2 鳴く山 後編
構成の関係で、全編を少し編集しました。
一度前編を読んでくださった方も、もう一度目を通していただけるとありがたいです。
僕はいてもたってもいられなくなって走り出した。
「おいどうしたんだよ。」
そういう金田に靴のことを伝えると、
「それは確かなのか、いけるとこまで車で行くぞ」
そう言ってすぐに車にエンジンをかけて追いかけてきた。
この先は何かやばい。
自分の中の何かが強くそう言っていた。
しかし行方不明の少女のことを考えると車を止めることはできなかった。
五分ほど山道を走っただろうか。
急に道がまっすぐになり、開けた場所と大きな、木でできた長方形の箱がいくつか見えた。
「下りるぞ」
そう叫び金田に車を止めさせ、自分はその箱のほうへ走り出す。
真ん中に小さな女の子が倒れているのが見えた。
すぐに駆け寄り周りを見渡す。
少女は四つの箱に囲まれた少し広い石畳の場所に倒れていて、意識はないが脈も呼吸も正常なようだった。
僕たちを囲む木の箱はショーケースのようになっていて、中にはまるでひな人形のようにひな壇があり、その上に古ぼけた大小それぞれの人形がずらりと並んでこっちを見ていた。
僕は追いかけてきた金田に少女が無事であることを伝えると、すぐに少女を移動させようと抱きかかえた。
、、、と、その時である。
僕の後ろから昨日ふもとで聞いたあの、恐ろしい鳴き声がきこえた。
いや、今度は笑っていた。
「ケハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
思わず僕が振り返ると、僕たちの真後ろにあった箱に入った人形の一体が口を歪ませ、笑っていた。
そしてだんだんと、周りにあるほかの人形もそれに共鳴するような形で笑い出した。
僕はすぐに車のほうへ向かい、少女を抱えなおして走りだした。
四角い箱を通りすぎ、車まであと半分かとなったところで
「ここは?]
少女が意識を取り戻した。
僕は彼女の無事に安堵し、少し彼女を支える腕の力が弱まった。
その時である。
急に少女の体が鉛のように重くなった。
思わず少女を落としてしまい、
「痛った。」
少女がそう言った。
続けて、「痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!!!!!!!!!!!!」
明らかに常軌を逸した様子で少女が叫びだした。
少女に駆け寄り様子を見ると、彼女は完全に意識を失い白目をむいていた。
僕らの異変に気付き駆け寄ってきた金田と一緒に人形たちのほうへと這って行こうとする少女を抱きかかえ、車に乗せる。
後部座席に少女を乗せ、全速力で走りだしたころには彼女は
「ケハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
とあの人形たちのように笑い声をあげていた。それからしばらく車を走らせると、彼女も大人しくなり山から聞こえる笑い声も止んだ。
久方ぶりの静寂に安堵しつつ少女の様子を見ると、また眠りについており、脈も呼吸も正常だった。
ふもとまで下りてから、僕たちは警察を呼び事の顛末を話した。
初めはでたらめだと思われ、警察署まで連行されたが長い事情聴取と捜査の末、釈放となった。
僕はその後会社まで戻ったが、警察の関与があったこともありこの体験を記事にすることは叶わなかった
その後、あの時禁足地を囲っていたしめ縄が切れていたことに気付いていた金田が村に連絡をし、改めてあそこにしっかりとした碑や社を建てて供養し直すことになったらしい。
、、、もしあなたが山に行ったとき、聞いたこともないような鳴き声を聞いたら、すぐにそこを離れたほうがいいかもしれない。
或る記者の備忘録 鳴く山 完。
ここまで読み進めていただき、ありがとうございます。
「鳴く山」は何とか早めに更新、完結させることができました。
次は少し系統を変えた話にしたいと思っています。
少しでも面白いと感じていただけたなら、感想、ブックマークよろしくお願いします。