第13話 裏町と奴隷商
とある酒場で黒いローブを深く被った男達3人は丸いテーブルの上にビールの入ったジョッキを乗せて話し合っていた。
「あいつまだ帰ってこないのですか?」
「いつものことだ。あいついつもウロウロして此処には余り戻ってこないだろ」
「ならあいつの事を放っておいて次の作戦を決めましょう!」
「ちっ、あいつこんな時に限って居ないとか本当に面倒だな」
男はイライラしながら片手にビールを掴み全て飲み干す。
「おい!ビールを追加だ!」
「あいよ!」
カウンターにいた男がアギトが飲んだ空のジョッキと入れ替えにビールの入ったジョッキを置いていく。
「さて、話を始めようか。まずはあの王様の飼っている魔物を倒さないと行けないわけだが殺せそうか?」
「それは大丈夫だぜ!手配通りに配置に着かせましたからね!」
「そうか、なら取り敢えずはあの厄介な魔物を倒してから次の作戦に移動しよう」
「わっかりやした!」
「アギトさん、少しよろしいですか?」
一切喋らなかったもう1人の男がアギトに喋りかける。
「なんだカースト」
「次の作戦で王様を殺した後地下にいるあの人達はどうするのですか?」
「そういやーいたな。そうだな〜あいつらも殺すか」
「ではこの私に任せていただけないでしょうか?」
「何故だ?」
「いや〜直ぐには殺さず痛めつけて泣き叫ぶ姿を見ながら殺りたいのですよ!あ〜想像するだけでも興奮してきました!楽しみです!」
男は席を立ち上がり息を荒くしながら興奮をしていた。
本当にこいつのやる事は分からん。まーでも手も省けるし任せておくか。
「いいだろう。存分に楽しめ」
「はい〜!ありがとうございます!」
「お礼なんていい。そんな事よりも今すぐに出来そうか?」
「勿論ですとも!ただ…」
「ただ何だリット?」
リットと呼ばれた男は一口ビールを飲んで真剣に話しだす。
「何者かに俺達の下っ端がやられたと報告がきた。魔法を上手く使えない奴らだが腕はいいはずだ」
「それでお前は何が言いたい?」
「そんな奴らが怯えて帰ってきたってよ。化物が居たと何度も繰り返しながら。だからあの城の奴以外にも警戒しないといけない奴がいるってことだ」
「そうか。ならまずはそいつらの始末をした方がいいだろう」
「それはやめた方が良いかと思いますよ?」
興奮しているカーストと呼ばれる男はその話に同意ではなかった。
「何故だ?」
「そんな奴らを相手にしたって楽しめないじゃないですか。それにそんな奴らに時間をかけるよりも早くこの王国を乗っ取ってアギトさんの国にしちゃいましょうよ」
「…そうだな。お前はいつもおかしいがその頭脳だけは買っている。この計画を考えたのもお前だからな。お前が言うのならそうなんだろう」
そこからカーストは一切喋る事なく、アギトとリットの2人だけで話が進んでいった。
本当に楽しみですよ。あの王様はすぐに殺さないといけないので残念ですがその代わりに地下にはおもちゃが沢山あります。存分に楽しめそうです。ふ、ふふふふ。
「あ、アギトさん。何かカーストさんが不気味なのですが…」
「気にするな」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ではこちらに」
「分かりました」
ギルドの奥に案内したもらった隆介とミズナは、迷宮の最深部よりは低いがそこそこ大きい空間に来ていた。
う〜ん…全部出すべきかな?でも余り目立ちたくないしここは5匹だけにするか。
アイテムボックスから取り出す振りをして〈無限収納〉からミズナが倒した黒い狼2匹と白い狼1匹、赤いゴブリンを1体取り出す。
「これで全部です」
「……えっ?」
「嘘…だろ?」
すると受付の人と魔物を解体をしてくれる男性が唖然とした表情で魔物を見ていた。
何だろ?もしかして倒しちゃいけない魔物だったとか!?動物保護の対象に入ってたり?よ、良かった〜解体しなくて…そう言う問題じゃないですね。これは言い逃れが…。
「あ、あの〜もしかして倒しちゃいけなかったですか?もしそうでしたら〜『き、君!この魔物をどうやったら綺麗に倒せるんだ!』『こ、こんなに綺麗に持ってきた人初めてですよ!』えっ?」
突然2人は隆介の元にぐわっ!と目を見開き近づいてきた。
「あ、えっと〜」
「それにこの魔物はランクCとランクB+の魔物です!
