想器 魔剣戯具 ~突然、美形の魔剣使いが押し掛けてきた~
ざっくりとした状況説明
主人公である「佐藤 大輝」は、臨海学校で行ったお土産屋さんでよくある感じのおもちゃの魔剣を購入した。
だが、実はその魔剣は、リアルガチでマジものの魔剣だったのである。
力を司る魔剣「ガイフェリュード」
「噛み砕いでわかりやすく説明すると、膨大な数の中学二年生ぐらいの妄想が凝り固まり、マジで現実の世界に現れちゃった感じのヤツである」
自らをそう紹介した魔剣は、契約書に従い、大輝のものとなった。
これにより不思議な力を得た大輝は、思いがけない戦いのうずに巻き込まれることとなったのだ。
と、言うようなことは特になかった。
何しろガイフェリュードは、中二病を拗らせた妄想力が具現化しただけのものであり、別に敵対者とかは一切いないからである!
「っつーか、そういえばガイさんって前に力を司る魔剣だー、って言ってたじゃん? アレってなんなの?」
ポテトチップスを齧りながら、「鈴木 翔」は興味深そうな様子で言った。
翔はガイフェリュードが初めて喋った時にその場に居合わせた、大輝の友人である。
普段から二人はよく遊んでおり、大輝の部屋をたまり場にしていた。
今も少ない小遣いで買ったお菓子を持ち寄り、だべっていたところだ。
最近やっているゲームの話をしているところに急に飛び出してきた言葉に、大輝は不思議そうに首を傾げた。
「ああ? そんなこと言ってたっけか?」
「言ってた言ってた。最初の時」
「マジか。驚きすぎてて全然覚えてないわ。っつーかそんなこと言ったのか?」
大輝は話題に上がっているガイフェリュードの方へ振り返った。
視線の先には、置くだけで充電できるスマホ充電器の上に置かれた、スマホ。
の、ストラップになっているガイフェリュードが居た。
丁度スマホでネットサーフィンをしていたらしく、「うむ?」と気の抜けた声を返してくる。
ちなみに、どういう原理かわからないが、ガイフェリュードは触れることなくスマホを操作することができた。
大輝のスマホの暗証番号も把握しているので、今では好きなようにスマホで遊んでいる。
電池の減りがマッハなので、大輝的には少し控えてほしいと思っていた。
「何の話だったかな」
「いやほら、ガイさんが初めて喋った時の話ですよ。力を司る魔剣、って言ってたじゃないですか」
翔は、どういうわけかガイフェリュードと話すときは敬語を使っていた。
ちなみに、ガイさん、というのは言わずもがなガイフェリュードのことである。
「言ったな。確かに私は力を司っている。契約者に圧倒的な筋力と、それに見合う強固な体を与える力を持っている」
「マジでか。いや、でも俺全然そんなの感じないぞ」
言いながら、大輝は自分の体をまさぐった。
特に力が強くなった、という感じはしないし、何にかが変わったというような様子もない。
「それはそうだ。私が力を発動させるには、ある条件を満たさなければならぬのだ」
「なによ、ある条件って」
「平たく言えばポーズとってなんかそれっぽい呪文をそれっぽく唱えなければならんということである」
「なんてわかりやすぅい」
「すげぇな。なんかわかりやすく中二の妄想の塊みたいな能力だ」
「まさに数多くの中二病エネルギーによって生み出されたのが私であるからな」
「なんかヤダなぁ、その響き」
事実そうらしいだけに、なんとなく思春期特有のモヤっとしたものを感じる。
ちなみに、大輝の方は割とわかりやすい拗らせ系少年だったのだが、翔の方はずっと達観系男子だった。
中学の頃は、いい感じの棒を振り回して決めポーズをとりまくっている大輝を見て、翔がずーっと笑っているといったような関係だったのである。
「いや、なんかいろいろ聞きたいことはあるんだけど。とりあえず、その力って発動すると俺どうなるのよ、具体的に。圧倒的な筋力って言ってもいろいろあるじゃない」
「そうさな。筋力的にはゴリラニ十匹分ぐらいの腕力。強度は、四トントラックにはねられても転生せず、かすり傷ですむ。更に具体的に言うと元ハンマー投げ選手や人類最強系女子ぐらい強くなる」
