第9話 木の精霊と貧しい人達
「オラッ!早く寄越せ!」
「は、はい!今お持ちします!ですのでどうかこの村の人達に危害を加えないで下さい!」
とある小さな村の中、ボロボロで痩せ細った1人の老人が真っ黒なローブのフードを深くかぶった4人の男達に囲まれていた。
「あーあー本当に何度来てもきったねぇなぁこの村のクソども達」
「本当だぜ。こんな低ランクどもの村なんか焼いてしまえばいいものを」
「それはいけませんよ〜?焼いてしまえば村になっている折角の食料が台無しです〜。まーこの村の人達はどうでもいいので殺してしまっても問題ないでしょうがね〜。いくらでも変えはいますから〜」
「それは禁止だ。そんな事したらボスに怒られてしまうぞ?」
「分かってますよ〜アギトちゃん」
「殺すぞラビリス」
「嫌だな〜ほんの冗談ですよ〜」
アギトと呼ばれるリーダー格の男がその男に対して殺気を出していると、老人を先頭に食料が乗った荷車を、男3人がローブの男達の元に引いて持ってきていた。
「お?きたな。ちゃんとあるんだろうな?」
「は、はい!」
「そうかそうか。ご苦労さんよ」
「で、では…」
「あ〜約束してやるよ。半年間はこの村を潰さない事をな。ただ半年後、その時用意が出来てなかったらお前達全員奴隷行きだ。その事を忘れるなよ?」
「あ、ありがとうございます!」
「と、忘れるところだったぜ。今回王がもう一つ欲しいものがあると言っていた」
「そ、それは何でしょうか?」
するとアギトはニヤリとし、指である場所を示していた。
「なぁ!?ほ、本当に王はこの村の宝を!」
こ、この木をあの王が!?くぅ…まさかあの王がこの木の秘密を知ってしまったというのか…。これから儂達はどう生きていけばいいのじゃ…。いや、半年後にはもう儂達全員奴隷に…。
「なんだ?王を疑うのか?」
「い、いえ!とんでもございません!王の命令とあれば何でもお渡しします!」
「ふぅ、当たり前だ。ならこれをもらってゆくぞ?」
「は、はい!どうぞ!」
するとアギトは木の近くまで歩いて行き、地面に手をつけて何かを始める。
ちょうどここらへんにあるな。これをこうしてやれば根っこを傷つけずに回収ができる。さて、始めるか。
「はぁ!」
ゴゴゴゴゴゴ!
アギトが地面に向かって魔法を発動させると木の周りに亀裂が円状に入る。そして土を操って一気に引き抜く。
流石アギトさんですね〜。ランクB+で土魔法の適性がB+なだけあります〜。いや〜怒らせたら死んじゃいますね〜ヤバイですね〜。
「さて、この木を回収をして帰るぞ。リット手伝え」
「了解だぜアギトさん!」
2人が地面に手を付けて魔法を発動させた瞬間木が移動するように荷車の方に向かう。だが肝心なことを忘れていた。
「…これどうやって持ち帰るんだ?」
「あ、アギトさん?」
「ではもう一台荷車をもらってその上に置けばいいのでは〜?そしてこの村の人達に王の城まで運ばせるってのはどうでしょうか〜?」
う〜んと言っているアギトの隣にラビリスが気配を消して近づきそっと耳元で囁く。
「気配を消しても俺には無駄だそ?だが確かにそれもありだな。よし、おいそこのお前!」
「は、はい!」
「荷車をもう一台持ってこい!それと何人か人を連れてこい!わかったか!」
「か、かしこまりました!」
荷車を引っ張っていた1人の男に命令をして持ってくるように言う。そして数分が経つと空の荷車を引っ張った男1人と、その後ろから痩せ細った男6人が歩いてきた。
「きたな。よしリット!一気にこの木を荷車の上に乗せるぞ!」
「わっかりやした!」
2人は土を操り、荷車の上に木を載せる。
まーこれで何とか運べるだろ。たく、ランクEの最下位国を支配する王は一体何がしたいのか分からんが、今は任務を全うしなければならない。いつかこの国を俺が支配するまでは、な。その為にも俺はランクEで満足してるあの王に従ってるふりをして暗殺のチャンスを見つける。暗殺したら一気に戦争を仕掛けて俺はこの世界の最高ランク者になってみせる!ふはははは!とと、今はそのようなことを考えてる暇はないな。あの短気な王を怒らせたらめんどくさい。
「完了だな。さてお前ら!今からこの食料と木を王の元に届ける!ついてこい!」
「「「「「「「「「「かしこまりました…」」」」」」」」」」
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見事白神龍王を討伐した2人は迷宮から脱出することに成功した。が…何故か隆介だけは一面緑と色とりどりな花が広がる自然の世界にいた。
「何処なんだろここ?ミズナもいないしまさか俺だけ違う所に飛ばされたのか?…うおっ!?」
辺りをキョロキョロしていると目の前に緑色の光が出現した。
『あなたがあの方の子供、隆介様ですね。私は木の精霊ドリーと申します。安心してください隆介様。この世界は私が作り出した世界です』
「えっ!?」
何だろうと思っているといきなり緑の光が喋り出した為驚いていた。
ビックリした〜!この光の正体は精霊だったんだ!
