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第五話 果たされる約束


「ヴァイスさん。父も喜んでいるでしょう。そして私が代わりに父の約束を果たします」


 エルフであるフォルテは、そういって戦いの構えをとる。

 それは堂々としていて、長い修行を積んだ事を雄弁に伝えてくるものだ。


「ほぅ、これはとんだドレアムの置き土産だ。おまえの実力、本物らしいな」


 ヴァイスは、感嘆の溜息をつく。

 エルフ族は長寿で魔力に優れる種族だが、非力である。

 その魔力に胡坐をかき、凡才となり下がる戦士を何人も見てきた。


 しかし、フォルテは鍛錬を積み、まさに超一流の戦士としての風格を備えている。

 エルフ特有の魔力で体を強化し、修練を積んだ肉体を搭載している。

 さらに、その堂に入った構えは、魔人ドレアムを思い出させる。


「私は、父ドレアムより技を教わっています。魔人である父が最も得意とした魔力の肉体強化。魔人式オーラ術。そして鍛え抜かれたエルフの肉体。これではご不満ですか?」


 魔人族は魔力、肉体共に強力な種族である。

 魔人ドレアムはその魔力を肉体にコーティングする事により、最強の魔人として名乗りを上げていた。

 エルフであるフォルテは、肉体においては魔人族に劣るが、魔力においては魔人以上の種族ともいわれている。

 魔人族の力と技を継承したエルフ。なるほどこれは楽しみだ。


「いいや、素晴らしい。お前、いやフォルテ。君に賛辞を贈ろう。よくぞここまで鍛え上げた。やはり信念のある戦士は違う」


 ヴァイスも構えをとる。ドレアムは私に対して約束を守ってくれた。

 最強の戦士だったドレアム、その娘の実力も確かなものに違いない。


「ドレアム・トルーの娘、フォルテ・トルー、亡き父に代わり決着を」


「ドレアム・トルーの友、ヴァイス・シュークレア。約束を果たそう」


 お互いの名乗りを上げ、ヴァイスはニヤリと強烈な笑みを浮かべた。

 千年を超えた約束を果たす時、確固とした充足と快楽が駆けめぐる。


 そうして開戦を告げる名乗りを済ませたものの、二人は動けずにいた。

 ──二人とも、微動だにしない。しかし闘いが始まっていることは、互いが分かっている。

 静寂である。お互い隙がなく、攻め手が見つからない。

 静寂での初動、先に仕掛けた方が不利である。


「ふむ。娘に待たせまでしたのだ。私から挨拶をすべきだろうな」


 そう呟き、永遠にも思われるような静寂がふと打ち破られる。

 先に動いたのはヴァイスだった。

 距離を一気に詰め、ヴァイスの手刀がフォルテの首を取らんとばかり降りぬかれる


 待っていましたとばかり、フォルテが反応する。

 フォルテは構えた腕を回し、手刀を受け流した。

 古来より鉄壁の守りと伝わっている回し受けである。


 そして回し受けは攻防一体。

 回して受けた手がそのまま攻撃に繋がっている。

 フォルテの手からは魔力が形成されており、そのままヴァイスの胴体に叩き付けてくる。

 ヴァイスはフォルテの拳に向かって膝蹴りを繰り出し、攻撃を弾き返す。

 お互い距離をとってニヤリと笑う。


「ほぅ、私の手刀を捌くか。ヴァンパイアオーラを纏い、世の何よりも強い私の手刀を」


「父よりヴァイスさんのヴァンパイアオーラの事は聞き及んでいます。吹き出すヴァンパイアの魔力が闘気となり最強の剣と盾になると」


「くっくっく。そうだ。ドレアムもその魔力で私と同じ事をした。最強の剣と盾。ぶつかれば何方が強いか。それは使い手の腕次第だ」


「私は鍛錬を続けました。貴方に劣るものではないでしょう」


「ほぅ、では試してみようではないか」


 お互いにジリジリと距離をつめていく。

 あぁ、楽しい。ヴァイスは歓喜に震えていた。

 ドレアムよ! 貴様の残した娘は素晴らしい!