通常の狼は魔法を使えずランクBですが、黒狼は闇魔法を使える狼で白狼は光魔法が使える狼です!2匹ともその為一つ上がったB+の魔物ですよ!こちらのフレイムゴブリンは全身に炎を纏って攻撃する特殊な個体です!火の耐性もあり、本来ゴブリンが苦手とされている魔法を杖なしで火魔法を放つ事ができます!その為ゴブリン・ロードと同じくCに含まれます!今日登録したばかりの冒険者がこんなにも凄い人とは思いませんでした!」
「それをこんなにも綺麗に倒してしまうなんてあんたらは一体何者なんだ?」
受付の人は興奮しながら魔物の説明をして最後には目をキラキラとさせながらグイッ!と隆介に近づき、男は魔物をチラッと見て隆介とミズナの顔を見る。
これは面倒な事になりそうだな…。
う〜んと隆介がしていると、ミズナがトントンと肩を叩いてきて任せて!と言わんばかりの顔をしている。無論無表情だがその時の隆介はかっこよく見えた。
「これは私達がやったのではありません」
「えっ?そうなんですか?」
「ん、マスターと私がこの魔物に襲われていたら誰かが助けてくれた」
「そ、そうだったんですね!お二人とも怪我とかは大丈夫ですか!」
「大丈夫」
「大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
俺達の心配をしてくれるなんて何と良い人なんだ!
「ほ、本当ですか?色んな冒険者の方を見てきていますが次の日にはその人が来なくなったりとかがあるので心配です。ですがこの魔物が出るって事は奥まで行っていたみたいなので今度からは気をつけて下さいね」
「はは、今度からは気をつけますね」
「ん、気をつける」
隆介は誤魔化す様に苦笑いして、今度から気をつけようと心の中で思った。
「にしてもえっと〜誰だっけ?」
「あ、俺の名前はゼロです。こちらはパートナーのミズナ」
「私はミズナ」
「そうか、俺の名前はルキルだ。ギルドでは魔物の解体を担当している!よろしくな」
「私はギルドの受付係のリーフです。よろしくお願いしますゼロさんミズナさん」
挨拶が終わり再度ルキルは2人に話し出す。
「この魔物を綺麗に倒したって言う人物はどんな人なんだ?」
「ん、それは分からない。性別もフードを被ってて見えなかった」
「そ、そうか。そんな奴がいるなら是非ギルドに入ってほしかったが分からないのであればしょうがない。兎に角2人とも無事で良かったよ」
「はい!」
「ん」
ルキルは分からないならしょうがないと諦めて魔物の解体を始める。
良い人たちで本当に良かったよ。
「では本題に入らせていただきます。この魔物は傷がなく全ての部位を解体する事が可能です。買取なのですが黒狼と白狼を合わせて白金貨3枚と大金貨6枚となります。1匹白金貨1枚と大金貨2枚で両方とも同じ値段で買い取らせていただきます。こちらのフレイムゴブリンですが相場よりは高いのですが小金貨2枚とこれが限界です」
て事は日本円で362万円かな?いや凄すぎだろ。ミズナのお陰で何体かは残ってるけど全部売ったら凄い値段になりそう。まだ売らないけど。取り敢えずこんなにも大金が入ったら持ち歩くの嫌だな〜。
「ありがとうございます。その〜そちらで預けておくのは可能でしょうか?」
「可能ですよ!」
「ではお願いします」
「かしこまりました。では戻っていただき少しお待ち下さい」
受付の人に言われた通りギルドの酒場に戻ってきた2人は長椅子に座って待つ事にする。
さっきから先輩冒険者の人達がこっちを見てこそこそしてるけどやっぱり目立つよな〜。俺は別に好きで絡まれてるわけじゃないよ。面倒方は極力避けたいけどこればっかりはもうしょうがない。明日の決闘は直ぐに終わらせると目立つから時間をかけてやるか…。別に俺TUEEE!!何て事をする気はない。そんな事する奴はただの目立ちたがりの奴だ。例えるなら豪華みたいな奴。目立たずどう立ち回るかが俺にとっては重要なんだ。地味にやるのが一番いい。