『驚かせてすみません隆介様』
「い、いえ!大丈夫です!」
『本当にすみません。その…この世界を一時的に作ったのには理由があります』
「理由ですか?」
『はい、本当は上の方に頼むのは失礼だと分かっております。ですが今の私にはあそこから抜け出すのは困難です。どうか私を助けて下さい』
「上の方?取り敢えず分かりました」
『やっぱり無理ですよね…えっ!?本当ですか!いいんですか!』
断れると思っていた木の精霊はやっぱり無理かと思っていると秒で答えた隆介に驚いていた。
誰かを助けるのなんて当たり前だ。考えなくても答えは決まっている。
「いいですよ。あなたのことをかならず助けます」
『ありがとうございます隆介様!』
喜んでいるのか緑色の光がチカチカするように光っている。
これは喜んでくれてるのかな?
「それで私は何をすれば宜しいでしょうか?」
『はい!今現在隆介様達がいる所から南にずっと進んでいただけたら村が見えます。目印は隆介様達の近くにある一つだけ倒れている木が南に進む道です。その村からもう少し先に行った所にあるレストリア王国のお城に私は囚われています。場所はお城の地下です』
「レストリア王国の城の地下…うん。覚えました!ドリーさんを必ず助けます。待っててください」
『ありがとうございます隆介様。それと…本当に申し訳ないと思っていますがもう一つ私のお願いを聞いてもらえないでしょうか』
「はい。いいですよ!」
『本当に感謝します。私のもう一つのお願いはレストリア王国に向かう途中にある村に寄っていただけないでしょうか?』
「村ですね?分かりました。あ、その前に少しよろしいでしょうか?」
レストリア王国に行く前に鈴菜達と合流しないといけないし、合流した後どうやって城から抜け出すのかも考えないとな。それにこの世界のお金を持っていないからレストリア王国に向かうための準備しないといけない。その為にも少しの間稼がないと。
『はい』
「私の友達と合流してからでも宜しいでしょうか?お金もある程度稼ぎたいのでその後と言うわけにはいかないですか?」
『そうですね…隆介様のお友達の方は今何処にいらっしゃいますか?』
「ウルド王国のお城に多分いると思います」
『ウルド王国ですか…。すみません今隆介様達がいる場所はウルド王国からかなり離れた森の中にいます。そこからですと約一ヶ月かかるかと』
「…えっ?」
今一ヶ月と聞こえてのだが一週間と間違えじゃないよな?聞き間違えか?それとも本当なのか?
