三人の冒険第1話 美菜の過去
※次回のネタバレになりますがここからは主人公がいない【三人の冒険編】となっております。主人公がどうなったのかは想像がつくと思いますがご了承下さいm(_ _)m
私の名前は剣崎鈴菜。そこら辺にいるごく普通の高校生。学校のみんなから見た私は全てを完璧にこなせる人だと思われているみたいだけど、そんな事絶対にないわ。私にだってできない事は山ほどある。例えば隆介の…と、今はそんな事どうでもいいわ。そんな私は今異世界と言う剣と魔法の世界にいる。けど…。
「で、ですから今中に入るのはとても危険です!」
「そんな事関係ないわ!隆介がまだ迷宮内に残ってるのよ!」
今の私はものすごく怒っている。迷宮の最深部には隆介がまだ残っている。それもあの巨大なドラゴンがいる中1人で。なのに…。
「そ、そう言われましても私達には何もできません!」
「別にいいわよ!貴方達が何もできなくても私が何とかするから!だから入れなさい!」
「で、ですが…」
ずっと中に入れてって言っているのに全く入れてくれる気配がない。逆に何かを隠しているかのように。いや、口止めでもされてるのかしら。
「そこの兵士が言っている事は本当ですよ。今はとても危険です。落ち着いてください勇者様。1人迷宮内に取り残されたのは私もわかっております。ですが最深部の扉が開くのは一日一回のみ。ボスを倒しても倒さなくても開いたら次の日までは開かないのです」
「アクマさん…そもそも貴方のせいよ!何であそこで転移結晶を発動させたのよ!狙ってやったわけじゃないでしょうね!」
鈴菜は迷宮の入り口に立っている兵士に怒っていると、後ろからアクマの声が聞こえた。そして鈴菜は後ろに振り返ってアクマの方に顔を向け、鋭い眼差しで睨みつけていた。
この人は隆介を見捨てた憎い人。だから絶対に許さない。
「それを言われましても困ります。転移結晶が自動に発動したのは本当に予想外でした。多分ですがあの謎の現象によって自動発動したのだと思われます。本来はこのような事は起きないのです。ですので狙ってやるのは不可能と」
「嘘よ!絶対に何か仕掛けがあるはず!」
鈴菜がアクマに飛びかかろうとした瞬間…。
「お、落ち着いて鈴菜さん。一旦テントの中に戻ろ?僕が思うに今あの人達に何を言っても無駄だと思うから」
「ツゥ…分かったわ春香君」
アクマに飛びかかろうとした鈴菜を春香が慌てて止めて、テントに戻る。
あんなにも取り乱している鈴菜さん初めて見たよ。そんだけ隆介君のことが大事なんだね。勿論僕も隆介君の事はとても大事に思っている。けど、今は僕が冷静でいないと鈴菜さんが危ない事しようたら止められるし、隆介君が無事戻ってきても鈴菜さんがいなかったらきっと悲しむ。僕はそんな姿を見たくない。だから1人も欠けることなく無事に終わりたい。
「ごめんなさい春香君。取り乱していたわ」
「いいよ鈴菜さん。だけど鈴菜さんがあんなにも取り乱しているところ初めて見たよ」
「そうね…何年ぶりかしら。けど絶対に許さないわ。アクマさんの本当の狙いは隆介だったのよ」
「えっ!?本当なの今の話!」
「ええほんとよ。あの王様達には見えてなかったみたいだけど私にはあるスキルがあるのよ」
「そ、それは?」
「絶対に私達以外の人に言ってはダメよ?」
「う、うん」
春香の目を真剣な目で見て、絶対にダメと強く伝える。それが伝わったのか春香もまたゴクリと唾を飲んで、真剣な顔をして鈴菜のことを見る。
「それは〈真実の瞳〉というスキルね。このスキルは相手が言っている事が本当なのか嘘なのかが分かる魔法ね」
「す、すごいね!こんな凄いスキルがあったら嘘ついてもい、一瞬で分っちゃうね!」
春香はそのスキルの説明を聞いて焦ったかのように話すが、何とか耐えた。
「ええそうね春香君?まー今はいいわ。その内本当の事を聞かせてもらうわよ?」
「は、はい…」
が、鈴菜の前では意味がなかった。
う〜…この事が隆介君の耳に入ったら僕はもう…。
「話すのは貴方の覚悟が決まってからでいいわ」
