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タイマムシンの発明された特別な日

作者: 神月大和

 今日は特別な日だ。

 なぜなら、タイマムシンが発明された日だったからだ。


 え、タイマムシン?

 タイムマシンの間違いではないのかって?


 もちろん、タイムマシンはタイムマシンだし、タイマムシンはタイマムシンだ。

 ん、それならタイマムシンが何か、って質問が帰ってくることを俺はちゃあんと予測していた。ということは、もしかすると俺はタイムマシンに乗って少しばかり先の未来からやってきた未来人ということなのかもしれなかったけれども、残念ながら、そんな俺にもタイマムシンが何かは分からないのだった。

 それならなぜ今日が、タイマムシンが発明された特別な日と言えるのかという話になってくるが、その君たちのからの返答も、もちろん未来人かもしれなくて、ただ先見の明をもつ現在人なだけかもしれない俺は、やっぱり予測していたわけではあって、そうして答えるのであるならば、それはそう言われているものだからだった。


 今日はタイマムシンが開発された特別な日。


 ーーそう言われているからそうなのだ。


 そういうものとして飲み込んでもらわなくては仕方がない。


 今ここで怒りだした早計な方がいらっしゃるのだとしたら、俺の言うことを聞いて、一度胸に手を当ててからもう一度その言葉を発するかどうかをご一考いただきたいと願う。なんども考えたってかまわないのだけれども、激情に任せたまま俺をなじるのだけはどうかご容赦いただく存じあげる。


 というわけで、俺の主張が何なのかと言えば、それじゃあ諸君はテレビの原理は説明できるのかということでもある。ブラウン管の原理ならばまだ説明出来るという賢明な諸兄がここにはいらっしゃるかもしれない。俺だって説明出来る。しかしそれでも、液晶となってしまえば俺は帽子どころか、往来の真ん中でパンツまで脱がなくてはならないハメにおちいっていしまう。


 液晶の原理を説明できたとしても、テレビがどうやって組み立てられて、その素材がどうやって吟味されて、そもそもその素材がどうやって作られて、どうやって集められて、それもどうやって生まれたかまでを説明出来ると言うのだろうか。それを説明出来たら、俺は帽子くらいまでは脱いでもよさそうだが、パンツまで許すことは出来ない。もしも電波についてまで説明できると言うのならば、しぶしぶながらズボンを脱ぐことまでは許してもいいかもしれない。俺じゃなくてお前がな!


 というところで、つまりはそういうことだった。


 一般の方がテレビの原理も素材もその開発者に発想を与えた最初のひらめきの元となるものについて事細かに述べることが出来ないように、ーーその同レベルでーー俺には今日がどうしてタイマムシンが発明された特別な日であるかを説明出来ないのだった。


 もし説明出来る人がいるのだったら、平身低頭してその教えを請いたいと思うし、それが納得の出来ないものだったら俺も一般大衆に混ざってその人物を詰ることもやぶさかではなかったりする。


 そうして意味は分からないが今日はタイマムシンが発明された記念すべき意味の分からない特別な日なのであって、そういうものはそういうものだったのだから仕方がないと納得していただく以外に救われる方法は存在していないのであった。


 信じるものは救われる。


 良い言葉だった。


 そしてちなみにタイマムシンについてーー、それは実は英語ではないらしい。それは日本語かも知れないし、様々な言語にも通じる共通語かも知れないし、あるいは未来や宇宙からもたらされた科学的神秘的な言語だったのかもしれない。


 予想されうる言語としては、大麻無心という麻薬を求める危ない催促なのかもしれないし、あるいはタイ・マム神というタイで信仰されている(まむし)の神様なのかもしれなかった。それはどちらもきっと粉末にしたらやり過ぎなくらいに滋養強壮に効果があるに違いないが、ちょっと俺の貧弱な語彙力と想像力ではその程度の案をあげるだけにとどまってしまう。


 さて、俺のこの弁明をお聞きになられている優秀な諸兄、もしくは諸姉の方々に置かれましては、いい案があればドシドシお寄せいただきたいという次第ではあるのだった。


 そうして俺はこうしてつらつらと、今日が特別な日であるというその由来であるところのタイマムシンの発明について自分の見解当弁明を行っているわけではあるのだが、俺も真剣に考えているのだからそのような冷めた冷たい眼で見るのは止めていただきたい。


 ーーそう、止めていただきたいのである。


 確かにタイムマシンが発明された記念すべき今日というこの日に限って、昨日飲み過ぎて演説の原稿をすっぱりと記憶から失ったうえにその原稿すらもなくしてしまった俺が、一番悪いのではあるのだが、そうしてトチ狂ってタイムマシンをタイマムシンと噛み間違えたわけではあるのだが、それはもしかするとこうして今日この記念すべき日にタイムマシンが作られた未来からやってきたなにがしかの陰謀であるのかもしれないわけであって、それが引き出しを開けたら飛び出してきた青色のタヌキにしか見えないネコ型ロボットが工作員として行ったとしか考えられないという結論に達せざるをえない(わたくし)のこの苦悩をお分かりか!


 ゴホン、というわけではあったのだが、だからこうしてタイムマシンが発明された日であるという今日この日をあなた方に発表する式次第を整えて私自身が一番楽しみにしていたということではあったのだが、残念ながらこうして原稿も、そのタイムマシン自体が存在しないという悲しげで切なげな、特別である今日この日を皆さんにお伝えするということに相成ったのでありました。


 至極遺憾であります。


 それについては真摯に、真摯に検討させていただきたいと存じ上げます。


 そうして俺は演説台にマイクをソッとおくと、急いでしめやかに逃げ出すことにする。きっとこの後俺のタイムマシン開発を信じて出資してくださった方々や公安やただの警察の方々が俺を追い詰めていくことにはなるのだが、タイムマシンをタイマムシンと言い間違えたことを訂正することの方が、至極重要命題であった俺にとって、そちらのほうは仔細問題のない些細些末な事柄ではあるのだった。


 ああ、分かっている。ーー問題しかないことは。

お読みいただきありがとうございます。

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