悪夢から始まるハザード〜力無き者〜
ちょっとハイペースなのと、演劇感が強いのでのちのち書き足します。
葛城は離れて話すことを億劫に思い、木島の隣に向かった。
窓際の日がよく当たる場所だ。朝日が二人の隈だらけの顔を照らす。
そんな顔を見て小さく笑う二人は、そのまま肩を並べ話し出した。主に生き残ったらについてだ。
そして洋平のことも。
「俺は新入り二人を嫌っているわけではないです」
そんな木島の独白からそんな話が始まったのだ。
葛城に心を許していたのだろう。元々、二人を見つけ出し、ゾンビに殺されかけていたのを助けたのは葛城だ。それも当たり前なのかもしれない。
「わかるさ、お前は蓮井を助けたかったんだろ」
そんな簡単で小さな葛城の言葉。
だが木島の心境を表すには、出来すぎた言葉であった。
木島はそのまま顔を俯かせた。
数滴のなにかが流れたが、葛城は気付いていないふりを貫いた。男の尊厳に関わると思ったから。
そして木島はそれに感謝した。その数分後に泣き疲れた木島の寝息が聞こえるまで、葛城は陽に染まるグラウンドを眺めていた。
それから小一時間、木島に肩を貸していた葛城。
まだ陽は上りきっていない。そのため葛城は未だに窓辺に座っていた。
木島を起こそうとはせずに、ただ周りを眺めていた。
「今こそ、結託しないといけないな」と、葛城はある決断をした。
今の時間は空木が警戒しているのだ。
賢治は仮眠をとっているだろう。
「あいつは若すぎるな」
そう心の中で笑った。
「なんだかんだ言って自分が死んでも、泣くのではないか」
そう思うと葛城はおちおち死ぬことすらできなかった。
「可愛い部下に苦労をさせたくはない」
そんな考えに至るのに時間はかからなかった。
それからすぐに葛城の頭に響いたアナウンス。大声で全員に響いたのか、寝ていた生徒や長部でさえ飛び起きる。
『ステータス機能が実装されました』
そんな一言だ。そして全員の視界の端に残ったRPGのステータス画面。
彼らが目を合わせて確認をし始めるのに、そう時間はかからなかった。
入口付近で気配を探っていた空木でさえ、中に入っている。それだけ異常性が強かったのだ。
先の補給のために外国に出た時でさえ、空木が焦ることはなかった。そのため驚いたのは長い付き合いである葛城だ。
中に入った空木の額を数滴の汗が流れる。
「……その反応は、全員聞こえたってことか」
此瀬でさえ、おどけた様子はもはやない。
木島は少し安堵した。百パーセント得体の知れない存在ではないのだ、と。
「……ああ……それでこの端のステータスってのはなんなんだ?」
空木は体育会系の家庭や学校で生活をしていた。そのためゲームに触れたこともなく、数値の羅列を見て頭傾げた。
「ステータスは自身の能力を表す数値みたいなもの、だと思いますけど」
若いからかゲームの経験も豊富な賢治がそう返した。
それでも納得していなさそうな空木を見て、賢治はステータスに触れてみる。
予想通り触れられたので、そのまま引っ張り視界の中心に持っていった。
「うおっ」
空木と葛城の驚く声が重なった。
「長年の阿吽の呼吸がここで出るのか」と笑う賢治。
驚いた理由は、目の前にいきなり賢治のステータスが現れたからだろう。
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コードネーム・ケンジ
レベル1
HP550
MP125
攻撃75
防御55
速度85
スキル 狙撃、射術
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それを見せて「あっ、やっば」と賢治は言い、思いっきり葛城に頭をはたかれた。
「お前バカか」
「コードネーム……」
そんな洋平の一言が響く。
「……すまん、忘れてくれ」
そう言いながら頭を下げる空木。
それを見て全員が何も言えなくなったが、出てる場所が場所なだけにそんなこともあるかと、納得したようだ。
「そっそれで、何を聞きたかったんですか?」
名誉挽回とばかりに空木に視線を向ける賢治。
その顔を見てそれ以上怒れなくなり、「レベルからスキルまでだ」と賢治に返した。