「そ、そうさせてもらうよ」
「さて、次話すわよ?このスキルでアクマさんが本当の事を言っているのか言っていないのかを確認したら…一部が本当で後は全て嘘だったわ」
「それって…」
「ええ、一日一回しか扉が開かないのは本当みたいだけど、その後の転移結晶が自動に発動したって言葉はまるっきり嘘だったわ」
「そんな!?」
鈴菜の言葉を聞いた春香は、大声を出して驚いた表情をしていた。
え、ならアクマさんが狙って発動させたって事!?でも何でそんな事を…。
「驚くのも無理ないわ。私の答が正しければアクマさんは事前に計画をして、隆介を亡き者にしようとした。だけど私達がいたからそれが中々できなかった。そこで最後の切り札としてあのドラゴンを何処か別の場所から無理やり呼び寄せ、隆介だけを狙うよう指示をした。けどまた私達がいたからできなかった…が、隆介と私達が途中で別れたのをチャンスと思い、攻撃をわざと外すように指示をして遠くに追いやった。その瞬間アクマさんともう1人、豪華さんが転移結晶を意図的に発動、そして今に至るってわけよ」
「ほ、本当なの?」
「あくまで私がそう思っただけで本当かどうか分からないけど、唯一本当なのは意図的に転移結晶を発動させた事ね。何でこんな事をするのかしら…」
鈴菜はベットでまだ気絶している美菜の頬を撫でながら、落ち込むようにしていた。
隆介…どうか無事でいて…。約束したんだから…。そうじゃないと美菜がどうなってしまうか私にも分からないわ…。
「……」
「ね、ねぇ〜鈴菜さん。ちょと質問してもいいかの?」
「何かしら?」
「どうして美菜さんは隆介君にいつもべったりなの?」
「そうね〜美菜が隆介の事を大好きって言うのは知ってるかしら?」
「うん、見てたら分かるよ」
「ふふ、春香君嫉妬かしら?」
「ち、違うよ!ちょと気になっただけだよ!」
鈴菜のいきなりの言葉にあたふたする春香は手をぶんぶんしていたが頬が赤くなっており、鈴菜にはバレバレだった。
「そうね、そうしておくわ」
「う〜…」
「さて、話を戻すわよ?美菜は昔あんなにも隆介にべったりじゃなかったのよ。何というか…隆介に会う時や話す時にとても恥ずかしそうにしている仕草がね?私としては応援したくなる思いが溢れ出していたわ。けど私だって隆介の事が…と今は関係ないわ。昔の美菜は初々しかったと言った方がいいかしら」
「えっ!今の美菜さんを見てる僕からだと全く想像できないよ!けどどうして今の美菜さんになったの?」
「今の美菜って…そうね〜これを聞いてもいつも通り美菜に接してくれるのなら言うわ」
「う、うん!約束するよ!」
鈴菜の物凄い真剣な顔を見て、春香は覚悟を決めて真剣な顔になる。
「そう、なら良かったわ。もし約束してくれなかったら貴方とは今後一切関わらなかったわ。勿論隆介にも近づけさせない。そこまでしないと美菜の過去の記憶が蘇ってしまから」
「美菜さんの過去…」
「ええ、今の美菜はそんな過去が存在しないものだと思っているみたいだけど、その時の記憶が万が一にでも蘇ってしまったら、私でも美菜がどうなってしまうか予想がつかないわ」
「そこまでの…うん、絶対に約束するよ。だから美菜さんの過去を聞かせて欲しい」
「分ったわ。じゃーいうわよ。これは…」
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これは隆介達がまだ中学1年の時…。
「行ってきまーす!」
「行ってらっしゃい。道中気をつけるのよ。必ず隆介君達と合流して学校に向かう事。いいわね?それとお母さんとお父さんは 夜大事な仕事があるから作り置きしてあるご飯をチンして食べてね」
「分かったお母さん!」
変わらぬ日常でいつものようにお母さんに行ってきますと言って玄関から出て行く美菜に、お母さんは扉の向こうから返事をする。
もう!いつも心配してくれるのは嬉しいけどもう僕はもう中学生だよ!身長は低いけど…ううん!きっとまだ大丈夫!これから成長するからね!
