侯爵令嬢の事情
「君みたいに可愛いげのない女性とは結婚できない」
10年前、15歳の時に当時婚約者だった男にアンジェリカが言われた台詞だ。
当時のアンジェリカは婚約者にそう言われて、
咄嗟に思ったのは、
『ヒドイ!!』
でもなく、
『泣きたい!!』
でもなく、
『私ってなんてかわいそうなの!!?』
でもなく、
『ひ、否定できない。。。。』
だった。
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アンジェリカはハロルド侯爵家の長女として産まれた。
年が離れた兄が三人おり、アンジェリカは待望の女の子だったが、
母親は産後の日達が悪く、
アンジェリカを産んで間もなく亡くなってしまった。
父親は深く母親を愛していたため後妻は迎えず、
アンジェリカは父親と三人の兄というなんとも男臭い家族構成の中で育った。
しかも父親は軍部のトップを勤める男で、3人の兄も騎士団に入る予定だった。
もちろん乳母や侍女や女性の家庭教師など、
女性との関わりもあるにはあったが、
儚げで可愛らしかったという母親ではなく、
熊みたいで武骨な歴戦の猛者である父親に似たのか、
幼い頃から女の子らしさとか、
可愛らしさとかは皆無であった。
しかし父親と兄三人は母親が命と引き換えにしてまで生んだアンジェリカを溺愛し、
家族の愛情は盲目というか、
お花を摘んで愛でるのではなく、
木に登り木の実を食べ、
刺繍をしてはにかむのではなく、
木の棒を振り回して嬉々としているような女の子を
『可愛い、可愛い』
といって大事に育てた。
アンジェリカはお茶会などに出入りするようになり、
年が近い令嬢と接するようになると、
アンジェリカは薄々
『なんかちょっと私っておかしい?』
と思わなくはなかったが、
『………………まぁ、いっか( ´_ゝ`)』
最終的には悩むのを放棄した。
アンジェリカはあまり悩まない性格だった。