「マジかよ。大輝、お前無敵じゃん」
「そんな力が。マジでか」
「もっとも、条件の関係で実際にその力を与えるには障害があるのだがな」
「障害? どんな」
「順序だてて話す。さっきも言ったが、私の能力を解放するにはいくつか条件がある。まず、能力を与えられるのは契約者のみ。私と大輝は契約書によって結びつけられているので、条件の一つはクリアしている」
大輝と翔は、無言で壁にかかっている額縁を見据えた。
そこに収められているのは、一枚のレシートだ。
ガイフェリュード曰く、大輝との契約書、である。
まあ、流石にそれは冗談で、もう廃棄しても問題ないらしいのだが。
一応大切なものだと認識しているのは本当なようで、こうして額縁に収められているのだ。
ガイフェリュード自身がアモゾンで見つけてきた、中々おしゃれな品である。
「次に、呪文のようなモノを唱える必要がある」
「呪文とな」
「超越強化術式、第一段階解放。と、唱える」
「中々香ばしいなぁ」
「んー。まぁ、まだ許容の範囲内だろ。大輝が一番ヤバい時に言ってたやつの三割ぐらいだぞ」
「お前そんな風に思ってたの?」
若干ショックを受けたような顔をする大輝から、翔はそっと視線をそらした。
あえて口にしないという優しさである。
「確かに呪文は痛々しいけど、障害と言えるようなものじゃないんじゃないですか?」
「呪文だけならば、そうだろう。だが、もう一つ条件があってな。私の柄を、両手でしっかりと握っていなければならない」
なるほど、魔剣というぐらいだから、そんなような条件もあるのだろう。
マンガや小説に出てくる真っ当な魔剣ならば、である。
だが、ガイフェリュードは魔剣として決定的な欠点があった。
「お前、両手でっていうか。片手ですら握れないじゃん。スマホのストラップサイズなんだし」
そう、ガイフェリュードはお土産物屋さんとかに良く置いてある、魔剣っぽいキーホルダー的外見をしているのだ。
偽物っぽい外見の本物という、実に紛らわしいヤツなのである。
「その通りだ。物理的に持つことは不可能だろう」
「ダメじゃないですか」
「使えねぇーじゃねぇかよ、能力。それじゃあ」
「そうだな。使えない」
なんとも言えないガッカリ感が場を支配した。
「お前、それ、魔剣としてどうなんだ。意味ねぇーじゃんか」
「そもそもが中二病エネルギーが凝り固まってできたのが私だぞ。機能的合理性を求められても困る」
「正論だなぁ」
「ふむ。時に、大輝。そこに木刀があるだろう」
それは、翔が臨海学校の時にテンションが上がって買った、おみやげ物の木刀であった。
家に持って帰ったもののもてあまし、何やかんやで大輝の部屋に持ってきたものである。
大輝の部屋は、割と広いうえに物が少ないので、置き場所には困らないのだ。
「それを机の上に置いてくれないか」
「え? ああ、わかった」
いつもなら「なんでだよ」などと聞いていたことだろう。
だが、話の流れと、妙に力のこもった声に、大輝は気おされたのだ。
言われるままに木刀を持ってきて、それをテーブルの上へ置いた。
翔は、ポテトチップスを齧りながらそれを見守っている。
「置いたけど」
「うむ。その上に、私を乗せてくれ」
「木刀の上に、お前をってこと?」
「そうだ」
まさか、と大輝は思った。
さっき言っていた、物理的な問題を解決する方法があるのかもしれない、と思ったからだ。
この話の流れで木刀の上に自分を乗せろ、というのだから、何か意味があるのだろう。
木刀と一体化するとか、あるいはその形状をコピーするとか。
なんかそんな感じのことをするに違いない。
大輝はしかめっ面をしながらも、内心わくわくが止まらなかった。
慎重な手つきで、そっとガイフェリュードを木刀の上へ置く。
「うむ。すまんな」
「いや、いいけど」
妙な緊張感が、周囲に漂っていた。
誰も一言も発さない時間が、しばらくすぎる。
最初に沈黙を破ったのは、ガイフェリュードだった。
「ふむ。こんなところか」
「なぁ、それ、なんか意味あるのか?」
たまりかねた大輝が訊ねる。