玄関から出て行くと目の前の門の所に鈴菜が立っていた。
「おはよう鈴菜!」
「おはよう美菜。隆介はまだ寝てるみたいだから起こしに行くわよ。たく…両親がいない日は私達が行かないと起きないから本当大変よね」
「そ、そうかな?僕は別に…」
「本当に美菜って隆介の事好きよね。だけど隆介ってば目立たないように生活してる割には何故か色んな女の子からモテるのよね〜。不思議だわ。その内他の女子に取られるかもよ?」
「そそそ!そんな事ないよ!ぼ、僕は別に隆介こと!そ、それに取られても僕は平気だもん!」
「ふふ、そう言うことしておくわ」
朝から美菜をからかっていた鈴菜は楽しそうにしていた。美菜はと言うと、顔を真っ赤にしてふらふらとしながら隆介の家に向かった。
「美菜、目の前の電柱に当たるわよ?」
「えっ?むぎゅ!?」
「は〜…ちゃんと前を見て歩きなさい」
「う〜…」
電柱に当たって尻餅をついた美菜は、鼻を押さえながら鈴菜の手を借りて立ち上がる。
「大丈夫かしら?」
「イタタ…よし!大丈夫!」
「なら、行くわよ」
「うん!」
隆介の家に着いた2人は扉の目の前に立つ。天草家は剣崎家と柏原家に挟まれる形になっているのですぐ本当近くである。その為鈴菜はわざわざ天草家を通り越して柏原家に行き、美菜と合流した後に隆介を向かいに行っている。
「美菜も隆介の両親に合鍵を渡されたわよね?」
「うん渡されたよ!」
「ちゃんと失くさず持ってるかしら?」
「ちゃんと持ってるよ!絶対に無くすわけにはいかないからね!ほら!」
ごそごそとリュックをあさって中から美菜の家の鍵と、そこに一緒についている隆介の家の合鍵を鈴菜に見せる。
「なら良かったわ。さて、私が朝ご飯とお弁当を作るから美菜は隆介を起こしてきて。けど変なことしちゃダメよ?」
「しないよ!」
2人は合鍵を使って中に入って行く。早速鈴菜はキッチンに行って用意をする。冷蔵庫等は隆介の両親から勝手に使ってもいいと許可をもらっているので両親がいない時はいつも朝ご飯をここで作って3人で食べている。
美菜は2階に繋がる階段をゆっくりと上がって、隆介の部屋まで歩いて行く。
「よ、よし!隆介の部屋に着いた。お、お邪魔します」
深呼吸をして、ゆっくりと扉を開けてから中に入ると、まだぐっすりと寝ている隆介の姿が見えた。
い、いつきても緊張するよ〜…。でも起こさなきゃ学校に間に合わないから起こさなきゃ!
「りゅ、隆介?朝だよ?」
「う〜ん…」
「お、起きて」
美菜は緊張しながらも隆介に声をかけるが、中々起きない為戸惑っていた。
う〜中々起きないよ〜…。でも…いつ見ても隆介かっこいいな〜。それにとても優しい。もし僕が隆介の彼女になったら…えへへ。だけど隆介に彼女ができたら僕はどうすればいいのかな…。もう隆介と関わりがなくなるのかな?そんなのいやだよ…。ううん!諦めるのはまだ早い!沢山ライバルいるけど絶対に勝ってみせる!あ〜でもでも告白するの恥ずかしいよ〜!振られたら嫌だー!
「どうすればー!」
「う、う〜ん?美菜か?」
「ひゃい!?りゅ、隆介!?」
「お、おう隆介だよ?おはよう」
「おおおおはよう!し、下で待ってるね!それじゃー!」
「お、おう?」
美菜は顔を真っ赤にしながらぴゅーと扉から出て行った。
何だったんだ?まーいいか。着替えて下に向かうか。
「はぁ〜はぁ〜…い、いきなり起きたからビックリしたよ。でもあんな風に出て行っちゃったから僕変な子と思われてないよね?大丈夫だよね?う〜恥ずかしい…」
美菜は急いで階段を降りた為少し息切れをしていたが、一階のリビングの扉の前に着くとさっきの出来事に顔を真っ赤にしていた。だがずっとここにいるわけにもいかないので扉を開けて中に入る。
「あら、もう隆介起きたの?」
「うん」
「そう、なら朝ご飯もう少ししたらできるから座って待ってて」
「分かった」
鈴菜の言う通り大人しく椅子に座って、テーブルで待ってる事にした。数分待っていると、階段から隆介が降りてくる音がしたので美菜は少しドキッとする。
りゅ、隆介が降りてきた!
