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或る記者の備忘録  作者: 吹っ飛んだ布団
2/5

1,「一つ目」 後編

あの、忘れることができない初仕事から数日後、僕はあの話を聞いた地域、山などについて調べずにはいられなかった。

心の奥には計り知れないほどの恐怖はあったが、それを抑えて余りあるほどの好奇心に駆られていた。


それからどれほどたったのだろう。

僕のデスクには、街の本屋の在庫よりも多いのではないかという量の地図、書籍が高々と積み上げられ、また散乱していた。

しかし、いくら調べ、疑ったところであの老人を襲ったおぞましい出来事や社、小瓶の中身のについての情報は見つからなった。

「事故等で両目を失った老人の妄想」そう割り切ってしまえば辻褄も何もかもすべてきれいに合わさるが、あの老人の剣幕と、底知れぬ好奇心からそうすることができなかった。


ある週末、私はオカルト好きの友人を連れ、あの村に行ってみることにした。

まずはその地域の歴史や地理について調べようと街の役場に向かうことにした。

「わざわざこんな山奥にきて地理を調べたいなんて、初めてですよー」

なんて言いながら、若い女性の職員が僕たちを資料室に案内した。

出版社の名前鵜を借りてアポイントメントをとっていたので事はスムーズに進んだ。

しかしそこにあった資料はどれも見覚えがあり、結局真相は分からなかった。

その旨を職員に話すと、「Kさんなら何か知っているかもしれない」と「Kさん」なる人物に連絡をしてくれた。

しかしKさんはあまり乗り気ではないらしく、話はうまくまとまりそうではなかった。

僕がどうしてもというと話だけは聞いてくれるということで、Kさんの家に行って話をすることになった。

Kさんの家は、件の山を正面に臨む、大きな門に囲まれておりさながら武家屋敷の相貌だった。

僕は、白髪に和服という、いかにもな恰好をしたKさんに事の経緯を話した。

僕の話を険しい表情で聞いていたKさんは、自分には説明の責任がある。

と、その重い口を開いた。


「あの山には,一つ目様と呼ばれる怪異が出るようになった。山道を歩いていると、一つ目様が現れ,

目がくりぬかれる。そんなうわさが広がった。」

「実際に何人かの若者が両目を失った村人の変死体が見つかったこともあった。そしていつしか、あの山は禁足地として誰も近寄らなくなり、私たちの先祖も管理するのをあきらめてしまった。」

「興味深い話ですね」

友人がどこか満足げにそう言った。

確かにその話とあの老人の話はとても良く似ているが、結局僕が一番欲しかったこの怪談の「真相」はその一つ目様の話の中にはなかった。

「その後、一つ目様はどうなったんですか」

僕がそう尋ねると、

「戦後になって私の祖父たちがお祓いをしたと聞いています。」

と、Kさんが返した。

結局それ以上の情報を得ることはできず、僕と友人は東京に帰ることにした。


数週間後、僕の興味がようやく「一つ目様」から離れてきたころに、共にあの村へ行き話を聞いた友人から電話がかかってきた。

僕が電話に出ると友人は興奮した声で、

「わかったんだよ一つ目様の正体が」そう言った。

それを聞いて僕は喜びとも恐怖ともわからない不思議な感覚に襲われた。

「それで、正体は何だったんだ」

「今からおよそ百年ほど前、あの山には旧日本軍の研究施設があったんだよ。そこでは生物兵器が研究され、人体実験も行われていたそうだ。」

「そして俺は、その研究の成果の一つが逃げ出したのが、一つ目様の正体だと思うんだ。」

「きっとあれは、人の眼に寄生する生物兵器だったんだ。」

「それが戦後、施設は打ち壊されてその跡地には成長の早い杉が植えられた。」

「きっと件の老人はその後お祓い、つまり何らかの方法で封印されたその生物兵器を野に放ってしまい、自身もその脅威をうけたんだ。」

そう結論付けた。

僕にはそれが、ただの予測ではなく、証拠に基づかれた事実のように感じられた。


後日、件の老人がいた施設を訪ねたが、老人は僕に事件の顛末を話してからげっそりと弱り、口数も減り、僕と友人が事の真相にたどり着く2,3日ほど前に亡くなってしまったようだった。

僕と友人はその老人の墓に線香をあげ、あの過ぎに覆われた山を見つめながら、日常へと帰るのだった。


そして僕は今でも、「山の中で変死体が見つかった。」と聞くと、その死体に目はあったのかが気になってしまう。これはトラウマか、あるいは職業病と言ってもいいのかもしれない。





それから、「一つ目様」の記事ですっかり人気ライターになってしまった僕は、怪談専門のライターとして取材を続けることになる。

かなり間が空いてしましましたが、後編を書くことができてよかったです。

このシリーズはまだまだ続ける予定なので、ブックマーク、応援等よろしくお願いします。

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