『すみません隆介様、これは本当です。現在隆介様達がいるのは魔素の森と言われている所です』
「魔素?」
『はい、魔素とは自身の魔力に変換する為に働くエネルギーです。この魔素の森ではその名の通り、魔素がとても濃い森の為、本来人は来れないのです』
「何で来れないのですか?」
『それはこの森には魔素溜まりといってこの濃い魔素を生み出している核があるのです。この濃い魔素を人が数分だけでも浴び続けると体が耐えれなくなり、死んでしまいます。ですので誰もここには入らない…入れないのです。ですが安心してください、隆介様はあの方の子供です。このぐらいの瘴気でしたら何ともありません。それともう一つ、この森にはとても凶暴な魔物が沢山いますので要注意して下さい。すみません、もう限界のようです。どうかよろしくお願いします隆介様…』
最後の方は弱々しくなっていき、光も小さくなって消えてしまった。それとともに空間に捻れができて、隆介も意識が薄れていく。
また気になる言葉が出てきたな。いったい何のことだろ?あの方の子供?うっ…眠気…。
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「う〜ん…」
うん?何か頭に当たってる?鈴菜か美菜のどっちかが…違うか。そうか、あの空間から戻ってきたんだ。ならミズキがしてくれてるのか。
「ん?おはようマスター」
「おはようミズナ」
隆介が起きた事に気づいたミズナは、真っ直ぐ前を向いていた顔を下に下げて、無表情でじっと見つめくる。
「ん、マスターあの迷宮から出た瞬間糸が切れるように倒れた。ヒヤヒヤした。でもマスターが起きて良かった」
「そうだったのか。心配かけたな」
膝枕をされている状態で、隆介は手をミズナの頭に乗せてナデナデすると、アホ毛をぶんぶんとして、薄らとだが無表情だった顔が緩んだ。
「さて、起き上がるか」
「もう大丈夫?」
「大丈夫だよ」
ミズナに、大丈夫と言って起き上がるとそこには目を疑うような光景が広がっていた。
なん…だこれ?
「ミズナこれは一体?」
「ん?」
「その…この山のように積まれた魔物達は?」
隆介が起き上がり、周りを見渡した瞬間目に入った最初の光景が山のように積まれた狼などの生物だった。
「これはマスターを襲おうとした悪い子達」
「達?」
「ん、いきなり集団で襲いかかってきたから倒した。ダメ?」
「いや、ダメじゃないけど…」
これって迷宮と違って消えないのか。地上の魔物は消えずに自分達で解体するけど迷宮の魔物達は消えてドロップ式なのか。これはまた一つ学んだな。
「ん?」
「ミズナは怪我とか大丈夫なのか?」
「このぐらい大丈夫」
「そっか…怪我なくてよかったよ。眠ってる間助けてくれてありがとな」
「当然のことしただけ」
「それでもだよ」
「ん…」
笑顔でミズナにありがとうと言うと、少しだけミズナの頬が緩んだ。
そうだ!ドリーさんが言ってた村に向かわないと!確かここの近くに一つだけ倒れてる木があるって…あった。こっちが南だな。
「ミズナ、いきなりで悪いけどそろそろ移動しよっか」
「了解マスター」
「と、この山どうしよう」
「持ち帰る?」
「そうだな〜そうするか」
魔物の山に近づいて、手をかざす。これを売って金にするか。この世界にギルド?があるはずだし。異世界と言えば。
「この山を全て収納!」
すると、大量に積まれていた魔物の山は綺麗さっぱり消えていく。
おー!これは便利!