「う〜ん!おはよう美菜、鈴菜。いい匂いがするな」
階段降りて扉から入ってきた隆介は、2人に挨拶をしながら背伸びをして、テーブルの方に歩いていく。
「おはよう隆介」
「お、おはよう隆介。さ、さっきの事なんだけど」
「うん?さっき?」
「ぼ、僕変じゃなかった?」
「別に変じゃなかったが?どうかしたの?」
「う、ううん!何でもない!」
そんな会話をしていた2人を見て鈴菜は揶揄うように会話に入る。
「へぇ〜さっきまで2人はイチャイチャしてたのかしら?私がいないところでね〜?」
「ち、違うよ!」
「本当かしら?」
「本当だよ!なにもしてないよ!ねぇ隆介!」
「そ、そうだな?」
「ほら!」
「ふふ、そんなムキになっちゃって可愛いわね美菜。冗談よ。さて、朝ご飯できたから食べるわよ」
「もー!」
美菜はアホ毛をぶんぶんさせながらプンスカしていたが、2人が席につくといただきますといい朝ご飯を食べ始める。
今日も鈴菜の料理美味しいな。僕も作れるようにしないと!そ、そして隆介に食べてもらう!その為にも頑張って鈴菜に教わらないと!胃袋を掴んだら勝ち!
その後3人は朝ご飯を食べ終わり、少し片付けた後は学校に向かう。隆介を真ん中に右に鈴菜、左に美菜と並んで歩く。
「今日は天気もいいし学校終わったらちょと寄り道して帰るか」
「隆介は気楽でいいわね。私は部活があるから大変よ」
「まーな。鈴菜も頑張れよ部活」
「ありがとう。はいこれお弁当よ。隆介は本当に部活やらないの?」
「やんない。お、ありがとうな。美菜はどうするんだ?」
「ぼ、僕は家に帰るかな?」
「そっか。帰り気をつけてね」
「う、うん。ありがとう」
会話をしながら歩いているとあっという間に学校が見えてきた。歩いている途中他の生徒達と出会ったが殆どの男子が隆介の事を睨むように遠くから見ている。女子達は逆に隆介と一緒にいる美菜と鈴菜の事を羨ましそうに遠くから見ていた。
「なぁ〜鈴菜。3人で登校するの辞めないか?」
「何よいきなり」
「いや、男子達からの視線がとても痛い」
「そう」
「そうって…」
「別にいいじゃない放っておけば。それに隆介の親と美菜の親に一緒に行くよう言われてるのよ?それと私の親にも」
「そうだけさ〜」
う〜んと言いながら下駄箱に到着して3人はそれぞれクラスごとに分かれて履き替える。
俺そのせいか知らないけど2人以外の友達が一切いないんだよな…。小学生の時に仲良かった男子も引っ越しちゃったし。
「手紙…う〜ん」
「どうかしたのか美菜」
「どうかしたのかしら?」
そんな事を考えていた隆介の後ろから、美菜の困ったような声が聞こえた為振り返る。
「あ、ううん!何でもない!」
「そっか。んじゃ俺は先に行ってるよ」
「う、うん!また後でね!」
「おう!」
笑顔で手を振って廊下を走って行った隆介を美菜は頬を赤く染めて小さく手を振り返した。そんな美菜の事を鈴菜は微笑ましい目で見ている。
「行っちゃった」
「そうね。それで美菜?右手に持っているその手紙は何かしら?」
「これ?」
「ええ」
美菜の右手に持っている手紙を見た鈴菜は、何かしらと言う目で見ていた。
「隆介には言っちゃダメだよ?何かね、昼休み中庭にある花壇の近くに来て下さいって手紙だったよ」
「ならこれってラブレターよね?」
「うん、だけど名前が書いてないから誰か分からないの。もし本当にラブレターだったら僕は断るかな」
「名前が書いてないのは怪しいけど行ってみるのもいいわね。私は少し離れたところで隠れて見てるから行ってみらどうかしら?美菜の答えは決まってるみたいだし、行かないのも相手に失礼だと思うからね」
「うん、そうする!」
それから時間は進んでいき、お昼のチャイムが教室内に鳴り響いた。
午前の授業終わった〜!おっ昼〜おっ昼〜!とと、食べる前に鈴菜を連れて中庭に行かなきゃ!