「レベルは多分……ゾンビを倒したら上がるんだと思います。数値も平均はわかりませんが、レベルが上がれば比例して上がるかと」
「攻撃は攻撃した時の威力ですかね。防御はダメージをどれだけ削れるか。速度は走る速さではないでしょうか」
そんな此瀬のフォローが入り、空木は「ではスキルは?」とスキル以外は納得したようであった。
「それはわかりませんが、例えば俺の狙撃なら銃撃に補正をかけるんじゃないでしょうか。射術は銃も弓の扱いを受けるのかと」
「なるほど」と顎に手を当てる空木。
「じゃあ、俺の身体強化は運動神経でも上げてくれるのか。それと経験値上昇?」
そんな呟きをした空木。
「俺はそれの攻撃が高くて速度が低い感じだ。スキルは火魔法」
木島はぶっきらぼうに、眠そうに目をこすりながらそう言った。
「わっ私は防御が高いだけで、スキルは結界」
蓮井は木島に続けてそう答える。
それを見て木島の心境の変化を感じた長部と葛城。
「俺は一応、賢治の数値よりは二十ほど高い。スキルは金剛化」
「なら俺も言おう。一応、数値は長部と同じくらいだ。スキルは重力操作」
そんな二人に継いで光が口を開く。
「僕はMP重視です。スキルは回復魔法です」
此瀬はそれを聞いてから「皆さんと変わりないです」とだけ言う。
それのせいで皆の視線が一箇所に集まった。
まだステータスを言っていない、洋平の元に。
「……俺のステータスはHPが八百と、速度が百超です。ただ他の、MP以外は……十で、スキルは貫通と吸収、それと不明なのが一つです」
「へえ、弱いですね」
そんな声が室内に響く。
此瀬の声であった。まるで鼠をいたぶる猫のように、じとりとした視線を洋平に向ける。
「そんなに弱いのに、足を引っ張らないで済むのでしょうか。些か、恐怖を覚えますよ」
そんな反吐が出る理論を立てる此瀬。
そして彼を何度も体験させられた、あのトラウマをフラッシュバックさせる。
「なんで死なないのッ!」
「あんたなんて、生まれなければよかったのにッ!」
自身が作り出した子でありながら、そんな身勝手な言葉を並べる人たち。
不意に彼の口から何かが零れた。
「オゥェ……」
口の中で留められたそれは、彼の心を汚く染めるには十分であった。
出してはいけない、また躾と称した虐めが行われる。そんな気持ちから吐き出さずに飲み込もうとする彼。
「……これ使え」
長部が脱ぎ捨てた服。彼はそれにぶちまけてしまった。
吐瀉物、朝食の消化できなかった分が服につき、ツンとした独特の匂いがそこに広がった。
「やっぱり! 雑魚はこれだから嫌なんですよね!」
まるで自分はこの世界で死ぬことはないと語りたげに此瀬はそう言った。そこまでのスキルを此瀬は獲得したのだろう。
「……お前、何様だ」
それに反論したのは意外にも木島であった。
「はっ? ……いえいえ、ただの率直な感想ですよ」
少しまどろみながら、そう此瀬は答える。
木島はそれを見てふんと鼻を鳴らした。
「それなら別にいいが、俺はこいつとお前ならお前を助けはしない。……意味が分かるか?」
此瀬は顔を顰めた。
そんな言葉が来るとは思わなかったから。
誤算だったのだ。昨日の言葉から洋平を簡単に追い出せると考えていた。
だが木島はそんなことを考えてはいなかった。
「そうです……か……」
わざとらしく落ち込んだ様子を見せ俯いた。
それを見て木島はよりイラつく。
「だからそれがッ!」
「……いや別に構わないよ。……此瀬が言いたいのは俺が邪魔だから消えろ、そうだろ? ならそうしてやるよ。……木島ありがとうな」
木島の言葉の最中に少しの水を含み、口を洗浄した洋平。そのまま口元を押さえながら木島にそう言った。
そんな洋平の言葉を聞くだけの木島。
此瀬もまさかというような顔をしている。
「長部先生、光をよろしく。……それじゃあ」
そう言って音楽室の入口まで歩いていく。
ニタニタと笑う此瀬の笑顔だけがそこには残っていた。
力無いっていう部分は次回わかります。
それでですが、今回から他の作品の文字数が五万文字を超えたため、こちらの作品も力を入れていこうと思います。
そんな活動報告です。
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