帰省前、どんなに呪いの快楽が凄かろうと、血の繋がった両親だけは殺すまいと誓っていました。
だが、その願いは一瞬で砕け散ったようです。
数日後、父と母は自宅で手を繋ぎ、重なり合うようにして死んでいたらしいです。
それを隣に住んでいた住人が発見してくれたのだとか。
私はその一報を、ホテルで寛ぎながらビールを飲んでいた時に聞きました。
当然、涙は出ませんでした。
私という人間は、これからどうなるのでしょうか。
もしかしたら、凶悪な殺人鬼にでも、なってしまうのでしょうか。
あれぐらいで犯罪者の烙印を押されてしまい、暗い道を歩まねば、ならないのでしょうか。
恐怖で身体が震えました。
しかし、本当は鏡に映っている顔が笑っていることに私は気がついていたのです。