「ん? いや、実物大の武器と彼我の体格差を感じたいと思ってな」
「え、それだけ?」
「それだけも何も、他に何があるというのか」
マジなトーンで言われて、大輝は押し黙る。
ガイフェリュードは不思議そうに「ん?」と言い、すぐに気が付いたように「ああ」と声を出した。
「その、なんだ。すまん。そういう感じのアレでは全くなくてな。期待を持たせてしまったようで、なんといっていいか」
「ガチトーンで謝るの止めろやぁ!! 別に何も期待してねぇーわぁ!!」
「あははははははは!!!」
可哀想な子の相手をするトーンなガイフェリュード。
キレる大輝。
指をさして笑っている翔。
混沌とした状態がしばらく続いたのだが、ふと、翔が笑いを止めた。
窓の外に何か見つけたらしく、身を乗り出している。
大輝の部屋は二階にあるのだが、どうやら翔は道路の方を覗き込んでいるようだった。
「なぁ、大輝。あれ」
「なんだよっ!?」
「いや、あれ」
「ああ!? なに! え、なに?」
ようやく冷静になってきたのか、大輝は肩で息をしながら窓の方へ近づいてくる。
翔は気になっているらしいものの方を、掌を上にして指し示す。
胡乱げな顔で、大輝はそちらに視線を向けた。
そして、「うぉおう」と妙な声を出してのけぞる。
「なに。誰アレ」
窓の外。
家の前の道から、じっと大輝の部屋の方を見上げている人物が居たのだ。
しかも、目がばっちりと合った。
「うそ。知り合いじゃないの?」
「いや、いや?」
大輝はもう一度、外へ顔を向けた。
美形で中性的な顔立ちをしていて、微妙な髪の長さ。
年のころは、おそらく大輝達と同い年ぐらいだろう。
体格から見ても、微妙に性別に判断がつかない。
男と言われれば男に見えるし、女と言われればそのまま納得するような顔立ちだ。
「あんな知り合い居たら絶対忘れねぇーだろ」
「だわなぁ。今はやりのジェンダーフリーってやつかね」
「どうだろうなぁ。いや、待て待て。冷静に見たらアイツ学ラン着てるわ」
「あー、マジだ。顔に当てられて気が付かんかった」
学ランに負けないぐらい、顔面力が強かったのだ。
「まってまって。いや、今はそうとも言えないんじゃない?」
「ほう」
「学ランは男が着る、みたいなのも、ほら。今のご時世。いろいろあるから」
「あー。そうだなぁ。うん」
昨今のジェンダー問題は複雑なのだ。
二人が微妙な気持ちになっていると、見られていることに気が付いたらしい外にいる人が、手招きを始めた。
ものすごく必死な表情で、大振りに手を振っている。
「お前、やっぱ知り合いなんじゃないの? すんごい手ぇふってるよ?」
「いやぁー、んー。やっぱ知らんは。もう、あれだ。直接聞いてみるか」
「ええ? 怖ない?」
引き気味の表情で、翔が言う。
確かに、挙動不審で怖いといえば怖い。
ただ、中性的美形な顔立ちのせいで、その怪しさがだいぶ薄れている。
「美形って得だよな」
「なによ、急に」
「いや、あの人ほら。美形だからだいぶ怪しさが薄らいでるなーって」
「あー。あー。まぁ、うん。そうねぇ。そういう一面はあるわ。確かに」
「俺もイケメンに生まれたかった」
「大輝お前……夢の見すぎるのはやめろよ……」
「ぶちのめすぞテメェ。もういい、とにかくもう、あれだ。あの人に何か用事があるのか聞きに行こう」
「えー、マジかよ」
とりあえず外に出てみると、件の美形の人は驚いたような顔を見せた。
落ち着きを取り戻そうとするかのように深呼吸すると、頭を下げながら大輝達に近づいていくる。
「あの、すみません。変なことして。ちょっとその、どうしてもお聞きしたいことがありまして」
「ああ、いえ」
「あ、自分、田中と言います。一応その、身分証明っていうとあれなんですけど」
そういって、田中と名乗る美形が取り出したのは、生徒手帳だった。
学年を見てい見ると、どうやら大輝達と同い年らしい。
「いや、っていうか、ずいぶん遠くの学校じゃない?」
「あ、はい。まあ、そうなんですけど。どうしてもその、こちらの家にお住まいの方にお聞きしたいことがありまして」