美菜は教室から出て隣のクラスに元気よく入っていく。
「鈴菜〜!」
「あっ!柏原さんだ!」「やっぱ可愛いな〜」「2人揃うと眩しいよな」「そうだな。けどあの天草の野郎のせいで俺達は恋愛対象から外されているんだよな…」「羨ましい羨ましい!」
美菜が教室に入ってきて鈴菜の元に駆け寄ると、周りの男子達がヒソヒソとしながら2人の事をガン見していた。一部涙を流しているものもいる。女子達はキラキラと2人のことを見ていた。
「あら?お昼を先に食べてからじゃないのかしら?」
「僕もそうしようか迷ったけど先に相手がいたら待たせるのもダメかなってね?」
「そうね〜…一応お弁当を持って行きましょ。もし相手がいなかったら近くのベンチで待ってれば来るはずだから。来たら私は戻る振りをして隠れて見てるわね」
「分かった!」
2人はお弁当を持って中庭に向かうことにした。道中すれ違う同級生達にお弁当を持って何処にいくかを聞かれたが、気分転換に外で食べるだけと言った。着いてこようとした人には、2人で大事な話があるからと断った。
「うん?いたわ。あの男子じゃないのかしら?」
「そうみたいだね。でも僕あの男子知らないよ?」
中庭の花壇付近にいた男子は、眼鏡をはめており、伸びきった黒髪がボサボサになっていた。
「美菜が忘れていても相手が覚えてるかもしれないわよ?美菜って色んな人と話すから一人一人の名前や顔をあまり覚えてないわよね?」
「そ、そんな事ないよ?」
「はぁ〜…ちゃんと覚えておきなさい。そうしないと相手にも失礼よ?」
「はい…」
鈴菜に怒られた美菜はしょんぼりとしていた。
だって人と話すの楽しいじゃん!それに人が多いほど会話が弾むからつい知らない人でも話しちゃうもん!でも鈴菜の言う通り名前や顔を覚えてないと相手にも失礼だよね…。謝らなきゃ。
「行ってくる」
「ええ」
男子の元に向かう美菜を鈴菜は、見守るようにして見ていた。そして数分後、美菜に断られたであろう男子はしょんぼりとした状態でその場に立ち止まっており、美菜は鈴菜の元に戻ってくる。
終わったみたいね。
「終わったよ。やっぱり告白だった」
「そう見たいね。あの男子の様子だとちゃんと断ったのね」
「うん。向こうは覚えてたみたいだけど僕が覚えてなかったから謝ってきたよ」
「それはいいことよ。さて、お昼教室戻ってから食べると遅くなるからあそこのベンチに座って食べましょ。話は食べながらってことで」
「分かった」
中庭より少し離れた所にあるベンチに二人は座り、持ってきていたお弁当を食べ始める。
「あの男子どこで美菜の事を知ったのか分かる?」
「んとね、体育の授業の時にあの男子が怪我しちゃたみたい。その時に僕が消毒と絆創膏を持ってきて、手当てしたって。そこから僕の事を好きになってくれたみたい」
「ふ〜ん良かったわね。ならあの男子と付き合えば良かったじゃない」
「ぼ、僕は隆介一筋だもん!…あっ!ち、違う!今の無し!無しだから!」
「ふふ、私も負けないわよ?」
「えっ?」
「何でもないわ」
そんな会話をしながらお昼ご飯を食べ終わった2人は教室に戻り、いつも通りの生活を送る。お昼の授業の時に美菜に告白した男子は、早退したがその事を誰も気にしていなかった。鈴菜や美菜もその男子とクラスが違うため早退したことを知らない。
「よし、帰るとしよう!」
放課後美菜は1人で下駄箱まで行き、靴を履き替えていると、外が騒がしかったので少し見てみることにした。
何だろ?
「そ、それは…」
「お願い天草君!マネージャーになって!」「見てるだけでもいいから!」「私達の部に来て!」「違う!私達の部よ!」「見学だけでもいいから!」
美菜の目の前で、隆介が部活に入っている女子達数人に勧誘されていた。そのほとんどが隆介に好意を寄せていると直ぐに美菜には分かった。
隆介…。
「ほらほら貴方達、隆介が困ってるでしょ?」
すると美菜の後ろから鈴菜の声が聞こえた。その声に少しびっくりしたが、後ろを振り向くと鈴菜と目が合い、こちらに一瞬微笑んだ。
「け、剣崎さん!」
「隆介は私が引き取るから貴方達は戻りなさい。隆介に迷惑かけて嫌われたくないでしょ?」
「「「「「…」」」」」
その言葉に女子達は一斉に黙り込んだ。そして1人の女子が口を開く。
「ご、ごめんね隆介君?迷惑だと気づかずに…」
「「「「ごめんなさい」」」」
「あ、ああ…大丈夫だよみんな。迷惑だと思ってないから。また機会があったら部活だけでも見学しに行くよ。その時はよろしくね?」
「「「「「はい!」」」」」
その言葉に女子達は、曇っていた表情を明るくして返事を返した。その後女子達は各部活に戻っていった。
「助かったよ鈴菜。ありがとう」
「嬉しかった?」
「ん?」
「女子達に囲まれて嬉しかったのかを聞いているのよ?」
「えっと…」
いきなり鈴菜が女子達に囲まれて嬉しかったのかを聞いてきたので隆介は返答に困っていたが、チラッと鈴菜の顔を見ると口は笑っているのに顔が笑っていなかった。
これはこの返答でいいのかな?
