座敷童
師走も終わりに近づき、僕の働く出版社も浮ついた年末の空気に侵されどこかホワイトノイズのような雰囲気に満たされていた。
そんなときである。僕にこの話が舞い込んだのは。
s県の座敷童が出るという旅館の予約が取れたらしいのだ。
僕はさっそく金田に連絡を取り、二人で宿泊してみることにした。
案の定金田もかなり乗り気な様子で予定を開けてくれた。
僕は急な年末のスケジュール変更に手を焼きながらもどこか浮ついた気持ちを隠し切れずにいた。
s県の山奥、小さな沢と小川に囲まれた土地にその宿は立っていた。
瓦は苔むしており、その間から幾本かの雑草が顔を出していた。
車をできるだけ入り口から近いところに止める。
また山奥か。
そんなことを考えながら金田と部屋に入り荷解きをした。
僕たちの心構えとは裏腹に、そこはただのさびれた宿だった。
かえって不気味なほどの普通さにどこか落胆した僕たちは、有事に備え宿の探索を始めた。
話によると、この宿に泊まった人たちはみな成功し、あるものは地位を得、またあるものは莫大な富を得ているそうだ。
しかしその宿をいくら調べたところでやはり、何の変哲もないのであった。
近くのコンビニで買った食物を食べたのち、僕と金田はしばらく雑談をし床に就くことにした。
あの「鳴く山」の一件から僕と金田は取材の際、警戒を解かず交互に寝たふりをしながら見張りをするようになっていた。
どれくらい時間がたっただろう。見張りをしていた僕は足音が近づいてきたことに気が付いた。
足音は三人以上で、裸足なのかぺたぺたと皮膚が床に張り付くような音を携えていた。
物音を立てないように金田を起こし、二人でその音に耳を澄ます。
僕たちは二人で目を見合わせタイミングを計ると、あらかじめ決めていた方向へ走り出した。
バン!という音を立て布団をめくり、外にある車に向かい一目散に走りだす。
建物があまり大きくないこともあり、出口へはすぐにたどり着くことができた。
少し心に余裕ができ、扉を後ろ手に振り返る。
結論から言うと、それは三人以上ではなかった。
全裸の人の形をした二つのそれは、四つん這いでひじにあたる部分をあり得ない方向に折り曲げながらバタバタと追いかけてきていた。
「それ」と目があった僕は、その瞬間にあることに気づき動けなくなる。
僕の様子に気づいた金田に抱えられ車に乗り込み、そこから脱出することに成功した。
「あのとき何があった」
完全に夜が明け、すこし落ち着いてきたころに聞かれる。
「あのとき僕らを追いかけてきたあの二つの「怪異」その顔に当たる部分には、見まがうわけもない、僕と金田の頭部と瓜二つなものが無造作にも張り付いていた。「まずい、入れ替わられる。」そんな気がした。」
そう言い終わるか終わらないかの時、僕と金田は後ろから車に衝突された。
気づいたとき、僕らは知らない町の病室にいた。
金田は僕よりも重傷だったが、何とか一命をとりとめた。
僕らに突っ込んできた車の運転手は、資産家の男で即死だったらしい。
一体どれだけの人間が「入れ替わられ」富や権力を持ち社会を回しているのだろうか。
そう考えると病床の上でぶるぶると震えずにはいられなかった。
座敷童 完
お久しぶりです。吹っ飛んだ布団です。
私生活が忙しくなかなか創作ができなかったのですが、少しづつ温めていた話を形にすることができました。
少しでも読者の方の世界の見方が変わり、生活に変化を与えることができたなら幸いです。
この話に少しでも興味を持っていただけたなら、他の作品も読んでいただけると助かります。
コメント、感想等お待ちしています。
後日この話を作るうえでの考察などを別シリーズ「考察」に投稿しようと考えているので、ぜひそちらもご拝読ください。
ありがとうございました。