 戦いの二合目はお互いが同時に仕掛け合った。


 エルフのフォルテの武器はエルフ特有の魔力による身体強化から繰り出す打撃と体系だった武術技術。

 ヴァイスの武器はヴァンパイアオーラによる身体強化とその経験豊富な戦闘技術。

 互いの強みの押し付け合いが始まる。


 お互いが殴打し、受け流し、また殴打する。

 身体強化で防御力を向上させていても、ダメージは徐々に溜まっていく。

 しかししばらくすると、フォルテが不利になっていった。

 種族としてのスタミナと体力の差である。


「フフフ、ヴァンパイア族は魔人族よりも強靭な肉体を得ている。種族としてのスタミナが違うな」


「っく、流石は父の宿敵。未だに疲れが見えないとは」


 だが、フォルテは変わり映えなく殴打戦に応じている。

 ヴァイスはフォルテの事をこの短い戦いの間で認めていた。

 その相手がこんなにも単調に戦うだろうか。この乱打戦はフォルテがスタミナの関係から不利なのだ。

 間違いなく、この乱打戦はフォルテの罠である。


「さて、どうしたものか」


 フォルテの策にわざわざ嵌る必要もない。

 一旦距離をとろうとするが、フォルテが距離を一瞬で詰める。

 的確に急所を狙ってきているが、ダメージを蓄積させずに急所のみを狙うのは賢いとは言えない。

 最もガードの固い所だからである。


 ヴァイスもフォルテもお互いの動きの癖を学んでいた。

 お互いに防御が間に合い、致命打が通らず膠着している。


 そしてフォルテが分かりやすく急所を狙ってきた。

 モーションの大きい蹴りだ。ヴァイスはガードを集中させる。


「ここです! 必ずガードしてくれると思いましたよ! 上からぶち抜きますっっ! 一気通貫蹴り!」


「ぬぅ!?」


 フォルテは蹴りに全てのオーラを集中させた。

 つまり、全魔力を乗せた一撃であり、体を守るための魔力は全て攻撃に使われている。

 反撃されれば逆に窮地にたたされてしまう諸刃の技だ。

 しかし、ヴァイスはその全身全霊の一撃をガードしているとは言え、正面から受けた。

 ヴァイスの腕が吹っ飛び、刹那の時間、胸ががら空きとなってしまう。

 その隙を見逃すフォルテではない。


「ヴァイスさん。貴方の魂をください。父に捧げます。一気通貫突きッ!」


 フォルテはガードを吹き飛ばした無防備な体に向かって、必殺の一撃を加えようとする。

 全身全霊の魔力を右手に集中させて打ち抜く。まさに必勝の一撃。

 フォルテが放てる最強の一撃であり、体制の崩したヴァイスでは受け止めきれないだろう。

 しかし、その右手はヴァイスの光速の掌底に阻まれた。


「フォルテよ。惜しかった。血肉湧き踊る戦い、感謝する。ヴァンパイア・ウイングッ!」


 ヴァイスはヴァンパイアオーラを左腕に充填し、その瞬間に左手が爆ぜた。同時にヴァイスの体が捻られ、 弾かれたはずの左手はまるで瞬間移動したかのように跳ね上がり、フォルテの一撃を捉える。

 オーラの爆発により得られた推進力とヴァイス自身の剛腕により、フォルテの一撃をはじき返した。まさにヴァイスの奥の手、全てをはじき返す光速の掌底だ。

 フォルテの渾身の一撃は、ヴァイスの掌底に阻まれ防御されてしまった。


 フォルテの右腕は弾き飛ばされ、無防備となったフォルテにヴァイスの一撃が襲い掛かる。

 ヴァイスの拳はフォルテの脇腹を的確にとらえ、致命的な一撃を与えた。


「がふ、ぐぅ……、そんな……ことが……」


「楽しかったよ、ドレアムの娘フォルテよ。私と戦えた事、誇るがいい」


フォルテはヴァイスの拳を受け、倒れ伏した。


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