「あ〜えっと…そうでもないかな?逆に困ってたから鈴菜が来てくれて良かったよ」
「そう、ならいいわ。良かったわね美菜」
「ふぇ!?」
いきなりふられた美菜は変な声を出して、驚いてしまった。
「おっ?美菜もいたのか。そうだ!帰り一緒にどっか寄らないか?部活美菜もやってなかっただろ?」
「ぼ、僕と!?で、でもその…」
「そうだけど?どうした?顔が赤いぞ?熱でもあるのか?」
隆介が心配そうに美菜に近づいておでこに手を当てる。すると美菜の顔が一気に真っ赤になる。
りゅ、隆介のて、手が!ぼぼば僕のおでこに!?そ、それに顔が近い!
「美菜?」
「ご…」
「ご?」
「ごめんなさーい!!」
美菜は顔を真っ赤にしたまま走って行ってしまった。
「…お、俺なんかした?」
「はぁ〜…まーいいわ。ほら隆介、美菜のことはいいから私の部活についてきて」
「えっ、なんで?」
「なんでって言われても隆介1人で歩かせると何故か他の学校の女子とか若い女性に絡まれるじゃない。それとも何?隆介は女の子達に囲まれてチヤホヤされたいわけ?」
「い、いや違うけど…。地味に過ごしてるはずなのになんで寄ってくるのか俺にはさっぱり分からん」
「自覚無しね。兎に角私がやってるところを見てなさい。他の女子を見たらダメよ?いい?」
鈴菜は最後の言葉だけ圧をかけるように言う。
まー別に見てるだけならいいか。また明日か明後日にでも行けばいいし。美菜は部活やってないとして、鈴菜はどっちかが休みだったはず。その時にでもいいか。でも鈴菜は色んな部活を掛け持ちしているから大変だな。今日はバスケ部だったよな?
「分かったよ。鈴菜がやってるところだけ見てるよ」
「ええそうしてちょうだい」
2人は体育館の方に歩いていった。
帰ったら美菜に謝らないとな。
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「はぁ〜はぁ〜…う〜僕のバカ!何であそこで逃げちゃうの!でもでも隆介も悪いんだよ!い、いきなり僕のおでこに、おでこに!」
全力で隆介から逃げた美菜は逃げている内に家の前にたどり着いた。
でも明日隆介に謝らないとな。恥ずかしいけど頑張れ僕!
「ただいま〜と、誰もいないんだった」
家の鍵を開け、扉を開けて中に入る。
今日の夜は僕だけか…。お父さん仕事が忙しいからって中々帰ってこないし、お母さんはここ最近ずっと朝から出かけて夜中まで帰ってこないから寂しいな…。僕も隆介の家に行って一緒に夜ご飯食べたいな。
そんなことを思いながら制服のまま、ソファーに座っていると。
ピンポーン
「は〜い!」
誰だろ?
「お届け物でーす!」
お届け物?お母さんかお父さんが何か頼んだのかな?
「今行きまーす!」
ソファーから立ち上がり、玄関に向かう。宅配の人なら安心だね。お母さんには知らない人が来たら無視するように言われてるけど、宅配の人なら大丈夫!
「今開けますね!」
ガチャ。
「キャッ!」
「よくも俺の事を振ったな!俺の初恋だったんだぞ!許さん許さん許さん!」
「は、離して!」
鍵を開けてドアを開けた瞬間、美菜が振った男子が勢いよく扉を開けて中に入る。そして美菜に飛びかかる。
「だ、誰か助けて!」
「うるさい!」
ゴン!
