2話 松岡修造
私は令和ちゃんです。
天皇様を助けることと、日本の国民を助ける『天皇の使い』という仕事をしています。
私は『天皇の使い』になってから、まだ1ヶ月も経っていません。そのため、私の前に『天皇の使い』をしていた平成ちゃんに仕事を習いながら、お仕事をしています。
平成ちゃんはお姉さんのような存在です。優しいです。賢いです。困ったことがあっても助けてくれます。
でも今回、私はあまり困ってません。というか、困ってしまう状況なのか、分かっていません。
代わりに、平成ちゃんが困ってます。
「あの人が北海道に……来ている……のか……」
「あの人?」
あの人。いったい誰のことを言っているのでしょうか?
「松岡修造って人だよ。
彼は『天皇の使い』が誇る気温操作を簡単に塗り替える……」
「えっ?」
私はびっくりしました。
「人間様は気温を操れないと教わった気がする……。でも、違うの? 平成ちゃん?」
「例外がたまに表れてしまうんだよ。
今の時代なら松岡修造。彼は自分のいる地域の温度を上げてしまう。今日――5月26日、彼は北海道に来てしまってる」
「あれ? 北海道って確か……一番気温を低くしないといけない場所ですよね?」
「その通りだよ、可愛い令和ちゃん」
「? 私って可愛いの?」
「? ……もしかしてボク、令和ちゃんのこと可愛いって言ってた?」
「言ってたよ」
「おぉ……」
どういうことでしょう?
もしかして、褒めてくれたのでしょうか?
なら、嬉しいです。
「こほん。
話を戻すけど、松岡修造との戦いは手強い。本来、気温を設定するだけで問題ないものを、他の方法で気温を変化させないといけないからね」
「それって、どうすればいいの?」
「日本に行って松岡修造と戦うんだ」
*****
私と平成ちゃんは、『天皇の使い』の特権を活かして日本に来ることができます。平成ちゃんは先代の『天皇の使い』だから、現在の『天皇の使い』ではなくても来ることができるらしいです。
私たちの姿は、日本の皆様などに見えることは"基本"ありません。
例外として、困っている人を助けることや日本の危機を救うためなら特定の日本人に姿を見せることができます。
「さて、松岡修造と戦うのは骨が折れるけど、これも日本を助けるためだ。仕方ない」
「松岡修造さん……という方はどのような人間さんなのですか?」
「とにかく、熱い。熱くて熱くて、それ故に天候を晴れに、気温を異常に高くできるんだ。だから、彼が大移動するときは早急に対処しないといけない」
松岡修造さんがいるのは北海道のこのテニスができる場所らしく、そこは確かに熱すぎました。
「彼が松岡修造だ」
平成ちゃん向いている方向に松岡修造さんがいるのだと思い、その方向を向きました。
私でも、彼が松岡修造さんだということが分かりました。
オーラが赤いです。神様だからこそ、私たちは人間様のそれぞれのオーラを知ることができます。彼は真っ赤っ赤です。しかもとても大きいオーラです。人間の方で、こんなにオーラが大きいのは初めてです。
「平成ちゃん……あれと本当に戦うの……?」
正直、このオーラをどうにかするのは難しい。私はそう思いました。
「彼との勝率は高いですが、負けることも当然あります。
だからと言って油断してたら負けます。絶対に勝たなければいけません」
いつにもなく、平成ちゃんは真剣です。
「変身!」
「……?」
初めて、平成ちゃんが『変身』などと言った場面を見ました。
「黒く! 輝く! 奇跡の花!(ポンッ!!)
ブラックリリィ!」
その掛け声とともに、平成ちゃんの服などは変わっていき、ピンクのドレス姿、頭に黒く輝く花、魔法のステッキを持った平成ちゃんとなりました。
とても痛々しい姿を見てしまった気分でした。……もしかして、私もこれをいつかしなければいけないんでしょうか?
「さぁ! ボクの魔法のチカラによってオーラを弱めろっ!」
平成ちゃんはいつもの平成ちゃんではありませんでした。いけいけゴーゴー状態の、見たこともない平成ちゃんです。
魔法のステッキから魔法、というかオーラを松岡修造さんに放っています。
「くっ……、相変わらず手強いなっ……!
だが! 気温を下げるためにも負けるわけには――!」
そのとき、松岡修造さんのオーラはさらに大きくなりました。
その結果。平成ちゃんは負けました。
だからその後、気温がそのままぐんぐんと高くなってしまいました。日本にいる方々を困らせてしまいました。
今日も気温を下げることはできませんでした。ごめんなさい。