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第20話 日本橋デート

さて、日本橋に到着したわけだけど。


「どこから行く?」

「それよりも、まず昼ごはんやろ」

「あ、忘れてた」

「そういうとこ、やっぱ抜けとるんやから」


 笑われてしまうが、マユが楽しそうなので悪い気はしない。


「で、どこ行く?日本橋はだいぶ(うと)くなっちゃったけど」

「近くに焼き肉のランチやってるところあるねん。どうや?」

「いいね。マユ的にはイチオシ?」

「そやねー。日本橋に来たら、そこで食べてく事が多いわ」

「よし。じゃあ、それに決定!」


 だいたい、その場のノリで適当に選んでもなんとかなるものだ。というわけで、その焼肉店で頼んだランチを頬張りながら会議。


「むぐむぐ。うまい。で、どこから行く?S-Booksとか?」


 S-Booksは、日本橋にある同人系ショップだ。特に、女性向け同人誌を扱っているので、マユと一緒に日本橋を回る時は、巡回ルートに入っていた。


「んぐ。別にユータの行きたいところからでええよ」

「んー、じゃあ、お言葉に甘えて、シリコンビルからでいい?」

「あー。定番やな。じゃ、それでいこか」


 色気のかけらも無いけど、考えてみると、こんな感じで、適当にぶらつくのが僕らのスタイルだった気もする。


 というわけで、さっさと昼ごはんを済ませて、シリコンビルへ。日本でも有数の電子部品店なので、色々買えるのが特徴だ。


「んー、Arudino(アルディーノ)が結構やすいな。買っておくかどうか」


 Arudinoは、ワンボードマイコンと呼ばれる小型コンピュータだ。最近人気の|Raspberry Piラズベリーパイという、小型コンピュータと似た用途でも使われるけど、用途がはっきりしている場合は、こちらの方がいいこともある。


「素朴な疑問なんやけど」

「どしたの?」


 後ろからの声に振り向いたら、マユだった。


「そういうの、秋葉原でもあるんとちゃう?」


 確かに、マユの疑問ももっともだった。


「秋葉原にもあるんだけどね。品揃えとか、特価商品とか微妙に違うんだよ」

「そうなんや。私には違いがよーわからんけど」

「ま、結局、目で見て買いたいってだけなんだ。最近は、通販でもいいし」

「そやねー。今は何でもAmazunの時代やし」

「それが、電子工作の部品はAmazunだと、あんまりなんだよ」

「そうなんや。意外」

「よし。とりあえず、Arudinoを一台買おうっと」


 さっと買うものを決めて、レジに持っていく。


「別に遠慮せんでええんよ?」

「いや、買いたいものは買えたし。じゃ、次はS-Booksに行こう」

「私も、別に新刊出てるかなーっちゅうの眺めるだけなんやけど」


 ということで、さっさと次の場所へ行くことに。あんまり長居しない辺り、僕とマユは似たところがある。


 そして、現在はS-Books店内。


「んー。ちょい高い気もするし。でも、これ、通販されとらんし……」


 同人誌コーナーの前でウンウン悩むマユ。見ると、8000円という値段がついていた。


「これ高くない?他のは、もっと安い気がするけど」

「これ、流通が少なくて、プレミアついとるんよ」


 確かに、同人誌の世界でも、ゲームの世界でもだけど、流通が少ないものにプレミアがつくのはよくあることだ。それにしても-


「腐女子的には、どの辺がぐっと来るの?」

「腐女子ってひとくくりにしたらあかんよ」


 声にドスが効いている。


「え?」

「ユータは、腐女子って言うと何思い浮かべる?」

「えーと、男性同士の恋愛ものを好むっていうか。BLが好きな子っていうか」

「それが浅いんよ」

「と言われても」

「ユータは、「オタクって漫画やアニメの事が好きな人」て言われるとどう思う?」


 僕は、漫画やアニメも嗜むけど、それメインではなくて、電子工作や、あるいは、電子でない工作もするタイプのオタクだ。それを、オタク≒漫画やアニメが好き、と言われると確かに不本意かもしれない。


「それ、全然イメージしてるのと違うってなるかな」

「やろ?やから、腐女子って言うても、千差万別ちゅうことや」

「そっちの方向は理解できないけど、たとえはよくわかったよ」


 しかし、せっかくなら、マユが好きな世界というのを見てみたいな。


「ね。マユ的にはどの同人誌がオススメ?」

「は?」


 マユは何を言っているんだこいつという目で僕を見てきた。


「せっかくだから、マユが好きな世界を共有したいなーと」

「さすがに、男子に、腐女子系のを布教する気にはならんよ」

「そっか。ごめん」


 ちょっと引かれてしまったようだ。


「よし。これ、買うて来るわ」


 8000円の同人誌を買うことに決めたらしいマユ。なんであの位の冊子に8000円も、というのは言ってはいけないのだろう。


 その後も、ゲーセンに行ったり、パソコンコーナーを眺めたりして、たっぷり日本橋を堪能した僕たち。


「何や、あっという間やったなー」


 気がつくと、もう17:00で、空が暗くなっていた。


「デートって感じじゃなかったけど、楽しかったよ」

「ああ、ごめんな。すっかり忘れとったわ」


 少し、しゅんとした様子になるマユ。


「いいって。僕も楽しめたし」


 別に色気のあるデートだけがデートじゃないだろう。


(ただ、考えてみると……)


 まだマユに想いを伝えてない。電気街の真っ只中でムードのかけらもないし、どうしたものかな。


 そんな事を考えていると-


「なあ、ユータ。ちょっとこっち」

「ん?どこか行きたいところがあるの?」

「ええから」


 手を引かれるままに、ついていく僕。着いた先は、人気の少ない裏通りだ。


 ひょっとして、と思う間もなく、


「ちょっと話があるんやけど、聞いてくれる?」


 そんな言葉をマユは発したのだった。

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