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第四話 魔人ドレアム・トルー


「嘘だろう、ドレアム。貴様が私以外に倒される等、あり得ぬ」


 ドレアムの墓前の前に茫然と立ち尽くすヴァイス。

 ただ、墓からはどこか懐かしさを感じる。

 それは間違いなく幾度と戦ったドレアムの雰囲気であり、墓標には彼の愛用していた装備が置かれている。


「本当に死んでしまったのか。ドレアム。我が友よ」


 墓前で立ち尽くすヴァイスには、何の感情も湧いてこない。

 ヴァイス心に奈落の奥底深くへ放りこまれたような空虚な気持ちを味わった。

 戦を幾度となく楽しんだ友、ドレアム。

 その彼が本当に死んでしまったのだと、理解してしまった。


「あなたは…、もしかしてヴァイス・シュークレア様ではありませんか?」


 そんな中、一人の女性が声をかけてくる。

 エルフだ。

 身長は170cm程度。胸は控えめで、鍛えているのかスタイルも良い。

 金色のショートカットにした髪型から零れる、芯の強さを感じさせる目が印象的である。


「小娘よ、いかにも。しかし今の私は大変機嫌が悪い。今すぐ立ち去りたまえ」


 ヴァイスは殺気立つ。

 ドレアムという心を許した友人の死。

 そしてその感慨に水を差す女。

 彼がいかに紳士と言えども、八つ当たりしてしまうだろう。


「いいえ、ヴァイスさん。父ドレアムより遺言を預かっております」


「ほぅ、お前はドレアムの娘か。しかしドレアムは魔人族。おまえの様なエルフが娘になれるとは思わぬが」


「私は父に拾われました。名をフォルテ・トル-。そして、父はあの日の戦いで命を落とした。それを貴方に伝えなければなりません」


「ふん、なるほど。故人には興味がないが、ドレアムの事になれば別だ。フォルテとやら、聞かせてもらおうか」


 そうして彼女は語り出した。

 ドレアムと異世界の訪問者との戦い、そしてその壮絶な最期を。



 それは五百年前。魔人ドレアムがヴァンパイアのヴァイスと別れて丁度五百年がたったころだ。


「フォルテよ、パパの宿敵の話をしてあげよう。ヴァイスの話だ」


 フォルテはドレアムに拾われたエルフの子供だ。

 エルフは長寿であるが、排他的で、時たま信託に外れた子を捨ててしまうという。

 丁度捨てられたフォルテを見つけたドレアムは、気まぐれからか育てる事にした。

 しかし、ドレアムはフォルテを育てていくうちに、彼女の事を自分の娘のように可愛がるようになってしまった。


「えー、パパ。また同じ話してる。千年後に対決する話でしょ?」


 フォルテが幼い頃から、何回も聞かされている話である。

 父にとって大事な人であり、親友なのであろうと娘ながらに感じ取ったものだ。


「おー、そうだったか。で、フォルテちゃんには、その日はパパを応援してもらわなければ。可愛い娘に後ろから応援してもらえれば絶対に勝てる」


「仕方ないなぁ。パパ。応援してあげる! しばらく先だろーけどね」


 そうして平和に暮らしていたある日。突然その日常は崩れる事となった。

 異世界からの訪問者である。


 とある荒野で、ドレアムは化け物と対峙していた。


「これが、異世界の訪問者……? なんていう強大な…。こんな力が無秩序に振るわれれば世界が滅びてしまう」


 世界に異世界の訪問者が現れた。その力は圧倒的で、他の種族全てを喰らっていってしまった。

 このままでは、世界から命が消え失せるだろう。


「愚かな世人よ。あぁ、食われる達よ、よこせ、貪らせろ」


 その異世界からの訪問者はエムラスと呼ばれるようになった。

 この世界で世界を食う者という意味だ。


「パパ、世界が食べられちゃう、怖いよ」


「フォルテちゃん。任せておけ。パパは最強なんだ。フォルテちゃんは必ず守るし、それにヴァイスとの約束もある。あんな化け物に世界を食われたら困るんだよなぁ」


 そうしてドレアムはエムラスとの戦いを始めた。

 その戦いは凄惨を極め、三日三晩続いたという。

 ついにエムラスを打ち倒すことに成功したドレアムは、世界を救った英雄となり、人間族、エルフ族、魔人族といった様々な種族より感謝を捧げられる事となる。


 しかしドレアムも深手を負ってしまい、エムラスにとどめを刺した数時間後に亡くなってしまった。

 その最後の言葉を、ドレアムは娘のフォルテに伝えていた。


「フォルテちゃん。世界は守った。エムラスは倒したが、パパの命もダメみたいだ。今からパパが言う事を良く覚えておくように」


「やだ、パパ死なないで! 死なないでパパ!」


 フォルテは目に涙をためて、ドレアムに懇願する。

 しかしドレアムはエムラスとの苛烈な戦いのせいで、弱り切っていた。

 命の灯も少しだけだろう。


「フォルテちゃん。パパがエムラスに勝てたのは奇跡だ。フォルテちゃんを守る。ヴァイスとの約束を守る。その強い意志をもって戦ったからこそ打ち倒せた」


 エムラスは力だけで言えば、ドレアムよりも遥かに強かった。

 しかしエムラスには強き意思がなかった。

 ただ、喰らうだけの怪物。大きな力だけを持った意思のない怪物であった。


「いいか、フォルテちゃん。五百年後にヴァイスがこの山に来る。そこでヴァイスを捕まえて、この顛末を伝えるんだ。そして約束を守れず、すまないと」


「うん、わかった……。パパ、必ず伝える」


「そして、フォルテちゃん。お願いだ。強くなれ。パパの自慢の娘はこんなに強いんだとヴァイスに言わせてくれ。そして、ヴァイスに約束を果たせなかった恥知らずなパパにしないでほしい。フォルテちゃんが代わりにドレアムの約束を守ってほしい」


「わかった。私強くなる。パパとヴァイスさんの約束を、私が代わりに守る」


「ありがとう、フォルテちゃん。パパはこれで安心だ。あぁ、一人去る我を許してくれ、フォルテ、ヴァイス」


 そしてドレアムは息を引き取った。



「我が父ドレアムは、ヴァイスさんにすまないと」


「そうか、ドレアムはそうして命を失ったのか。エムラス。強大な敵だったのだな」


 ドレアムは唯一ヴァイスと渡り合った男である。

 そんな奴が、ようやく相打ちに持って行った相手なのだ。

 戦士として、自分より強いものに勇敢に立ち向かい、命に代えてまで勝利した。

 ヴァイスは、ドレアムの最後の戦いに敬意を感じずにいられなかった。


「ドレアムよ。貴様がやり遂げた事は敬意を払おう。約束を守れぬその謝罪を受け入れる。安らかに眠るがいい」


 ヴァイスはドレアムの心情を痛いほど理解した。

 同じ立場であればヴァイスも同様にドレアムに謝罪したであろう。

 そして、その理由も納得のいくものであった。

 ドレアムは高貴な戦士だった。

 それだけで友であるヴァイスにとっても誇りある事だ。


 ドレアムよ、お前が友であり良かった。


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