契約
「お前… ずっと見てたのか?」
「オンオン!」
俺のことを忘れるなと言わんばかりに
尻尾をふりふりしながら戯れてきた。
そういえば、叡智の声がショートウルフと契約とか言ってたっけ。
吃驚して返事をしたことで契約が完了したことになったらしい。
全長30cmほどで、全身の毛は産毛程度しか生えていない。
どうみても唯の子犬である。
どうしてこんな所に一匹でいるのかわからないな……
群れと逸れたか、親が死んでしまったか…。
まだこの世界の事も殆どわかっていないし、子犬を養っていく余裕はない。
本来ならば、見捨てるべきだろう。
そう思うのだが、どうやら俺にはこいつを見捨てることは出来なさそうだ。
契約が勝手に行われたのも何かの縁だと思うし、何より可愛い。
そう、凄く可愛い。
産毛しか生えていないのでもふもふはできないが、産毛がくすぐったい。
尻尾をふりふりしながら俺の頬をぺろぺろと舐めてくる。
抱き寄せると、温かな感触が伝わってくる――。
「こうしてると、すごい落ち着くな」
「クゥゥン…」
異世界に転生し、吃驚し、ワクワクし、自分のスキルを確認した。
お金に対する不安もなくなり、やる気も満ち溢れている。
でもこうやって抱き寄せていると嫌でも感じてしまう。
「あぁ… 俺、寂しかったんだな。
俺、ずっと一人だったから……。
お前も一人なのか……?
一人はすげぇ寂しいよな――。
今ならまだ契約を解除することもできると思う
でも、もしお前がいいなら俺と一緒にこの世界を観てみないか?
お前と一緒なら頑張れそうな気がするんだ……――。
」
「クゥゥン… オンオンッ」
しょうがないな!といった目で此方を見つめてくる。
「……ありがとな。 よろしくな、相棒!!!」
「オン!」
出会って間もない1人と一匹だったが、
互いに何かを感じるものがあったのか、将又契約をしたせいなのか。
確かな絆が結ばれるのを感じたのだった。
「さて、そうと決まれば、お前の能力も観ておかないとな!」
「オン」
《承認。ショートウルフ[名前なし]のステータスを表示します》
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名前: なし
総資産:10000G
種族: ショートウルフ(幼体)(★)
成約: [シン]の眷属
<スキル>
汎用級
【牙技 Lv1】
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目新しい項目を考察していく。
種族はショートウルフ。これはまぁいいか。
見た目通りだし。定番で行くと次はグレートウルフとかになる気がするけどな。
…そもそも進化するかわからないので、完全にラノベ読者の妄想である。
他にも、[★]とは何を表しているのか?等の疑問はあるが、
その辺りは今後調べる機会は幾らでもあるだろう。
成約って項目は俺には存在しなかった。。
叡智の声の話によるとこれは契約を受けた側に発現するものらしい。
契約の種類は複数あるらしいので一概に契約といっても様々な形態があるそうだ。
[シン]の眷属というのは、魂の繋がり的な話だと
主従関係に置ける、かなり上位の契約であることがわかった。
スキルは、今まで特異級と伝説級しか見たことがなかったが、
汎用級は一番下のランクに位置するものらしい。
いや、特異級と伝説級しか持ってないってのが可笑しな話で
本来であれば、汎用級が一般的なスキルだろう。
ウルフらしく【牙技】を習得しているようだ。
総資産を見る限り、【牙技 Lv1】は10000Gの価値らしい。
そして、これが最も重要だろう――
「お前の名前を決めてやらないとな!」
「!? オンオン!」
待ってました! と言わんばかりに尻尾を振りながら胸に飛び込んでくる。
名前かー…。この世界の一般的な名前がわからないし、考えたところで答えもでない。
直感でいくことにした。
「お前の名前はラカンだ!
俺の名前はシン。改めてよろしくな、ラカン!」
「オンオンオン!!!」
気に入ってくれたようで、俺の頬をぺろぺろと舐め始めた。
《ステータスの変更を確認。情報を表示します。》
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名前: なし→ラカン
総資産:10000G
種族: ショートウルフ(幼体)(★)
成約: [シン]の眷属
<スキル>
汎用級
【牙技 Lv1】
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――こうして、シンとラカンの旅が始まりを迎えたのだった。