6透子2
途中で訂正あるかもしれません。その時はまた、活動報告にてご連絡します。
「あいつらか…こんなことをしたのは」
爆発しそうな気持を必死で抑えながら、賢太は透子を見る。しかし透子はそんな賢太を遠ざけるように、くるりと背を向けると、痛い足を庇いながら、よろよろと走り出した。
「待ってよ!透子ちゃん!」
咄嗟に腕を伸ばして透子のリュックを掴むと、透子は泣き腫らした目で賢太を睨む。
「賢太くんには、関係ないから。もう放っておいて」
「放っておけるわけないだろう?透子ちゃんは俺の…」
世界で一番大切な人と言いかけて、言葉を飲み込む。
今は告白している場合じゃない。
透子は体中を竹刀でぶたれて、悔しくて泣いているのに。
しかし透子は、そんな賢太突き放すように、わざと怖い顔をした。
「賢太くん、これは私の問題だから、関わらないで。お願い」
最後は消え入りそうな声で呟くと、透子は黙って歩き出した。これ以上、剣道部のいじめに賢太を関わらせるわけにはいかなかった。何故なら、今日竹刀でぶってきた主犯の子は、賢太のことが好きだから。私が賢太くんの近くにいたら、賢太くんにも累が及んでしまう。しかし賢太はそんなことで納得なんてできるはずもなく、ぐいっと透子の腕を掴むと、真剣な目で透子を見つめた。
「俺が透子ちゃんを守るから。だから、逃げないでちゃんと話しをして。絶対に、守り切るから。負けないから。だから、一緒に戦おう」
「…賢太くん」
それから二人は、通学路の途中にある公園のベンチで暗くなるまで話しをした。
剣道部の一年女子に最初から気に入られてなかったこと、退部届を出して、先輩に挨拶しようと部活を訪れたら、やられたこと。体が病気で思うように動かないこと。全てを黙って聞くと、賢太は覚悟を決めた。
卑怯な奴らから、絶対に透子ちゃんを守るためにも、こうするのが一番だ。
「透子ちゃん。これからはなるべく俺が傍にいるから。俺が学級委員として、一番の親友として透子ちゃんを守るから。だから一緒にいよう」
「でも、そんなことをしたら賢太くんが…」
「ううん、俺は男だから女子なんかに負けないから安心して。絶対に大丈夫から!」
「賢太くん……」
透子は涙を流しながら、お礼を言うと、久しぶりにほっとしたような優しい顔で微笑んだ。
翌日から、賢太は昼休みや部活動の無い放課後は、透子といるようになった。やはり男の賢太が傍にいるのが邪魔らしく、透子に手出ししてくる女子は一人もいなかった。が、これが悪夢の始まりだった。一週間くらい経つと、透子は再び賢太を避けるようになった。そして透子と賢太が付き合っているというまことしやかな噂がクラス中に流れると、程なく賢太はクラスの一部の男子から、嫌がらせを受けるようになった。
持ち物がゴミ箱に捨てられるのことが多くなり、学級委員である賢太の指示を、透子以外の全員がわざと無視した。しかし賢太はそれでも全くへこたれず、透子をいじめている主犯を何とかしてやっつけようと必死で透子の近くに居続けた。口喧嘩はあまり得意ではなかったけれど、それでも思いつく言葉を駆使して、一生懸命やり返した。
しかしそんな毎日が三週間くらい続いたある日、ついに一番恐れていたことが起こってしまった。
何と、透子がクラスの男子達に、乱暴されそうになったのだ。
泣きながら公園で蹲る透子を偶然見つけて、賢太は目を見開く。
制服は土で汚され、誰がやったのか、透子の胸まであった長い髪は、顎のあたりで滅茶苦茶に切られていた。
「また、あいつらか?!」
賢太が怒りに震える声で呟くと、透子は泣きながら顔を背けた。
「もう私に関わらないでよ!!」
「でも…これは先生にも言わないと!」
「いいから!もう帰って!!」
「髪や制服をこんなにされてもか?おかしいだろう?俺が先生と透子ちゃんの親に言うから」
「やめてよ!!まだ分からないの?!」
透子は涙で真っ赤になった目を上げると、冷たく賢太を見つめた。
もうたくさんだった。賢太が自分を庇えば庇う程、酷い目に合う。そしてこのままでは賢太だって…。
「私、賢太くんのそういう無神経なところ、大嫌い!正直最初から迷惑だったんだよね。もう友達とは思えない。だから、近寄らないで」
「……透子ちゃん」
信じられないと言わんばかりに、呆然とする賢太に、透子は心を鬼にして追い打ちをかけた。
「そもそも最初から、賢太くんなんて好きでもないし。私他に好きな人いるから。さようなら」
そう言うと、透子は一目散に家へと走って行った。
後日聞いた話によると、どうやら先日竹刀で透子を滅多打ちにした剣道部の女子達が、透子を乱暴して欲しいと一部の男子達にお願いしたようだった。女子達は透子を言葉巧みに体育館の裏に呼び出すと、いきなり羽交い絞めにして、持っていたカットばさみで長い髪をめちゃくちゃにしたらしい。そして泣き出した透子の制服を脱がし、地面に捨てると、男子達に乱暴するように命令したのだ。最初は下着姿になった透子に悪ふざけをして喜んでいた男子達だったが、さすがに透子が本気で泣き叫びだして怖くなったのか、そのまま逃げてしまった。
主犯の女子はそんな意気地なしな男子達に舌打ちすると、透子の制服を何度も靴で踏みにじり、ゴミでも見るような目で透子を見下す。
「賢太に助けを求めたら、次は賢太がただじゃ済まないかもね。あんたのせいで、賢太まで、可哀そうだよね」
そう吐き捨てると、そのまま下着姿の透子を置いて、去って行った。
透子は土まみれになった制服を拾うと、仕方なく身に着けて学校を出た。
そして翌日から、透子は学校へ来なくなった。
いつもありがとうございます。
次話も続きますので、どうぞお付き合いください。
これからも、よろしくお願い致します!