非常に恐縮した様子の田中に、大輝は面食らっていた。
どうも、なにがしかののっぴきならない事情があるらしい。
とはいえ、行動自体から立ち上るような怪しさは感じる。
田中は非常に複雑そうな表情でしばらく言い淀んでいたが、意を決したように口を開いた。
「その、すごく変な話なんですけど。その、お土産物屋さんとかで売ってる、剣のアクセサリーってあるじゃないですか」
剣のアクセサリー。
その単語が出た瞬間、大輝の表情が分かりやすく引きつった。
翔の方は、「声聞いても性別わかんないなぁー」と、別のことが気になっている。
「その、それをですね。お持ちじゃないかなぁー、と。いや! 普通のじゃなくてですね! その、喋る感じの」
「まったっ!」
大輝は両手を広げ、言葉を止めさせた。
「事情は分かりました。とりあえず、あれだ。外でする話でもないんで、中に入りましょう」
一先ず、場所を移すことになった。
まどろっこしい話をしても面倒臭いので、大輝は一気に本題に入ってしまうことにした。
「これが、うちの魔剣です」
「私は力を司る魔剣、ガイフェリュード。大輝と契約をしたものである」
それを見た田中は、がっくりと膝から崩れ落ちた。
胸のあたりをぎゅっと握ると、半泣きのような顔になる。
「よかったぁ……! やっぱり自分だけじゃなかったんですね、魔剣と契約したのって……!」
「うん、まぁ、契約っていうか。レシートですけど」
「ホントですよ。なんですかレシートが契約書って。おかしいでしょう。ああ、そうだ、これが、自分の魔剣です」
そういって田中がズボンのポケットから引っ張り出したのは、財布だった。
鎖などが付いており、その根元のところにいかにも玩具玩具した剣が付けられている。
「私は、知覚を司る魔剣ベータオルティガ。ちなみに名前に特に意味はありません。ベータだから試作品とか、別にアルファがある、とかそういうのもないです」
割と砕けた口調だった。
どうやら魔剣ごとに、性格も違うらしい。
「うわぁ。マジで喋ってる。ガイフェリュード以外の魔剣がしゃべってるの見るのってすげぇ新鮮だわ」
「すげぇー」
「ていうかあれだ。なんで魔剣がここにあるってわかったんです?」
「あ、はい。それはその、彼の能力でして。知覚力を底上げするのと、もう一つ。ほかの超常の力を持つものを感知するっていう能力があるらしいんです」
田中がたまたま電車に乗って、遠出していた時の話だという。
ベータオルティガの感知に、突然なにかが引っ掛かった。
どうも、自分と同じような魔剣らしい。
それを聞いた田中は、大いに慌てて、喜んだ。
臨海学校の時に、テンションが上がって買った魔剣。
それが突然話し始め、そのことを誰にも話せずに抱え込んでいたのだ。
もしかしたら、悩みを共有できる相手になってくれるかもしれない。
田中は必死になって探し回り、一週間ほどかけてようやくこの家を見つけたのだという。
「ていうか、よく一週間で見つけたなぁ」
「なんとなくの方向だけはわかってたんで、何か所か回って、徐々に絞り込んでいったんです。おおよその方向が分かるだけでも、検知した地点と方向を地図にかきこんで行けば、意外と正確に場所が分かりますから」
「どうする大輝。田中くん頭いいぞ。お前とは正反対じゃないの」
「ぶちのめすぞコノヤロウ。っていうか、その、田中くん? ってか、田中さん? あの、失礼なことをうかがうんですが、その、男性なのか女性なのか……」
「ああ、よく言われるんですが。見ての通り、男です。なんか、わかりにくい顔立ちなんですかね」
見ての通りだとわかんねぇから聞いたんだけどなぁ、とは、口にしなかった。
この手の話題は色々と複雑で、突っ込むといろいろと問題が多いのだ。
「っていうか、オイ!! 魔剣テメェ! なんでそっちの田中くんの魔剣は能力発揮できてるんだよっ!!」
「え、大輝くんの魔剣って能力発揮できないんですか?」
「能力の発動条件があるらしくってねぇ」
翔が田中に説明している横で、大輝はガイフェリュードを振り回していた。