「収納完了!さて行こっか!」
「ん、了解マスター」
収納した後はひたすら南に進んでいく。その道中一切魔物が出てこなかったことに疑問を持ちながら1時間ほど歩いていく。
さて、今は何時だ…11時か。もうそんなに経ったんだな。村はまだ見えないし少し休憩するか。ステータスも上げたいし。
「ミズナ、少し休憩しよ」」
「了解。はいマスター」
「おっ?ありがとう」
「ん」
ミズナが何処からか出した木の椅子を隆介に渡す。更にテーブルが何もない所から出てくることにビックリした。
「普通に受け取ったけど何処から出してるんだ?」
「マスターの記憶にあったから生み出した」
「うん?今何と?」
「マスターの記憶を元に私が想像して生み出した」
「てことはミズナに俺の記憶が入っているってことか?」
「ん、そう言うこと。でもぼやけるところがあるから全ては見えない」
「そ、そっか。ならよかった」
2人は椅子に座ってゆっくりとする。テーブルを挟んで目の前に座ったミズナは、ジーと隆介の顔を見ていた。その間ゆらゆらとアホ毛が揺れている。
気にしたら負けだ。今は残り6回分のステータスを上げるか。まずは体力ないから体力あげるか。
「ランク操作!ランク2UP!〈体力〉を指定!」
〈承知しました。〈体力E〉を2UPさせます〉4/12
〈体力E〉→〈体力D〉
「よし、次は…の前に[〈神眼〉保留選択!]」
〈承知しました。表示します〉
〈火魔法E〉
〈探知妨害E〉
〈王の威圧_〉
〈光魔法E〉
〈聖剣召喚_〉
〈自動範囲回復E〉
〈風魔法E〉
〈威圧E〉
〈狂気化_〉
〈回復魔法E〉
〈回復強化E〉
「選択!〈回復魔法〉!」
〈承知しました。〈回復魔法E〉を獲得します〉1/2
〈回復魔法E〉
対象の外傷を癒す。
「よし!もう一つ![選択!〈自動範囲回復〉!]」
〈承知しました。〈自動範囲回復E〉を獲得します〉0/2
〈自動範囲回復E〉
自身の周囲5メートル以内にいる味方を自動的に回復させる。ただし多ければ多いほど魔力の消費が早い。オン、オフの切り替えが可能。
「これでこれだな[ランク操作!ランク2UP!〈回復魔法〉を指定!]」
〈承知しました。〈回復魔法E〉を2UPさせます〉2/12
〈回復魔法D〉
対象の外傷を少しだけ早く癒す。傷跡が残らないようになる。
うん、そんなものか…。次だ次!
「ランク操作!ランク2UP!〈魔力〉を指定!」
〈承知しました。〈魔力E+〉を2UPさせます〉0/12
〈魔力E+〉→〈魔力D+〉
「終わり!いまステータスどうなってんだろ?称号とか加護とかも増えてるから、少しチラッとだけ見て見るか。説明は村についてからでもいいだろうし」
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名:天草隆介 年齢15歳
性別:男
種族:人間
ランク:B
体力:D
魔力:D+
腕力:E
敏捷:E
防御:E
魔防:E
運: E
魔法:〈雷魔法E〉〈闇魔法E〉〈土魔法E〉〈回復魔法D〉
ユニーク魔法:〈鑑定SSS〉〈偽造SSS〉〈結界E+〉〈万能_〉〈危機探知E〉〈自動範囲回復E〉〈多言語理解_〉
〇☆◇#€*□:〈ランク操作S〉〈無限収納_〉〈神眼_〉〈特殊変身_〉〈魔法転送_〉〈アバター創造_〉
称号:〈転移者〉〈SSS習得者〉〈ランク操作する者〉〈創造神の寵愛〉〈生み出す者〉〈地獄迷宮突破者〉〈白神龍王討伐者〉
加護:〈創造神の加護〉〈召喚の加護〉〈白神龍王の加護〉
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あ〜うん。凄く見にくくなったな。整理したいけど無理そうだしもういいや。新しく手に入れた魔法が〈回復魔法〉〈自動範囲回復〉〈特殊変身〉〈魔法転送〉〈アバター創造〉で、称号が〈生み出す者〉〈地獄迷宮突破者〉〈白神龍王討伐者〉、加護が〈召喚の加護〉と〈白神龍王の加護〉だな。うん、何で白神龍王を討伐したことになってるのか不明。地獄迷宮突破も。
「あ、そういえば」
「ん?」
気になることがもう一つあったな。
「ミズナって何もない所から色々出せるの?俺を守ってくれた時出していた大きい盾とか今みたいに椅子やテーブルとか」
「ん、色々は出せない。マスターの記憶の元で生み出しているから。魔力もたくさん使う」
「そ、そっか。その〜生み出して欲しい物があるけどいいかな?」
「ん、マスターの頼みなら」
「本当か!」
それならやっぱりこれだよな!この世界にあるか知らないけどあの武器を作ってもらおう!
そんなことを考えている隆介とは違い、ミズナはじっと隆介の顔を見て何かを頼もうとしていた。
な、何だ?