それにもう一つ目立つとすればミズナだな。美少女のミズナの事を見て誘おうとする男は多いだろう。今も見て分かるがミズナが1人になるタイミングを見張るかの様にそわそわしながら見ているからな。だから1人にしたら他の野郎どもにナンパさせる可能性は充分にあり得る。なるべく今は1人にしない方がいいな。
「お待たせしました!」
奥から戻ってきたリーフは手にカードを持っていた。それを確認した2人は長椅子から立ち上がり受付カウンターまで歩いて行く。
「ではこちらの金銭カードにゼロさんの魔力を流して登録をして下さい…あっ!ギルドカードについてまだ説明していない所がありました!先程作っていただいたギルドカードですがゼロさんの魔力を流してもらえれば完全に登録完了となります。万が一落として無くしてしまっても自動的に自分の所に戻ってくるようになっています」
「へぇ〜便利ですね!ご丁寧にありがとうございます!」
「いえいえ、では早速おいくらにされますか?」
「そうですね〜」
へぇ〜結構便利なんだなギルドカード。万が一落としても自分の所に戻ってくるなら心配はないな。さてさて、いくら手持ちに持っておこう。流石に白金貨3枚は持ち歩きたく無いから大金貨3枚でいいかな。日本円にして30万円分。
「大金貨3枚は手持ちに持っておくのでそれ以外は全部預けます」
「かしこまりました。この金銭カードの説明をさせていただきます。万が一落とした場合でもギルドカード同様自動的に自分の所に戻ってくるようになっております。この金銭カードに魔力を流す事によっていくら入っているか分かります。他の王都のギルドに行ってお金を下ろしたい場合は自分の物であると最初に魔力を流していただき、確認が取れた上でお金を出していただく事が可能です。以上です」
「説明ありがとうございます」
「はい!」
隆介は早速ギルドカードと金銭カードに魔力を流して登録をする。ミズナもギルドカードに登録をして完了する。
「登録完了しましたね。ではまた少しお待ちください」
近くにある魔道具らしき物に金銭カードを挟むと一瞬だけパァと光直ぐ収まる。
「記入完了しました。どうぞ」
「ありがとうございます」
「ゼロさん達はその後どうされますか?」
「あ、そうだ!風呂付きの宿ってここからどうやって行けばいいですか?」
「風呂付きの宿でしたらここを出てもらい、そこから大通りに戻って右に曲がり、真っ直ぐ行って右に大きな建物があるのでそこです!近くに[ランクBの領域]に入る為の門が近くにあるので分かるかと!」
「分かりました!」
受付のリーフにお礼を言った後早速その場所まで移動を始める。
いや〜やっぱり日本人と言えば風呂だよな!
グゥ〜…。
「マスター?」
「ご、ごめん。そう言えば今は〜もう14時か。屋台で色々食べたとは言え少しお腹すいてきたな。取り敢えず何処かお店に入って食べるとするか。ミズナが食べ物を生み出せるとは言えこの世界の変わった料理を食べてみたいからね」
「了解」
人が賑わう道に出た2人は何処かいいお店が無いかとキョロキョロしながら探していると、いきなりドスッ!とお腹に誰かが当たってきた。
「うおっと!?」
「居たぞ!あいつを捕まえろ!」
「えっ?」
「うっ…」
下を見るとそこにはボサボサで霞んだ空色の髪、黄色の瞳、かなり痩せ細って所々にアザができている小学生ぐらいの少女が黒い首輪を嵌め、ボロボロな茶色の服らしき物を着た少女が隆介にぶつかり倒れていた。すると道の向こうからは2人の兵士が物凄い怒りながら走って来ていた。
「やっと捕まえたぞ!早く戻れ!」
「この子は一体?」
「お前には関係ない!」
「うぐっ!」
すると男の兵士は倒れ込んでいる少女の右腕を無理やり掴み、引きずって行こうとしていた。
この兵士の野郎!小さい女の子をこんな扱いして良いわけあるかよ!