「おかしいだろっ! そっちの、べーたなんちゃらってのは能力使ってるっつぅーじゃねぇかよ!」
「人生いろいろ。魔剣もいろいろである」
「ぶっ飛ばすぞテメェ! なんだよこの、理不尽な感じっ! なんで能力使えねぇーんだよ!!」
「世の中というのは理不尽で不平等なものだ。個性とも格差とも呼ばれるものをどう受け止めるかによって、人の生き方というのは大きく異なってくる」
「何もっともらしいこと言ってごまかそうとしてんだウラァ!! せめて魔剣を持った特別感ぐらい味あわせろやっ!!」
「そうは言ってもな。大輝が小さくなるか、我が身がでかくなるかしか方法が無い」
「かもしれないけどもっ!!」
「えー……呪文もわかってるし条件もわかってるのにそれって……なんていうか、醍醐味が無いっていうか。悲しさしかないっていうか」
説明を聞き終えたらしい田中が、ドン引きした様子で大輝の方を見る。
そりゃそうだろう。
せっかく魔剣の持ち主になったのに、何もないのだ。
ただの喋るおもちゃの魔剣だというのなら、あきらめもつく。
というか、ずっとそうだと思っていたわけで、その時は特に悲壮感も感じなかった。
だが、どうせないのだろうと諦めていたものが、実はあるのだという。
にもかかわらず、それは物理的な理由で手にできない。
なんという非情。
なんという悲劇。
蘇りかけた中二病に、これほどの仕打ちはあるだろうかいやない。
しかも目の前に、実際に能力を使えている魔剣を持ってる人が現れるとは。
これが理不尽でなくて、なんというのか。
「えっ、っていうか田中くんの能力ってどういう感じなの? あ、差しさわりあるなら言わなくてもいいんだけど」
「いえ。なんか、すごく知覚が鋭くなるのと、さっきお話した超常の力を感じることができるってぐらいの感じです。っていっても今までガイフェリュード以外の力を感知したことないですけど」
「それはあの、発動条件とかは?」
「特にないです。ちょっと集中すれば発動する感じで。自分と、ベータオルティガ、どっちも能力を使えるので、実質二人分の探知能力がある感じですかね」
「パッシブ!! パッシブスキルじゃねぇーか! おいガイフェリュードこっちにはなんかそういうの無いのかっ!」
「ない」
バッサリである。
大輝は膝から崩れ落ちた。
田中はおろおろしているが、翔は指さして笑っている。
ひとしきり笑って満足したのか、翔は涙を拭きながら田中の方へ向き直った。
「あー、それで、あれだ。なんで苦労してほかの魔剣を持ってる人探してたんです?」
「え、あ、はい。その、すごく不安で」
「ほぉ。不安」
「自分一人で、相談できる相手もいませんでしたから。おもちゃの剣がしゃべるって言っても、誰も信じてくれないかもしれないし。それに、もし直接話してもらっても、万が一ですよ。魔剣の声は自分にしか聞こえてないとかだったらと思うと」
「ああ。それは不安だ。自分が頭おかしくなっただけじゃないかとか悩んじゃう感じの」
「そうなんですよ! ただの妄想じゃないかとか不安で不安で! 本当だったとしたら、それはそれで不安ですし! なんかやばい組織がいるんじゃないかとか、殺されたりしないかってそっちの、いわゆる中二病系の不安が!」
「そうか。そういえばこんな魔剣があるんだから、悪用するやつらとかいそうだわね」
「探知能力とか、そういう連中に悪用されそうじゃないですか。もう、一人だと不安で不安で」
確かに、なんかそういう感じの漫画とかだと探知系の能力者は悪用されがちだ。
まして話す相手もいないとなれば、さぞかし辛かったことだろう。
「まあ、大輝の場合、俺がいたからなぁ。あ、ちなみに俺は魔剣とかそういうの全くないから」
「そうみたいですね。あ、自分の能力でわかるので」
「ああ、そっか。まあ、俺はたまたまガイさんがしゃべった時に居合わせただけなんだけど。そうか、俺のおかげで大輝は不安に苛まれずに済んだわけだ。良かったな」
「うるせぇ!! 今俺に話しかけんなっ!!」
「まぁまぁ。ここに不安と戦ってた人が居るんだぞ。そういうところから見ればお前はまだ恵まれてる方だってば」
