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悲しみで花が咲くものか side-A  作者: 根峯しゅうじ
3/42

平行線

 学部もサークルも同じ。専攻もゼミも同じだった。

 大学入学時、同じ講堂で隣り合わせた初対面の遥と、サークルの新歓コンパでまた隣り合わせたとき、僕はこれは運命だと叫びたかった。

 でも本当に叫んだのは、遥の方だった。



「これって運命よね!」



 程無く我々は周知の間柄(あいだがら)となり、背の高い僕と小柄な遥は、卒業するまでデコボコカップルと呼ばれていた。

 遥は就職先まで同じと考えていたようだが、さすがにそこまでは合わせる訳にはいかない。



「将来が掛かってるんだから、慎重に選ぶべきだ」



 僕は遥を説き伏せ、別の会社へ就職した。

 と言うのは僕の見栄(みえ)。本当言えば第一志望は同じ会社にし、僕は見事に落ちたといったところが正しい。

 結果としてこれで良かったのだ。






 会社帰りに遥と駅で待ち合わせ、一緒に帰る。

 幸い会社の最寄り駅も、路線も僕達は同じだった。遥の実家より、僕の部屋の方が駅四つ向こうだ。

 週に二回はこうして待ち合わせ、遥の実家のあるアパートで食事をする。何かの取り決めでもないけれど、いつの間にか習慣化した行事だった。

 アパートへ着く前に近くのスーパーでビールを買い、遥の母親が喜びそうなスナック菓子も買い込む。


 僕たちは片手で荷物を抱え、空いた方の手を繋ぎ、アパートへと向かう。

 部屋ではすでに順子(じゅんこ)さん(遥の母親は僕に自分を名前で呼ばせた)が夕食の支度を終えたところだった。



「おじゃまします」



 僕はつい今しがた買ってきたビールとスナック菓子が入った買い物袋を順子さんに渡す。



「おっ、気が利くわね~。私の好きなものばかり、ビールも含めて」


 順子さんは嬉しそうに買い物袋を受け取り、我々は食卓につく。


(しょう)君仕事はどう?」


 食事の最中、順子さんに訊ねられてあいまいに答える。


「何というか、何とかって感じです」


「もう、何もわからないわよ、それじゃあ」


 遥が笑いながら僕と順子さんの会話を見ている。


 僕が就職したのは中堅の建設会社で、その頃の僕は本当に日々の業務に追われるばかりで、自分がどこに向かっているのかもわからない状態だった。


「資格取得も大変だって聞いたことあるわよ?」


「それはもう資格ばかりですよ。そっちの方は何とかなるんですが、現場業務が何をしてよいのやら」


「コワいおじさんばかりだもんね」


 遥が割って入り、順子さんも大笑いする。

 食後はビールを飲みながらのスナックタイム。これも恒例の行事だった。

 遥は楽しそうにスナック菓子を広げて言う。


「ご飯食べたっばっかりなのにね」


「別腹、別腹」


 順子さんが言い、我々は乾杯する。



 大学進学を機に一人暮らしをしている僕にはこんな風にして過ごす時間は格別だった。多少気を使うにせよ、実家にいるような気さえした。母子家庭の遥の家では男手がなく、時々頼まれる力仕事も僕には嬉しくて仕方がなかった。



 でもどんなことにも永遠なんてありえない。このあと僕は、そんな当たり前のことさえ学ばねばならないのだ。

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