「おい待てよ!」
「何だ?」
「その女の子を離せ!」
「あっ?何言ってんだお前?てかこいつは奴隷だぞ?見えてないのか?首には[奴隷の首輪]が付いてるし右手の甲にはランクEの刻印がされてるんだぞ?」
兵士はそう言って強く握っていた少女の腕を離すと、少女の右腕には真っ赤になった兵士の手後が付いていた。そして兵士は隆介に見せつける様に地面に倒れている少女の[奴隷の首輪]を掴んでこいつは奴隷だ!と持ち上げ、首輪と右手の甲に刻まれている刻印を見せる。その時少女は苦しそうにして目からは涙が出てきていた。
「こんな価値のない奴は処分するか奴隷の道しか無いんだよ!」
「ふざけるな!」
いきなり隆介は声を上げて怒る。すると何事か?と周りにいた人達がこちらを見ていた。見ている人がいる中隆介は兵士2人を殴ろうとしたが問題になるので手をギュッとして我慢をする。
「俺はランクがEだろうが無かろうがそんな事をする奴は許さない!」
「何だと!俺達に逆らうってのか!」
「お前俺達に逆らっていいと思ってるのか?」
少女の首輪を掴んでいた兵士は少女を捨てる様に投げ捨てて隆介に怒り、もう1人の兵士も脅すよ様に言う。
こいつら!やっぱり殴らないと気がおさまらん!
「落ち着いてマスター」
「ミズナ?」
「なら私達がその子を貰う」
「えっ?」
隆介が兵士2人にキレていると、ゆったりとした声でミズナは隆介を止める。そして何とミズナはその少女を貰うと言って隆介はびっくりした。
あの子を貰う?そんな事が可能なのか?でも確かにこれしかあの子を救う方法は無いな。それにミズナのお陰で何とか少しだけ怒りが収まったよ。けどこいつらがしている事は絶対に許さない!
「ほーう?そちらのお嬢さんがそのゴミを貰うと?」
「その子はゴミじゃない。1人の人間」
「まーいい。こんなゴミを貰ってくれるのならあげてやる…と言いたい所だが俺らにはそんな権利はない。こいつは奴隷商から脱走したと俺らの所に話がきて捕まえた奴だ」
「そうだな。こいつが欲しいなら奴隷商に行くといい。案内はしてやる。無論ただじゃないぞ?今回お前らがした無礼を無くしてやるんだ。大金貨2枚寄越しな。それでチャラにしてやる」
「ん」
「冒険者ランクEの奴が何故こんなに大金を持ってるのかは知らんが確かに受け取った。案内してやる」
ミズナが兵士2人に大金貨2枚をスゥと渡すと兵士の男は倒れて気絶している少女を無視して案内してやるとゆっくりとだが歩いていく。
「ミズナありがとうな。ミズナがいなかったらこのままあいつらを殴ってたよ」
「ん、役に立てて良かった」
相変わらず無表情だが頭を優しく撫でると、アホ毛がゆらゆらとゆっくり左右に揺れて、喜んでいるのが分かった。
「取り敢えずこの子は俺が背負って連れて行くよ」
「了解マスター」
隆介は少女の方に近づきゆっくりと抱き上げ、背中に背負う。
軽いな。この子相当苦労してきたんだな。でももう大丈夫。俺達が助けるからな。
兵士について行く事数分、太陽の光が入らない暗い道にどんどんと入って行くと、お店らしき建物が見えてきた。その近くには太った男性が手に紙を持って馬車の中から[奴隷の首輪]を付けた子供や大人達に指示をしていた。
この道を数分歩いたけどテレビでやってたスラム街より酷いぞここ。血の痕跡があるし人の気配は感じるけど人が一切いない。でも妙だな…。もしここが本当にそう言う所であるのなら何故こんなにも建物などは綺麗なのか。血の痕跡があるとは言え最近になってこの様な状態になったとしか言いようがない。
「おい客を連れて来たぞ!」
「おやおや?お客さんですか。今は手が離せないので先にお店に入って待って下さい。中で私の助手がお茶の準備をしてくれると思うのでゆっくりとしていってくださいね」
忙しいのか手に持った紙を見たまま隆介達にお店に入る様言った。
「てな訳だ。案内はここで終わりだ」
「俺達は仕事がまだあるんだ。もう面倒事を起こすなよ?次お前らが俺達に刃向かったら人生終わりと思っておけ」
兵士の男は声を低くして隆介とミズナを脅す様に言った後、そのまま来た道を戻っていった。
はぁ〜なんか今日は疲れるな。あの人が言った様に先にお店の中に入って終わるのを待つとするか。
「お邪魔します」
「いらっしゃいませ。お客様ですね。今テイルさんは奴隷の値段などを付けて整理しているのでこちらのソファーで少々お待ち下さい。待っている間はこの私サンドが担当させていただきます」
