目的4
前話を書き足ししたのでそちらも読んでもらえると幸いです。
この話も書き足しをするかと。
「……放出か」
名前からして吸収と対になるスキルだろう。
となれば何かが放出してゾンビの集合体は死んだ。
そんな予想を立てた洋平は、手を数度握ったり開いたりした。
手の感触に変なところはない。
何かを相手にぶつけたはずなのに反動がないのだ。
スキルの使用によってHPが減った、なんてこともない。
「……無意識に……ダメージを吸収していたとかか? そして触れた相手にそれを与えた」
ステータスからゾンビの集合体のHPは980だろう。
(……俺が今まで受けたダメージは、感染状態も含めれば1000は超える。それを放出したとなれば)
あいにくとステータスを詳しく見るスキルを、洋平は持ち合わせていない。そしてそんな補助的なステータス説明もないのだ。
彼は考えた結果、運が良かったということにした。スキル自体の使い方はだいたいわかったから。
彼は黙ったままその場を後にした。
トイレに向かい、また洋室トイレに座り込む。
今更になって体が疲れを訴え始めたのだ。
脂汗をかきHPの回復に努めようとする体の細胞たち。
それに身を委ねるように、洋平はもう一度個室で瞳を閉じた。
以前と同じ二時間ほどが経過して、また瞳を開ける洋平。
既に脂汗はひき顔色も別段良くなった。
むくりと倒れた体を起こし、変な体勢で寝ていたため体をバキバキと鳴らす。
先の戦いでゾンビは殲滅済みなのか、トイレの外から音は聞こえない。
「にしても、なんであの場面でエンカウントしたのかな」
そんな呟きとともに扉を開き外へ出た。
ゾンビはいない、ましてやエンカウントもない。
「……まずは道具を揃えるか」
洋平は考えることを止めた。
考えるための素材が少なかったからである。
それにまだ得ていない、もしくは回収しなければいけない武器もある。
最初に包丁を回収し吸収した。初期と同じように山菜ナイフを腰に差し、片手にサバイバルナイフを持つ形式をとっている。
あらかた投げた武器は回収し終え、必要な武器も得ている。
次いでサバイバルナイフのあったコーナーに向かい、大きめの斧と小さめのものをあるだけ吸収した。
重いものを多数吸収したからと言って体への変化はないようで、洋平はスキルに感謝する。
テントと着火剤、ライター等の生き残るのに必要な物を吸収してから、自転車コーナーへ向かった。
このホームセンターは変わっている。
というのも自転車の組み立てが面倒、との理由で自転車のペダルが付いたままなのだ。
「……楽でいいんだけどな」
一番高いママチャリに跨りサドルを合わせる。
そのままいくつかのチェーンを手に取り吸収する。
自転車をそのままにしてホームセンターの奥、作業員専用の場所へと足を運んだ。
(気になってはいたんだよな。お店の裏側って)
洋平の鼓動は高まった。
普段入ることのない、お店の裏側。
物がたまり何段にも重なったダンボール。
(なんだ?)
何か音が鳴った。
がさりというダンボールで少し擦れた音。
不意に暗闇がそこを包んだ。
洋平は巻き込まれこそしなかったものの、その現象に目を剥く。
目の前でダンボールが三つ、闇の中へと消えたのだ。厨二病のいう偽のものではなく、本当に現象として。
(敵か!)
そう思い包丁を無意識に放出し、闇の中へと放った。
もちろん、貫通がかかっていたため暗闇の中へ入ってもすぐには消えない。
「痛い! えっ、なんでなんで?」
そんな甘い幼い声が暗闇から響いた。
洋平は驚いたが確認のために、もう一度同じ行動をとる。
次はザシュッと音が鳴った。
「ひぎゃあああ。えっなんで二発目? 普通一発撃ったら撃ったら終わりでしょ! この鬼畜!」
そんな悲鳴混じりの声をあげたのは、小さな黒い光を帯びた少女。一言で表すなら妖精であった。
お尻に大きな包丁が刺さっている、と付くが。
「……そっか」
「そうよ、って、構えないで! 次は死んでしまうわ」
情けない声をあげながら洋平に情けをもらおうとする妖精。
はあっとため息を吐いた後、その妖精を見た洋平は無意識に包丁を投げた。
「なんでっ? 今何もしてないじゃん!」
「なんかウザかった」
妖精は「腹立つ!」と言いながら黒い円球を洋平に向けて飛ばした。
洋平は「うわっ」と声をあげながら、それを全て躱した。
妖精はそれを見て「なんでっ?」と悲鳴じみた声をあげたが、速度自体が遅かったので躱せないこともないだろう。
「なんで! 闇に関連する魔法の持ち主を見つけたと思ったのに!」
「そっか」
小さく目を細めそう答えた。
「そうなの……って、その手はなんなのかな?」
洋平は右手を出しており、その小さな妖精に触れようとしていた。
「いや、煩い小蠅がいるから倒しちゃおうかなって」
それを聞くと妖精は「まあこんなに可愛い女の子を倒すだなんて」と、ハンカチのような正方形の黒いものを口で噛んだ。
キーっとそれを伸ばしながら目を細める。
「無駄な三文芝居なんて見たくねえんだよな」
洋平はそう呟いて妖精を掴んだ。
吸収され消えていく妖精。
小さく漏らした「えっ? えっ?」という言葉が滑稽である。
(まあ、こんな変なやつもい)
(変なやつって何よ! そりゃ驚いたわよ! でも残念、ニクスちゃんはそう簡単に死なないわよ!)
何かが聞こえたかな、と洋平は無視してチャリを押して店を出た。
というわけで妖精ニクスの登場ですが、
次回から光サイドを書くので少しお付き合いを。
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