男子が右手に持っていたバールの端を美菜の頭に殴り付ける。その衝撃で美菜は気絶して倒れてしまった。
「ふ〜ふ〜…ここからだ、ここからが本番だよ柏原美菜さん。たっぷり遊んであげるからね」
嫌らしい顔をして美菜を担ぎ、二階に上がっていった。
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「どうしようかな…」
もし俺が美菜に嫌な事をしたのなら直ぐに謝らないとな。けど鈴菜には1人で行動するなと言われてるしどうすれば。
「う〜ん…まーしょうがない。俺も家に帰るか。それなら鈴菜も許してくれるだろうし」
隆介は、バスケの練習試合をしている鈴菜の元に歩いていく。それと同時に練習をしていた女子生徒達の手が止まり、隆介のことを見ていた。
「なー鈴菜、ちょといいか?」
「何かしら?」
「俺も家に帰るわ」
「そう、けど寄り道してはダメよ?いい?」
「分かったよ。約束だ」
「必ずよ?また後でね」
「おう!」
体育館から走って下駄箱まで行き、靴を履き替えた後は、急いで美菜の家に向かう。
「はぁ〜はぁ〜はぁ〜…到着と。美菜帰ってきてるかな?」
ピンポーン
「……あれ?帰ってきてないのかな?」
ゴト!
美菜の家に着いた隆介は、玄関のチャイムを鳴らすが返事もなく、あれ?と思ったが、家の中から音がしたので扉のドアノブに手をかけて引いてみる。
すると…。
「鍵が掛かってない?うん?これは美菜の靴ともう一つ誰のだ?男の靴だけどもしかして美菜のお父さん…はこの時間はいないんだった。なら彼氏がいたのか?なら邪魔しちゃ悪『んー!んー!』『うるさいぞ!大人しく俺に従え!』いな!何事!?」
二階から聞こえた男の声と、何かに縛られて喋れない美菜の声が聞こた。
なんか知らんけどまずいことになってるのは間違いないな!早くいかないと!
急いで靴を脱いで階段を上がっていく。
「美菜大丈夫か!ってお前は誰だ!」
「チッ!もう来たのか天草隆介」
「んー!」
美菜の部屋の扉を勢いよく開けるとそこには、右手にバールを持って美菜を押さえつけている男と、縄で手と足を縛られ、口にはガムテープされており、目からは涙が出ていた。更には制服がみだらになっており、脱がされる寸前だった。
「おい、これはお前がやったのか?」
「そうだけど?今俺の事を振ったこいつを調教しようとしてたんだよ。だから邪魔しないでくれるかな天草隆介」
「はぁ?何言ってんだよ。こんな状況を見て、はいそうですかで帰ると思ってるのか?」
美菜がこいつを振ったから調教?ふざけてるのか?そんな事させるわけないだろ!…ん?よく見たらこいつ見たことあるな。確か美菜と同じ1年C組の生徒だったよな?
「いんや、そう思ってないけど?だからね?」
「なぁ!?」
「んー!?」
するともう片方の手を持ってきていたバックに手を入れて、あるものを取り出した。
こいつ果物ナイフまで持ってきてたのか!これはもう犯罪だな。もう手加減しなくていいよな?美菜に酷いことしたこいつを捌いていいよな?もう知らん。
「おらおらどうした?これが怖いか?来てみろよ!そうしないとこいつがえっ?『ふざけんな!』グゥェ!?」
隆介は、男が一瞬顔を美菜の方に向けた瞬間を狙って近づき、果物ナイフを足で蹴り飛ばした後、顔面を思いっきり殴った。一瞬の出来事に男は驚いて、変な声を出して気絶をした。
「美菜、今助けるからな」
「……」
男の左手に持っていた果物ナイフを蹴り飛ばした時に飛んでいった果物ナイフを拾い、美菜の所に急いで向かう。
先に美菜の口についているガムテープをゆっくりと剥がして、次にロープで縛られていた手と足を果物ナイフで切断する。
「無事で良かったよ美菜。大丈夫だったか?」
「りゅう…すけ…」
「ああ、隆介だ。俺が来たからもう大丈夫だ。よく耐えた」
優しく美菜に微笑みかけて、頭を優しく撫でる。すると美菜の目からぽろぽろと涙が溢れ出てきていた。
もう2度とこんな目に合わせない。絶対に…。
「りゅうずげ…りゅうずげ!ごわがっだよ!うわぁぁぁ!」
「おっと!もう大丈夫、大丈夫だからな。もし嫌じゃなければこの先美菜に好きな人、彼氏ができるまで俺がずっと守ってやる。約束だ」
「嫌じゃない!りゅうずげどずっといる!」
隆介の胸に飛び込んできた美菜を受け止めて、もう大丈夫だと何回も同じ言葉を繰り返しながら抱きしめ、頭を優しく撫でて落ち着かせていると…。
「クソ痛かったよ天草隆介。絶対に許さん…許さん許さん許さん!この俺を殴った事を後悔させてやる!死ねー天草隆介!」
「ツゥ!」
気絶から回復した男は、鼻血を出しながらも右手に持っていたバールを思いっきり握り締めて隆介に襲いかかる。そして隆介は咄嗟に美菜をギュッと抱きしめて守るようにする。
チクショー!もう回復しやがったか!
