可愛げってナニソレオイシインデスカ?
「可愛いげがない女だな。」
銀髪に碧眼、
背も高く、
スラッとした均整のとれた出で立ち、
大変見目麗しい男性に今にも凍えてしまいそうな位の冷たい眼差しで、
憎々しげにそう言われて普通の女性なら傷ついてうるっと涙でも流すところなのかもしれない。
しかし特に『涙』の『な』の字の気配もしない私はやはりどこかおかしいのだろうか?
っていうかいくら気に入らなくても、
ほぼ初対面の部下に言う台詞じゃなくない?
部下に好かれようって気は皆無か?
何様?
まぁ今をときめくルナンド公爵家のご子息レオンハルト・ルナンド様か。
父親は宰相で国の実権握ってるしな。
まだ23歳とかだもんね。
25歳の年上、しかも女の部下の私になんかなめられたくないよね。
うんうん。
わかるわかるー。
でも『理解できる』のと『感情』ってべつもんだよねー。
こちとら公爵家よりは家格が劣る侯爵家だけど、
色々あって結構な後楯があるんだ。
初対面でなめられたら困るのはこっちも同じだ。
私はこの近衛第2騎士団、部下20人とこのクソナマイキそうなお坊っちゃま団長の間でこれから仕事していかなきゃならんのだ。
「ルナンド団長、
わたくしアンジェリカ・ハロルド副団長は『可愛いげ』と言うものは母親の腹の中に置き忘れてしまってまして。
生憎取りに行く手段がありません。
ご期待に添えず大変申し訳ありません。
まぁ、騎士団の入隊試験に『可愛いげ』が必要とされる試験科目はありませんし、
業務を行う上では必要ないかと。」
生まれて25年、色々あって身につけた完璧な作り笑いで言い切った部下の私を、
本日付で私の上司になった麗しの騎士団長さまはせっかくの美しい御尊顔を醜く歪ませ、
冷たいどころか射殺しそうな目付きで睨んできた。