「その代わり私の頼み聞いてマスター」
「お、おお、できる範囲でなら」
「なら立ってマスター」
「わ、分かった」
するとミズナが椅子から立ち上がり、隆介の元まで歩いていくと、いきなり両手をバット広げて隆介に近づいていく。
「うん、いい」
「んん!?ミ、ミズナさん?これは?」
「ハグ?」
「何で疑問系?」
急に隆介をギュッとハグをしたミズナは、顔を胸に埋めてすりすりしていた。
「マスターの記憶の中に誰かがマスターをギュッとしてたから私もしてみた。それとマスターが嬉しそうだったから。どう?」
「そ、そう言う事か。その…恥ずかしいからもういいか?」
「ん…マスター?」
「ツゥ!あ、ああ嬉しいよ。だからもういい?」
「良かった」
ギュッとしたまま上目使いで再度聞いてきたミズナを見て、ドキッとした隆介は、顔を晒して答える。
よく耐えた俺!これは流石に卑怯だミズナ。可愛すぎるだろ!
でも喜んでくれた?みたいだからいいか。無表情で分からんが。
「そ、それでお願いしても?」
「ん、何でも聞いて」
「そ、それじゃー…」
早速頼んだ物をミズナが作り始める。少し時間がかかるのか目をずっと閉じて集中していた。
やっぱり難しいよな…。
それから数分が経ち、ミズナの両手が急に光だした。
「できた」
「おー!これは!」
ミズナの手に持っていたのは機械の形をした鋼色の丸い玉だった。
「マスターが言っていた物を作るの難しかった。これでいいマスター?」
「これでいいよ!流石ミズナ!
「ん、マスターが喜んでくれて良かった」
「ああ!最高だよ!まさか変形自在の武器、[機械の核]を触る時が来るとは!」
これはもう一つのキャラで使っていた装備、機械の核。この核は鈴菜が獲得した物だ。サーバーにたったの1つしかない超がつくほどの激レア装備。あれは凄かった。全サーバー戦の大会で1位の人しかもらえない超激レア装備を鈴菜は何もなかったかのように一位を獲って核を獲得したものだからその日口が塞がらなかったよ。
この核の能力はゲームの場合、職によって変形する装備。因みにサブキャラの職はサムライ。だからこの核が変形する武器は機械刀…刀。能力は全てのステータスを最大値まで上げることができる。相手の防御を無視した攻撃。刃こぼれメーターが下がらない。最強に相応しい能力を持っていた。サブキャラで勝ったんだよ?もう凄かった。このキャラが歩くだけで写真撮ろ!とか、一人対何十人のPvPしたりとか色々目立ちまくったな。それと操作してるのが鈴菜、女だと分かると媚びてくる男どもがいたから正直イラッときた。だからついボイチャで、彼女じゃないけど嘘ついて、彼女に手を出したら許さんぞ?とか他にも言ったけど今に思うとめちゃくちゃ恥ずかしい。とと、早く行かないと。
「よし!行こうミズナ!」
「ん」
隆介は〈無限収納〉に[機械の核]を入れて、再び2人は歩き出す。数分が経っても道中やはり魔物が出てこないことに疑問を思い、ミズナに聞いてみることにした。
ミズナが倒してくれたあの魔物以来全く見ないな。ちょと聞いてみるか。何か知ってるかもしれんし。
「ミズナ」
「ん?」
「さっきからずっと魔物が出てこないけど何でか分かる?」
「ん、それは魔物よけ使ってるから」
「魔物よけ?」
魔物よけってあれだよな?魔物を引きつけない匂いとか超音波とかの。
「そう。これが魔物よけ」
「この鈴がそうなのか?」
腰につけていた小さな銀色の鈴を外して、隆介に見せる。
「ん、この鈴が魔物よけ。魔物が嫌う精密度な超音波が付与されている。だから寄ってこない」
「そうだったのか。いつ作ったんだ?」
「マスターが倒れて魔物が襲ってきた後に直ぐ作った」
「流石ミズナ。何か色々ありがとな」
「ん、全てはマスターの為」
「あはは…」
それからどんだけ歩いたのだろう。同じように見える草木の道をひたすら歩いて行くが村が全く見えてこなかった。お腹が空いたので道中食べれそうな魔物を狩って焼いて食べたが、あまり美味しくなく、食べるのをやめた。
「はぁ〜…お菓子ばかり作らずに料理もしとけば良かった…」
「もぐもぐ」
「ミズナは普通に食べてるけど大丈夫なのか?」
「むぐ?」
「良さそうだな」
普通に食べてるミズナの横顔を見ながら考え事をしてると、ふと何かが遠くから聞こえてきた。
「……け…」
「うん?何か今聞こえなかったか?」
「んぐ、ん、聞こえた。向こうから。これは…血の匂い?」
「それは本当か!なら早く助けに行かないと!」
「ん、〈加速〉」
「うおっ!?」
声が聞こえる方に向かって走り出した隆介に、ミズナが加速の魔法を発動させると、走る速度が更に速くなった。
急に魔法を発動させないでほしいよ…でもこれで速く助けに行ける!