「ハハハ!うぇっ!?ガハァ!」
バールが隆介目掛けて振り下ろされた瞬間、何者かによって男は倒された。
一体何が…。
「油断は禁物よ?」
「鈴菜か?助かったよ。けど、どうしてここに?」
「どうしてって2人が心配で、隆介が出て行った数分後に私も部活から抜け出して様子を見にきたのよ。カッコよかったわよ?俺がずっと守ってやるだったかしら?」
「そこから聞かれてたのか…恥ずかしい」
「それで?この状況を詳しく教えてもらってもいいかしら?」
「あ、ああ。俺も詳しくは知らんけど」
と、鈴菜にさっきまで起きた出来事を話す。
「そう、そんな事が…。急いで来て良かったわ。美菜も隆介も無事で本当に良かった。私は取り敢えず警察と家族に電話するから一旦廊下に出るわね」
「助かるよ鈴菜。お?寝てしまったかな?」
隆介に抱きついたまま幸せそうにして寝ている美菜の姿を見て、落ち着いて良かったと思うと同時に、明日からどうするかを考える隆介であった。
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「とまーこんな感じかしら」
「そうだったんだ…」
「その後は直ぐに警察が駆けつけてその男子生徒を逮捕したわ。勿論次の日は学校に連絡して何日か休みにしてもらったわよ?問題は美菜の両親に連絡したのだけれども二人とも圏外になっていて電話が繋がらなかったことね。と、ここからね。美菜が今みたいになったのは…」
と口にした鈴菜を真剣な目で春香は答えるのを待っていた。ここからだよね、美菜さんが変わったのは。
「その次の日。隆介の制服を掴んだまま寝てしまった美菜は隆介と一緒に朝までいたのだけれでも、隆介が言うには朝起きたら美菜が昨日の出来事を嘘のように忘れてしまった事。隆介が美菜の事を守るって言葉だけ覚えていて、最初の頃のように恥ずかしさも無くなり、隆介によく甘えるようになったってところかしら。でもその日から美菜は隆介がいないと、男子と話せない状態になってしまってわ。隆介がいない時に男子と喋ってなかったのはそう言う理由よ。隆介はその事を知らないみたいだけど…」
「美菜さんにそんな過去が…」
「そろそろ出発するのでテントの片付けをお願いします!」
未だ気絶して眠っている美菜の髪を撫でながら喋っていると、テントの外から女子の声が聞こえたので片付けに入る。
「私が美菜をおんぶしていくわ。春香君は先に出ててもいいわよ?」
「う〜ん…そうするね?」
「……ええ」
何かを察した春香は、テントから出て行き、近くで待っていることにした。鈴菜達のテントは皆んなから離れた所に立てている為、丁度木が視界となり、春香は向こうから見えていない。
そうだよね…。隆介君はもういない。それは鈴菜さんも分かっている。けど我慢してたんだよね…。僕の前だったから。僕も泣きたいよ…。だけど男として泣くわけには…あはは…なんでだろ…何で目から涙が出てくるんだろ?何で?何で!僕はただいつもの日常を送りたかっただけなのに!何でこんな事になるの!いつか言おうとしてた事も伝えれないまま…。嘘つきの僕は友達…親友失格だよね…。隆介君を騙したことを何で今頃後悔してるんだろ…。もういないのに…。謝れなかった…。
春香は目から溢れる涙を必死に止めようとするが止まらなかった。
そしてこの日、お城に帰って来た生徒達は、次の日に隆介の葬式をやる為、一部の人が準備の手伝いをしていた。お城の中がごたごたしてる中、鈴菜と春香はベットに寝ている美菜が起きるまで側にずっと寄り添っていた。
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