そういわれると返す言葉もなく、大輝は納得いかな気な表情のまま身を起こし、座りなおした。
「そうかもしれんけどさ。っていうか、ほかに魔剣持ってるやつ見つけて、どうするつもりだったんです?」
「いや、特にこれと言ってあったわけでは。もしかしたら魔剣を持った人の組織とかあるかなぁーとか中二的なことを思ったりもしたんですが、大輝さんそういうのご存じでは?」
「全然。俺もあるいはそういうのがあって接触してくるかなぁーとは思ったんですけど。ガイフェリュード以外の魔剣見るのって、ベータなんたらが初めてだし。それ関連で接触してきたのって田中が初めてだし」
「政府の秘密機関が接触してきたりは?」
「全くないですね」
「そうですか……なんか……こう、複雑ですね」
「ね」
なんか不思議な力を得た学生としては、何かしらそういうのに惹かれる所はある。
いや、実際惹かれるなどという話ではない。
めちゃくちゃ憧れていた。
授業中に突然美少女が現れて、「君が必要なの、一緒に来て」とか言われねぇかなとか、すっごい妄想している。
「ぶっちゃけ、田中くんが女の子だったらな、って思いはあった」
「それはなんていうか。自分も同じですよ、そりゃ。定番じゃないですか。能力を持ってる女の子の先輩的な感じの」
「もう、いっそ翔が女の子になれよ」
「お前、俺が女の子になったとして、そういう対象に見れるのん?」
「ごめん無理だわ……ちくしょう……世の中理不尽すぎるだろ……あんまりだ……」
「時に、ガイさんがしゃべったのって、ちょうど一か月ぐらい前だよな?」
「ああ、そうね」
翔の質問に、大輝は壁にかかっていたカレンダーに目を向けて頷いた。
「田中くんところのベーさんがしゃべったのって、いつぐらいだったんですのん?」
「二か月ちょい前ぐらいだと思います」
「その間、お互いにそういうのからの接触はなかったわけだ。でも、これから先もないとは限らないよね?」
確かに、その通りだ。
高々一か月二か月程度、しかもほとんど目立つようなこともしていないのに、発見される方がどうなのかとも思える。
「田中くんがガイさんを見つけられたのも、それに特化した能力だったからだし。しかも、たまたまちょこっと感知したのがきっかけだったわけでしょ?」
「はい。ほとんど偶然でした」
「じゃあ、やっぱりまだそういう連中が二人を見つけてないだけかもしれないじゃない?」
「そうかもしれないな。言われてみれば」
政府にしてもなんかよくわからない悪の組織にしても、まだ二人に接触して来ていないだけで、実際には存在しているのかもしれない。
そういう可能性、あるいは恐れは、まだ消えたわけではないのだ。
「ど、どうすればいいんですかね」
不安げな顔をする田中に、翔は肩をすくめて見せる。
「とりあえず、お互いに何か変わったことがあったら連絡を取り合う、とかじゃない? 万が一の時のために、お互いの連絡先と住所、住んでる場所位は把握しといたほうがいいと思うよ」
「そう、だよな。あ、でもスマホが水没したり、奪われたりするかもしれないし」
「暗記しておいた方がいいかもしれませんね」
「あ、あと田中くんの家にも行ってみたほうがいいんじゃない? 場所確認しておいた方がいいってこともあるでしょ。もちろん、田中くんが嫌じゃなければ、だけど」
「いえ、むしろお願いしたいぐらいですよ。何かあっても、安心できますし。でも、有り難いですね。相談できる人がたくさんいるって。そんなこと、自分には思いつきませんでした」
「ガイさんがしゃべってから、大輝とあれやこれや話してたからね。いろんなシチュエーション。それを思い出しただけよ」
「いろんなトークしたからな。まあ、何かあったとしても、頭が三つもあればどうにでもなるだろ」
「俺、魔剣持ってないのに巻き込まれる感じなのかぁ」
そういいながらも、翔はまんざらでもなさそうな顔で笑った。
この後、三人はお互いに連絡先を交換し、互いの家の場所を確認した。
半年ほど経っても政府の謎の部門も、謎の組織も現れなかった、が。
友達は増えた。