隆介を先頭に声が聞こえた方に走っていくと、そこには巨大な豚が3体おり、囲まれるようにボロボロの服を着た1人の男性が、右腕から血を流し、尻餅をついて怯えていた。
「ミズナお願い!」
「ん」
隆介が後ろを走っていたミズナにお願いすると、更に加速して巨大な豚の所に向かう。
そして…
「えい」
「「「ぶぎゃーーー!?」」」
ミズナが放った光魔法により、跡形も無く消滅する。
流石ミズナだ!
「大丈夫ですか!今回復しますね!」
「は、はい!あ、ありがとうございます!助かりました!」
隆介が男性の元に駆けつけて、急いで回復魔法を発動させる。すると血が止まり、傷跡も綺麗に無くなった。助かった男性は、感謝するように涙を流して、隆介の手を握る。
「一体何があったんですか?」
「それは…はぁ!?そうでした!急がないと!冒険者の方!助けてくださってありがとうございます!お礼は必ずします!ですので今回はすみません!」
慌てるようにしてある方に走っていった。
う〜ん…心配だな。あの様子だと何か会ったのかも知れん。それにちょうどそっちに行く予定だから、この先に村があるかも知れん。行けばあの男性に会えるかも。
「よし、あの男性が向かった先に村があるかも知れないから、急いで行こうか」
「了解」
男性が走っていった方に隆介達も走って向かうと、そこには木の柵で囲まれた少し大きな村があった。
「ここがドリーさんが言っていた場所なのか。でも何だろ?活気がないって言うか…」
「そ、そこの人!わ、私達の村にな、何かようですか!」
「うん?」
村の周囲を歩いてふらふらとしていると、門にいた1人の若い男性がクワを持って警戒していた。その男性も本当に食べてるの?って感じで痩せ細っており、ボロボロになった服や靴を着けていた。
「あ〜すみません。決して怪しいものではありません。俺達は世界を旅してるただの旅人です。怪しい行動をとっていたらすみません」
「ほ、本当に旅人なのですか?」
「はい、まだ旅の途中でして今泊まる所を探していたのです。もしよろしければ一日泊めてもらっても宜しいですか?勿論ただとは言いません」
「…しょ、少々お待ちしてもらっても宜しいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
相手を警戒させないように、ニコッとしながら返事をすると、若い男性は少し考えた後、一度確認する為に中に入っていった。
「はぁ〜あの男分かりやすいな」
「ん?」
「いや、何でもないよ」
ミズナは気づいてないみたいだけどあの男凄いミズナの事見てたな。チラチラと。やっぱり目立つのかなミズナの格好。それに好意的な目で見てたのも分かりやすい。
そんな事を思いながら数分待っていると、中から白髪の老人が出てきた。
「貴方達が旅の方ですね?」
「はい」
「話は聞いております。何もない所ですがゆっくりとしていってください。おもてなしもしたいですが今は何もないできません。大変に申し訳ございません」
「あ、いえいえ!泊めてもらえるだけでも助かります!今日一日お願いします」
「すまんの〜。ではこちらに」
老人に導かれるように中に入っていくと、そこにはボロボロの服を着ており、痩せ細った人達がいた。
これは酷い…。
「自己紹介がまだじゃたの。儂はこの村の村長をしているケートスと言います。宜しく頼みます」
「そ、村長さんでしたか!これは失礼しました。お、私の名前は〜…」
と、ふと自分の名前を言っていいものかと考えた。
ウルド王国の王達はきっと自分がもう死んでいるものだと思ってるはず。なら、ここは自分の名前を会えて伏せて、違う名前にするのもいいな。もしかしたらウルド王国の奴らがここまで来るかもしれないから。その時にもし自分が生きていると知ったら全力で俺を殺しに来るはず。特に勇者…同級生の男共が。よし、決めた。この世界で名乗る名前を作ろう!もう決めてたんだけどね!
