現状の確認
自分が転生したのだと実感すると、無性にわくわくしてきた。
前世不幸だったシンは、
かき集めたライトノベル読むことで現実逃避をしていた。
異世界転生する物語に心を躍らせ、
自分が転生したらこうしたいなぁという妄想も
膨大にある時間の中で幾度となく行ってきたのである。
そして今自分はその舞台にいるのだ。
そう理解すると心も踊り始めた。
「叡智の声だっけ? 聞こえる?」
《肯定。声に出さずとも念じるだけで、意志を受け取ることが可能です。 》
なるほど、これは便利だ。
自分のスキルであるならば、有効利用しない手はないだろう。
その為にも今後、何が出来て何が出来ないのかを確かめていく必要があるだろう。
だが、とりあえずこれだけは確認しておく。
『お前の能力を使うのに何か制約はあるのか? 消費するものとか』
ライトノベルの定番では魔力等を消費することが多い。
使いすぎて死んだりしたらたまったものではないのである。
《解答。基本的には制約はありません。》
『基本的には?』
《解答。主様の思考と記憶を利用し演算を行うため、
その範囲内で解答可能な事柄に制約は存在しません。
[世界の知識]への接続により、範囲外で新たな知識を得ることは可能ですが、
世界に秘匿されている知識の場合、その価値に沿ったゴールドが消費されます。》
ゴールド。恐らくこれはこの世界の通貨のことだろう。
通貨が存在するということは、この世界に文明が存在するということである。
森だけの世界だった可能性もあったわけだし、これは嬉しい報告だった。
しかし、どんな生物が住んでいるか解らない以上、慎重に行動したほうが良さそうだ。
「あとは……」
世界の知識。これは正直よくわからないな。
秘匿されている情報を得るにはお金が必要だと理解しておけばいいだろう。
そして、現在地がアルステイト郊外だという話を思い出す。
此処がアルステイト郊外だという情報は俺の記憶には存在しない。
何せ、一度もきたことがない異世界なのだから、当然である。
そしてこの情報が消費ゴールドなしで解答されたということは、
[世界の知識]への接続により公開されている情報であるということだったんだろう。
このレベルの情報が無料で聞けるのであれば、現状としては十分だった。
そんな事を考えつつ、現状確認を進めていく。
『ステータスとやらは、どうやったら見れるんだ?』
《解答。ステータスと念じることで、何時でも閲覧が可能です。》
さっそく念じてみる。
「おぉ 異世界っぽい!!」
浮かび上がったステータスを見て思わず叫んでしまった。
これが浮かびあがったステータスである。
--------------------------------------
名前: シン
総資産: 1000G
所持金: 1000G
職業: 異世界人(★)
<スキル>
伝説級
【叡智の声 Lv--】
特異級
【七福神の慈悲 Lv--】
<耐性>
【資産強奪無効】
<契約 >(1/1)
ショートウルフ (★)
--------------------------------------
名前はシンか。
前世の名前は加藤心だった。心という名前から
何故かカタカナに改名されていた。理由は謎である。
この世界に都合のいい名前になったとかそういうことだろう。
色々と確認したいことはあるが、
お金に敏感な俺は、ステータスに総資産と所持金が表示されている事、
[世界の知識]の秘匿された情報にお金が必要になるという話から、嫌な予感がした。
明らかに、前世とお金に対する認識が違っているように感じたからだ。
恐る恐る聞いてみる…。
『…お金って何に使うんだ?』
《解答。主様が認識されている通貨機能の他に、
スキルの獲得、スキルの使用、転職等、能力の向上の対価として使用されます。》
……なるほどな。
嫌な予感は見事的中した。
この世界は、お金によって強さが決まる世界みたいだ。
今まで喜んでいたのが馬鹿みたいじゃないか。
此処がどんな世界でも幸せになってやるとは思ったが、
お金で全てが決まる世界に転生したというなら話が別だ。
早くも俺は完全に希望を失った。
俺はお金に愛されない男。
どう足掻いてもこの世界で生き抜いていくことは不可能だ。
神様の悪戯も度が過ぎているだろう……。
わくわくした気持ちは一気に崩れ去り、
絶望を抑えきれず、崩れ落ちる。
暫くそうしていると、
ふと【七福神の慈悲】というスキルに目が留まった。
「まさかな……」
七福神とは前世、日本で伝わる金に纏わる7柱の神である。
前世で生きていた頃、呪い殺してやろうと思い調べたのでよく覚えていた。
『この【七福神の慈悲】というスキルはどんなスキルだ?』
《解答。【七福神の慈悲】は、特異級スキルであり、
生命の魂が特異な経験をすることに生じる、
魂の突然変異により生み出された固有スキルとなります。
確認されることは非常に稀であり、同じスキルは存在しません。
【七福神の慈悲】のスキル詳細の表示を行いますか?》
『あぁ頼む』
《承認。【七福神の慈悲】のスキル詳細を表示します。》
------------------------------------------------------------------
特異級スキル【七福神の慈悲Lv--】
[日本]に置ける7柱の神の慈悲によって齎された。
7柱の神に沿った7つの効果が発現する。
<7つの効果>
【恵比寿天の瞳】
資産価値の鑑定を行うことが可能となる。
【大黒天の小槌】
作物に付与効果を施すことができる。
【弁財天の琵琶】
1日1% 所持金増加する
【毘沙門天の矛】
投資額・実績額が10倍になる。
【布袋尊の土産】
スキルの貸付、返還を行うことができる。
【福禄寿の宝珠】
耐性【資産強奪無効】を得る。
【寿老人の真言】
伝説級スキル【叡智の声 Lv--】を獲得する。
------------------------------------------------------------------
「……」
絶望していた表情は一転、笑みを抑えるのに必死で
ニヨニヨとした不気味なものになっていた。
神様が流石にあれはやりすぎたと反省してくれたのだろうか?
凄いスキルを授けて転生させてくれたようだ。
今までの、お金に対する不幸がこの時、報われたように感じたのだった。
心の奥から、込み上げてくる嬉しさを抑えつつ、分析する。
この世界がどういう仕組み成り立っていて、
どういう生物が住んでいるのか、それはまだ分からない。
だが、お金によって全て決まる世界であるならば、
このスキルを有効活用することで、どうにでもなるだろう。
そう考えると、どうしようもない幸福感が襲ってきた。
それほどにお金に苦労してきたシンにとって
お金に困らないスキルを持つというのは、価値のあることだった。
「ふふふ… これは勝ったぞ。大勝利だろう!
顕現せよッ七福神!!!! なんちゃって」
謎のポーズも合わせ厨二モード全開である。
「――だ、誰もいないよな……」
興奮が冷めてくると、急に恥ずかしくなり辺りを見回す。
すると目の前に、不審者を見るように、
ジトーっとした視線で此方を見つめる子犬を発見してしまったのだった。