中に入るとそこにはいい服を着た男性が頭を下げて2人をソファーえと誘導する。そして隆介はと言うと大きいソファーの上にゆっくりと少女を乗せて、その隣に隆介とミズナが座る。
「うん?そちらは脱走した奴隷ではないですか。どうしてあなた達が?」
「それは〜」
男にこの子が何故一緒にいるのかを話したら急に頭を下げてきた。
「も、申し訳ございません!」
「あ、頭を上げてください!」
「いいえ、ランクEの奴隷がお客さまにぶつかって言い訳がございません!必ず後で罰を与えるので今回は無かった事にしていただけませんか?」
隆介は思った。こいつもかと。やはりこの世界のランクEの存在は酷いものだと。だが隆介は我慢をしてある事を言う。
「そんな事はしなくていいですよ。今日ここに来たのはその子を貰うために来たんです」
「なんと!その奴隷を買っていただけるのですね!なるほどお客様は自ら手を下したいと。分かりました。その奴隷の無礼を考慮して今回は特別お安くしてもらう様テイルさんに言っておきますね。ではお茶をお出ししますので少々お待ち下さい」
サンドは再度頭を下げて店の奥に入っていった。
俺は別にこの子に酷い事をする気は一切無いんだけどな〜。やっぱりこう言う扱いになってしまうものなんだな。奴隷ってこの世界では人権が無いと分からされる瞬間だな。うん?あの頑丈そうな鉄の扉の奥には何があるんだ?
「お待ちさせて申し訳ございません。このお店の責任者テイル=コレラスと言います。テイルとお呼びください。それで今日はどう言ったご用事で?」
頑丈そうな鉄の扉を見ていると、お店の入り口から先程奴隷を馬車から下ろしていた太った男性が白いハンカチで顔を拭きながらニコニコとこちらにやってきた。
「急に来てしまったすみません。オ、私の名前はゼロです。今日ここに来たのはこの子を貰おうと思いまして来させていただきました」
「この子?…ん?そちらはここから脱走した奴隷ではないですか。何故貴方達と一緒に?」
サンドと同じくテイルも何故隆介達と一緒にいるのかを不思議に思っていたので同じ説明をする…前にサンドが高そうなティーカップをテーブルに置いてお茶を入れてくれたのでそれを少し飲む。うん美味しい。
少し飲んだ後テイルに説明をしようとするとサンドがテイルの横に来て説明をしてくれる。
「なるほど。分かりました。私が管理していた奴隷がゼロ様に大変ご迷惑をかけたと。本当に申し訳ございません」
「いえいえ!この子は迷惑をかける様な事はしておりません!私も不注意だったのが悪いのです!」
「何とお優しいお方。今回はこちらの奴隷がご迷惑をおかけしたという事で価格は半額とさせていただきます。すいませんがタダとはいきません。こちらにも生活と言うものがありますので」
と、またハンカチでテカテカに光っている顔を拭いて困った様な顔をする。
人をお金で買いたくはないけどこの子を救う為にもお金を払わないといけないのか…。
「分かりました。払わせていただきます」
「ありがとうございます。ではその奴隷は本来大金貨4枚ですが今回の事もあって大金貨2枚です。ランクEと言う事もあって元々お安いのですがこれよりもお安くさていただきました。お値段はこれ以上下げる事は不可能です。それでも大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です」
「ありがとうございます。手続きをさせて貰いますが[奴隷の首輪]か[奴隷紋]どちらに致しますか?奴隷紋の場合は小金貨1枚必要となります」
「奴隷紋?」
「ご存知ではないのですか?ではこちらについて説明をさせていただきますね」
テイルは[奴隷の首輪]と[奴隷紋]について説明を始めた。
なるほど。簡単に纏めると[奴隷の首輪]はその名前の通り首に首輪を付けていかにも奴隷!と言った感じが出て、契約する時に元から付いている首輪に自分の魔力を流すと契約が完了するみたい。無論主人の命令は絶対。[奴隷紋]の場合は自分の血を奴隷の左右どちらかの手の甲に垂らして〈奴隷術〉を発動させる。すると手の甲に刻印が浮かび出て同じく主人の命令には逆らえなくなるとか。でも刻印を何かで隠してしまえば奴隷と分からなくてなるみたい。
「説明は以上です。それではどちらに致しますか?」
勿論迷う事は無い!