「私の名前はゼロです。こちらの少女は私の護衛をしているミズナと言います」
一から全てをやり直すって意味を込めて、名前は(ゼロ)にしたけどこれでいいかな?変じゃないよな?
「お〜!そうかそうか!宜しくお願いしますゼロさん。そちらのミズナさんは可愛らしい護衛さんじゃの〜。まるで女神様のようじゃ」
「はは、ミズナは私の大切なパートナーであり、家族でもあります。今は護衛として私の側にいてくれています。ですが傷ついては欲しくないほど大切な存在です」
「ほほ、それはそれは。大事に…おっと、着きました。こちらの家をお使いになってください」
「ありがとうございます。もし、何かあれば私達に言ってください。ある程度回復魔法が使えますので困ったら来てください。
「分かりました。では…」
「あ、すみません。ちょと待っていただいてもよろしいですか?」
「はい」
戻って行こうとしたケートスに隆介は、思い出したかのようにして、ケートスを止める。
ミズナならきっと生み出せるはず。
「ミズナ。また頼みたいことがある」
「ん?」
少しケートスから離れて、聞こえないようにする。
「無理いうかも知れないけど食べ物って生み出せる?」
「できる。けど味は保証しない。難しい」
「そっか…ご飯と豚汁の2つを大釜に入れた状態で生み出せたらこの村の人達に配ることができたんだけどな…。夜にもしもと思ってんだけど…」
「…マスターの頼み。私はやる」
「ほ、本当か!」
「ん」
「感謝するよミズナ!」
最初からミズナに聞いときゃよかった。あの狼の肉筋肉質で筋ばっか。だからあまり美味しくない。今度からミズナに頼んで出してもらおうかな…俺ヒモ男だな…。
話が終わった後ケートスの元に戻る。
「いきなりですみません。夜、村の真ん中に人を集めてもらっても宜しいですか?」
「…分かりました。夜に広場の中心に集まるよう皆さんに声をかけておきます。ではごゆっくりとしていってください」
ケートスが笑顔で二人に言った後、礼をしてその場から去っていく。
村長さん無理に笑顔作ってたの何となく分かったよ…。この村は今危機に落ちているって事だよな。言われなくても見れば直ぐに分かる。
紹介してもらった一階建の木の家に2人は入っていき、中にあった木の椅子に座る。
「よし、今の時間は15時。あれからだいぶ歩いたな。ちょと疲れたし綺麗にして少し休むか」
「ん、なら…」
ミズナは椅子から離れて、急に床に座りだした。
何をしてるんだ?
「マスター私の膝使う?」
「うん?」
正座をして、自分の膝をぽんぽんしていた。
「あの〜どうしたの?」
「使う?」
「えっと〜…」
「使う?」
「……」
「使『使います!』う?ん、マスター来て」
じっと隆介を眺めながら何度も同じ言葉を繰り返すミズナを見て、もう諦めた。
いや、これ俺が使うっていうまで永遠に言い続けるやつじゃん。まー別にいいけど。嫌じゃないし。
浄化のリングで自分の服と身体を綺麗にして、ミズナの膝に頭を乗せる。いわゆる膝枕をしてもらう。
「18時になったら起こして。俺はそれまで休むよ」
「ん、了解。おやすみマスター」
「ああ、おやすみミズナ」