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万華鏡の森  作者: 日下真佑
8/10

8透子4

今日は何とかアップできました。

どうぞよろしくお願いします。

「何やってるんだ!!」

賢太は怒鳴ると、そのまま部活の鞄を投げ捨てて、主犯の女子の頬を思い切り殴った。拳で殴られて主犯が思わず尻もちをつくと、透子を囲んで面白がっていた男子二人が驚いて目を見開く。しかし賢太が怒りに任せて、今度は見ていた男子の顔を正面から殴りつけると、もう一人の男子は一目散に走り去って行った。

「その手を離せ!!」

勢いの止まらない賢太は、透子を羽交い絞めにしている男子に殴り掛かろと拳を振り上げる。が、

「待ってよ!」

と主犯が殴られた頬を抑えながら、立ち上がった。

「これ以上暴れるなら、透子がどうなってもいいってことだよね?」

腫れあがった頬を痛そうに抑えて、思い切り賢太に凄んだつもりだったらしい。が、今の賢太には全く効果が無かった。というか、完全に逆効果だった。賢太は大股で主犯に近づくと、そのまま主犯の脛を思い切り蹴り飛ばして、もう一発頬に拳を叩きこむ。主犯は呻き声を上げて地面に転がると、そのまま足を引きずりながら怯えた表情で逃げて行った。そんな主犯を見た取り巻きの女子達と透子を羽交い絞めにしていた男子も、主犯の後を追うように、我先にと走り去って行く。

「透子ちゃん、大丈夫?」

肩で息をしながら賢太が顔を覗き込むと、はだけたブラウスを抱き寄せるようにして、透子は嗚咽していた。

「学校へは行けないって連絡して、今日は帰ろう。家まで送るよ」

賢太が透子の頭についた土を払うようにそっと髪に触れようとすると、透子はそんな賢太の手を避けた。

「止めて…もう私に関わらないで!!」

そう言うと、ブラウスを抱きしめたまま、透子は賢太に一瞥もくれず公園から出て行った。


 月曜日になると、学校での賢太のいじめは一気に悪化した。

元々小さな嫌がらせを受けていたが、今回のことでついにクラスの全員だけでなく、他のクラスの一部にも完全に無視されるようになってしまった。

それでも賢太は学級委員の仕事をきちんとこなし、堂々と毎日を過ごしていた。誰も口をきいてくれなくても、卑屈になることは全く無かった。

 透子の家にも毎日顔を出したが、透子は親にどんな説明をしたのか、全く取り次いでもらえなくなった。

そんな重苦しい日々が一か月も続いたある日、賢太の心が凍り付くような事件が起きた。

何と、あの土曜日の公園で取り巻きの誰かがスマホで撮影したらしい透子の下着姿が、SNSでばらまかれてしまったのだ。

男子達は興味本位で画像を冷やかし、女子達は口々に「仮病なのに男子とデートしていたのだから、自業自得」とか、「剣道の自慢ばかりした天罰」と陰口をたたいた。誰も透子に味方をする者のいない中、ようやく透子の母親は、学校へ相談に行くことにしたらしい。

ある日賢太が陰鬱とした気持ちで部活に行くために校庭を歩いていると、透子を乗せた透子の母親の車が校内へ入って行くのが見えた。

あれから一度も会わせてはもらえないけれど、やっと母親に本当のことが言えて、学校に助けを求めることにしたのだと知って、少しほっとした。

 夕方何とか部活を終えて校門の横を見ると、まだ透子の母親の車が止まっていた。

学校に来てから二時間くらい経つのに、随分長い話だな、でも、あれだけのことがあったのだから、当然か。そんなことを考えながら、いつもの交差点を渡ろと信号待ちをしていた時、突然賢太の目の前に一台の車が突っ込んで来た。はっとして目を見開くと、何とその車はさっきまで学校に止まっていた、透子の母親の車だった。

驚いて身を引こうと体を反らすも、賢太の体は猛スピードの車にはねられて、宙を舞う。ドガッと急停車した車のボンネットに体を思い切り叩きつけると、賢太は意識を失った。


 気がつけば、賢太は病院のベッドに寝ていた。

俺は何をしていたのだろう…?

今分かるのは、点滴に繋がれた手、痛む肩と腰、そして…部活の帰りに事故に逢って、病院に運ばれて一命を取り留めたという事実だけ。

お見舞いに来た友人の話によれば、俺は何故か剣道部の女子と一部の男子に目を付けられているんだとか…。

そうか、きっと俺が学級委員とか、部活のレギュラーとか、色々目立つから、嫌がらせされているんだろうな、と漠然と理解した。

何かが足りないようで、でも思い出せなくて…何となくもどかしい感じが心のどこかにあるけれど、それはとても遠くにあって、多分気のせいだとしか思えなかった。

そして、一度だけ透子は母親とお見舞いに来てくれたが、俺はそれがどういう意味なのか、全く思い出すことができなかった。きょとんと訳の分からない反応をする俺を見て、透子は申し訳なさそうに泣いていた。

 二週間後、ようやく退院して学校へ行くと、透子はいなくなっていた。

どうやら見舞いに来てくれた日の夜、自ら命を絶ったらしい。

透子ちゃん…。

賢太は静かに涙を流す目の前の少女に腕を伸ばす。するとさっきまで制服を着た透子だったはずなのに、目の前に立っているのは、いつの間にか未花だった。

「えっ…未花さん?」

賢太が目を疑うように、何度も瞬きすると、未花は静かに笑みを浮かべて賢太を見る。

「…森が燃える前に会えて、本当によかった」


「おーい、賢太、もうすぐ授業だぞ?起きろ!!賢太?!」

何度も名前を呼ばれて、はっと顔を上げる。

いつの間にか居眠りをしていたのか、賢太の前には、清隆と数人のクラスメイトが可笑しそうに笑いを堪えている。

「キヨ、俺…ずっと寝てたの?」

目を擦りながらきょろきょろする賢太の仕草が堪らなく可笑しくて、清隆達はゲラゲラとお腹を抱えて笑い始めた。

「寝ぼけてんじゃねえよ。お前、昼飯食ってから、ずっと爆睡していて、死んだのかと思ったぞ?」

「は?」

周囲を見回すと、二年の教室に、いつものクラスメイト達。しかし賢太の隣の席に未花はいない。

「あれ?小坂井さん、小坂井未花さんは?」

隣の席を指さして、清隆の顔を見ると清隆は呆れたように首を傾げて、賢太を見る。

「頭、大丈夫かよ?お前の隣は西原さんだろう?この学校に小坂井未花なんて子いないよ。それより凄いニュース教えてやろうか?」

「何?」

賢太が身を乗り出すと、清隆は勿体付けたように周囲を見回して、声を潜める。

「あの街の真ん中の不気味な森な、今夜ハシナミ建設が火を着けるらしい。あの森さ、切り倒したりしようとしすると、呪われたみたいに不幸になるだろ?だから、ハシナミ建設があの土地を全部買い取って、火を着けるんだと?勇気あるよな?」

未花さん!!!

賢太は居てもたってもいられなくなって、荷物を鞄に入れる。

「お、おい、まだ午後の授業あるぞ?」

きょとんとする清隆に具合が悪くなったから早引きすると伝えると、賢太はそのまま一目散に教室を後にした。












いつもありがとうございます。

明後日更新予定です。これからも、よろしくお願い致します!

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