「奴隷紋でお願いします!」
「かしこまりました。では右手の甲にはランクEの刻印がありますので左手の甲に契約をさせて貰いますね。では先に大金貨2枚と小金貨1枚下さい」
「大金貨3枚しか無いのですが大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。サンドお釣りの小金貨9枚持ってきて下さい」
「かしこまりました」
「では早速始めましょう」
隆介は隣で気絶している少女の左手を優しく掴み、小さい針で自分の親指を刺して血を出した後左手の甲に押す。それを見たテイルは〈奴隷術〉を発動させて契約する。すると少女の左手の甲にはランクEの刻印とはまた違った刻印が浮かび出てきた。
「これで契約は完了です」
「ありがとうございます」
「いえいえ、他に奴隷を買っていきますか?」
「それは〜大丈夫です」
「分かりました」
契約が完了して帰ろうとするとあっ!と思い出し、気になった事をテイルに聞いてみる事にした。
「帰る前にすいません。気になったのですがあちらの扉の奥には何があるんですか?」
「あちら〜…あ〜あそこですか。あそこの扉は犯罪奴隷と欠損の激しい者などがおります。ですが余りオススメは致しません」
「そう…ですか。ちょと入ってもよろしいですか?」
「う〜んゼロ様が入りたいのでしたらいいのですが…」
頑丈そうな鉄の扉の事をテイルに聞くと少し困った様な顔をしてどうしても言うのならと言った感じになっていた。
犯罪奴隷は無論買わないけど、欠損の激しい子の方にもしかしてら救える子がいるかも知れない。今の俺の〈回復魔法〉なら。
「大丈夫です。私は構いません」
「分かりました。ですが覚悟をしておいて下さい。刺激的な光景なので」
「はい」
頑丈そうな鉄の扉の前まで歩いて行き、テイルはその扉の鍵を鍵穴に差し込む。
「ミズナはその子を見といてくれ」
「了解マスター」
「ではテイルさんお願いします」
「分かりました」
扉を開けて中に入ると目の前にはもう一枚頑丈そうな鉄の扉があった。
「これは犯罪奴隷が脱走しないよう扉が二重になっております。ここから先は酷いですか覚悟はありますか?」
「大丈夫です!」
「分かりました。では扉の開けますね」
隆介はごくりと唾を飲み込み、扉の向こうの光景を見る覚悟を決める。そしてテイルは鍵穴に鍵を差し込みゆっくりと開けると…。
「うっ!」
扉を開けると中は鉄の匂いが充満して、衛生面が酷いのか悪臭が半端ない状況だった。
これは酷い!
