2未花の住む森
未花のあとをつけていく、清隆と賢太。
さて、未花の家は本当に森なのでしょうか?
どうぞお楽しみください!
早速下駄箱で靴を履き替えると、賢太は清隆と校門の横に隠れた。どうやったってここを通らなければ、学校を出ることができないからだ。
何人もの下校する生徒をやり過ごし、今か今かと待っていると、しばらくして未花が一人、下駄箱から出て来るのが見えた。
「来たぞ」
興奮したらしい清隆に肩を叩かれて、賢太もドキドキしながら息を潜める。すると未花はまるでそんな二人に気づかないらしく、あっという間に校門から出て行った。しばらくして、少し距離が開いたのを見計らって、清隆は行こう、と合図する。
店の影や街路樹、交差点の人並みに姿を隠しながら、足音を立てないように未花の後ろをついていく。何だか悪いことをしているような、でも知りたいような複雑な気持ちを抱えながら、未花を見失わないように必死だった。
やがて、賑やかな街中から、ひんやりした空気の森の周辺に来ると、二人は息を呑む。
まるで同じ街とは思えないくらい、しんと静まり返って、聞こえて来るのは鳥の鳴き声と時折風に揺れる木々のざわめきだけだ。
やっぱり薄気味悪い場所だな、と賢太は少し怖くなった。
鬱蒼と生い茂る森は昼間でもちょっと暗くて、中から通り魔とか変質者が出て来てもおかしくない。ふと清隆の顔を見ると、奴も少し怖いらしく、やせ我慢しているのが一目で分かる顔をしていた。
「キヨ、もう帰ろうよ。小坂井さんの家がこの辺だって分かったんだしさ」
「いや、だめだ。ここまで来たんだから、やっぱり最後まで本当に森に入って行くのか見ないと」
あくまで諦めない清隆に、賢太は心の中でため息を漏らした。
これは下手したら命がけだよな。
しかしそんなことを考えていると、未花は急にぴたりと足を止め、くるりと後ろを振り返った。
「やべぇ、ばれる」
驚いて小さな声で呟く清隆を一瞥すると、未花は不思議そうに賢太の顔を見る。
賢太がぎこちなく頭を下げると、未花も優しい笑顔で微笑みながら小さく会釈した。
すると突然ざざざざーっと突風のような強い風が吹き、アスファルトの砂埃を巻き上げる。思わず賢太が口元を腕で覆い目を瞑ると、シャランと鈴が鳴るような小さな音がして、風が止んだ。
はっとして目を開けるも、未花の姿はもう無い。
「くそ、風のせいで見失った」
砂の入った目を痛そうに瞬きしながら、清隆は悔しそうに呟いた。
翌日、未花は学校へ来た。清隆や賢太には普通に挨拶をするだけで、帰り道をつけたことなど無かったかのように、何も話しかけて来なかった。そして授業中はあの小さくて几帳面な文字でせっせとノートを取り、昼休みは一番に教室から出て行った。いったいどこへ行くのだろう?と校庭を眺めていると、なんと未花は校庭の端にあるベンチに座りに行ったのだ。
あんな場所に座って、いったい何をするつもりなんだろう?
賢太は目を凝らす。
本を読むわけでも、昼寝をするわけでも、誰かとおしゃべりするわけでもないのに、未花は一人、気持ちよさそうにベンチに座って空を見上げた。
そして十分くらい、ベンチに腰かけて最高に幸せな顔をして過ごすと、当たり前のようにゆっくり教室の自分の席へと戻って来る。
変わった子。賢太には未花の行動が、全く理解できなかった。
いつもお話を読んでくださいまして、本当にありがとうございます。
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