9消えた森
なかなか更新できず、すみません。
必ず完結させますし、あと少しですので、どうぞお付き合いください。
未花さんを助けないと!!森ごと燃やされる!!!
賢太は急いで靴を履くと、全力で森へと走った。
外は呆れる程いい天気で、じりじりと真夏の太陽がシャツからむき出しの腕に照りつける。しかし、そんなことは全くお構いなしに、賢太は走り続けた。
森を焼くと計画をしているハシナミ建設と言えば、確か市長の息のかかった建設会社だ。公共工事のために、無理矢理相場より安い地価で立ち退きをさせたり、言うことを聞かない者に恫喝したなど、荒っぽい噂に枚挙にいとまがない。
そんな奴らだからこそ、何をするか分からない、と賢太は思っていた。それこそ、未花さんなどいないことにして、平気で森に火をかけてもおかしくない連中だ。
「未花さん!」
全力で走ってもなかなか森にたどり着かない足を恨めしく感じながら、何とか森の入口に到着すると、息を整える間も無く、一気に森の中へと、走って行く。
「未花さん!!」
森の入口から大声で叫ぶと、まるで賢太が来るのを知っていたかのように、未花が涼しい顔で森の奥から現れた。今日は学校の制服ではなく、まるで神社の巫女さんみたな、白い着物に紅色の袴を履いている。
「賢太君、どうしたの?」
いつもより少し悲しそうな表情で微笑む未花を見て、賢太は確信した。
未花は全てを知っている。だからこんな顔をするのだと。
「未花さん、今夜森が燃やされることを知ってるんだよね?何してるの?早く逃げないと!」
しかし未花はゆっくり頭を横に振ると、困ったように微笑むばかりで何も言わない。賢太はそんな未花にしびれを切らして、もう一度大きな声で言った。
「未花さん、逃げろよ!!早く、ここから逃げて、安全な場所へ行けよ!!!」
「逃げれないの」
「どうして?!」
思わず声を荒げてはっとする。
未花はただ悲しそうに目を伏せると、澄んだ瞳で賢太を見つめた。
「未花さんっ!!」
驚いて顔を上げると、数人のクラスメイト達がくすくすと賢太を見て笑っている。
あれ?俺はいったい、どうしてここに?
さっきまで森にいたはずなのに、気が付けば賢太は学校の教室の自分の席に座っていた。
「何寝ぼけてんだよ?」
清隆に肩を押されて、周囲を見回す。どうやら今はお昼休みらしい。
「お前さぁ、寝言くらいちゃんと理性で管理しろよ」
清隆は寝起きでぼーっとしている賢太を可笑しそうに睨むと、窓から校庭を指差した。
「ほら、大好きな小坂井さんなら、いつものベンチに一人で座ってるぞ」
清隆の声に、クラス中からどっと笑いが起きる。
あれ?未花さんは、この学校にいないんじゃなかったっけ?
混乱する賢太が顔を真っ赤にしながら校庭を凝視するも、未花はいつも通り小さな本を片手に、校庭の隅にあるベンチに一人で腰かけて本を読んでいた。
その日未花は誰にも気づかれないように早退した。隣の席なのに何故か未花が早退したことに賢太が気づいたのは、帰りの会の後だった。放課後、賢太は一目散に教室を出ると、再び森へと向かう。
不思議なことばかり起きて、頭が混乱しているが、一つだけ真実なのは、今日ハシナミ建設が森に火を着けるということだ。
どうやら森の四方は道路に囲まれているので、一部通行止めにして行うらしい。
森の近くの大通りに、ぱちぱちと木々の燃える音と、焦げ臭い何とも言えない香りが通りに漂い始めると、賢太はいてもたってもいられなくなった。
「未花さん!!」」
息を切らしながら、森の前に到着する。
するとそこにはいつの間に設置されたのか、巨大な防火壁が張り巡らされていて、消防車が数台、放水しながら森に放たれた火と格闘しているところだった。
賢太はバチバチと火の粉の舞う森を眺めながら、急いで森の中へと入ろうと防火壁の隙間を探した。しかし火が全体に回ってしまった森は、最早人の入れる状況ではなかった。
「君、下がって!」
消防士さんに止められて、賢太は頭を激しく横に振る。
「すみません!中に大切な人がいるんです!!助けてください!!」
「森の中に人なんていないよ。とにかく危ないから、下がって」
消防士さんに強引に体を押されて、賢太は思わずむっとする。が、次の瞬間、バチバチと大きな音を立てて森の木々が崩れ落ちるのを目の当たりにすると、賢太は堪らない気持ちになった。
「お願いします!一生のお願いだから、中に入れてください!!森の中に大切な人がいるんです!本当なんです!!」
「だから、中に人なんていないから。ここには誰も住んでいないって、ちゃんと確認済みだから。君は安心して帰りなさい」
「違うんです!!本当にいるんです!!!」
この中には、未花さんがいるんだ!
未花さん、未花さん、未花さん!!
俺は透子ちゃんだけでなく、未花さんを守ることもできないんだろうか。
そんなの嫌だ!
次第に温度の上がる防火壁の隙間から、何とか森へ入ろうとうろうろしていると、見かねた消防士さんに、ついに道路へつまみ出されてしまった。
「お願いです!お願いします。一生のお願いだから、中に入れてください!!!」
「ったく。大変な時に邪魔なんだよ。野次馬したかったらここで黙って見てろよ」
そう言って、強引に押し出されて、賢太の目から涙が溢れる。
未花さん…!!
バチバチと木々が燃える森を眺めながら、賢太はがくんと道路に膝をつくと、人目も憚らず声を上げて泣いた。
いつもありがとうございます。
次話は明後日以降になります。
どうぞよろしくお願い致します!