「大丈夫ですがゼロ様?」
「はい何とか」
「では少しこちらの説明をさせていただきます」
最初説明をしてくれたのは手前が犯罪奴隷で奥が欠損の激しい奴隷という事。まず犯罪奴隷というのは罪を犯した者や、死刑にする程でも無い存在が奴隷に落とされることを言う。無論犯罪奴隷はランク関係なく奴隷商で買われることもなく、鉱山などで強制労働させられるなど、過激な運命を辿る悲しい者。言えば過激労働をさせて働かせると言うのは死刑よりも辛い場所。
次に欠損の激しい奴隷。この奴隷は一部が欠けており、労働もできず死を待つばかりの存在。酷い場合は奴隷を買った冒険者が盾代わりとして使い、その盾代わりとされた奴隷が魔物に食われて両足や両腕などが無くなり、捨てられた者が死なずに生きている状態の奴隷。貴族の娯楽に使われ酷い事をされた者。例えば拷問遊びなどをして手足や顔をめちゃくちゃにされて一部が無くなった者。
これを聞いて俺はそんな事をする奴らは絶対に許さないと思ったがそれが口に出ていた様で、テイルさんにはゼロ様の様や方は珍しいと言われた。遠回しに変な人という事だろうけど流石にお客に対しては言わないのだろう。
「説明は以上です。お戻りになられますか?」
「いえ、先に進みます」
「か、かしこまりました」
テイルは少し困った様な顔をしたが直ぐに切り替え先導をしていく。
歩いていく中で犯罪奴隷の人達がギラギラとした目付きで此方を見てきている。その目は今にもこいつらを殺してやると言った殺意が丸出しの状態だった。
怖すぎる…。そんなにも殺意丸出しで此方を見ないでほしい。てな訳で少し…。
「ヒィ!?」
「ビックリさせるな!うるさいぞ!」
「どうかされましたか?」
「この犯罪奴隷が急に叫んで驚かせてきたので首輪の権限を使って黙らせました。仮奴隷とは言えゼロ様大変失礼しました」
「私は大丈夫ですよ。奥に行きましょう」
こちらにガンを飛ばしていた1人の男が急に大きい声を出して何かに驚いた様な反応をした為、テイルはその犯罪奴隷に怒り命令をする。するとその男はぶるぶるとしているが一切声が出なくなった。
やれやれいきなり大声出されると俺もビックリするよ。なんて少しあの男に例のやつをやったのが原因だけどな。死なない程度に。
異臭を我慢しながらテイルの後をついて行くとそこには何ともいない状態の人達が項垂れていた。
「ここが欠損奴隷がいるエリアです。では先程の説明の続きをさせていただきます。このエリアの手前は犯罪をした者が欠損奴隷となった者がおります。次に奥にいる欠損奴隷はランク関係なく奴隷となった者が貴族や冒険者に買われ、壊れたからと捨てられたり売られたりとした奴隷がおります」
「ランク関係なく…ですか?」
「はい、大抵は決闘などをして負けた者が奴隷となり売られる者達ですね。そうですね、ここ最近ですと若い冒険者が奴隷となって売られているのを見かけました。ゼロ様どうですか?私のお店にもここ最近入った若い冒険者がいるのですが買って行かれますか?」
いい笑顔でどうですか?と手をこねながら隆介に売ろうとしていたので少し悩む事にした。
もしかしたらその冒険者って俺と同じくあいつらみたいな奴が決闘を申し込んで負けた者がここに落ちた可能もあるな。救ってやりたいが…。
「今は余り手持ちが無いので残念ですが無理そうです」
「そうですか。ではお戻りになられますか?」
「いえ、少し奥を見てもよろしいですか?」
「どうぞどうぞ」
テイルに案内されて犯罪をした方の欠損奴隷ではなく普通の欠損奴隷の方を見て行くとそこには鉄の匂いが充満して、霞んだ空色の髪の毛に黒ずんだ血がベッタリと付いており、目が潰れて、右手と左手が無くなった小さな女の子が横に倒れていた。
※この世界のお金について少し細かく説明をさせていただきます。
・黒金貨は白金貨10枚
・白金貨は大金貨10枚
・大金貨は小金貨10枚
・小金貨は大銀貨10枚
・大銀貨は小銀貨10枚
・小銀貨は銅貨10枚
となっております。
日本円に変えると
・黒金貨一枚1000万円
・白金貨一枚100万円
・大金貨一枚10万円
・小金貨一枚1万円
・大銀貨一枚1000円
・小銀貨一枚100円
です。
次回も見てくれると嬉しいです!




