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プロローグ ― お金に愛されない男

初投稿です。よろしくお願いします。

 産まれたの頃はそれなりに裕福な家庭だった。

 父親が会社を経営しており、中小企業とはいえ経営も黒字。

 何不自由ない暮らしだったと、朧気に覚えている。


 そんな温かく愛情いっぱいの家庭で育っておかげか、

 少年は、明るく何事にも積極的で努力を惜しまない子供に育っていった。


 小学1年の時には、何か習い事をしたいと自ら考え親に相談し、様々なクラブを見て回った。

 そして、単純なかっこいいという理由から剣道を選び、毎日道場に通った。

 元々運動神経がよく、何より毎日欠かさぬ努力を続けたことにより、

中学3年の頃には全国大会にも出場した。

 そんないつも明るくみんなに優しい少年は友達も多く、常に人の中心にいた。

 中学の時には、剣道で結果を出していたこと、顔もまあまあだったこともあり、結構モテた。


 時は経ち、18歳の誕生日。

 父親に会社を継ぐという選択肢もあっていいと言われ、見学にいくことになった。

 みんな生き生きと働いているそんな職場を見て、自分もここで働きたいなと思った。


 ――そしてこの日、そんな気持ちとは裏腹に、少年の運命は狂い始めたのである。


 見学の1か月後、父の経営する会社が倒産した。

 理由は、一番の取引会社の粉飾決算が明るみになり、それに巻き込まれて業績が急悪化。

 立て直せずに倒産せざる得なかったということだったらしい。

 破産したのは良いものの、会社を立て直そうとした際に、闇金などにも手を出したことにより、

 すべてを清算することはできず、数千万の借金を背負うことになったのだ。

 父親は瞬く間にやつれていき、酒におぼれた。それがきっかけで母親は家を出ていった。

 高校では、父親の噂が瞬く広まり、自然と人が避けるようになっていた。

 そんな中、貧乏すぎる生活を送っていたある日、父親が自殺した。

 借金による重圧と罪悪感に耐えられなくなり、自ら命を絶つことを選択したのだ。

 残された借金は少年に降りかかり、逃げるように家を出た。

 母親を探したが見つけることはできず、高校を辞め、借金取りから隠れながら

 住み込みのバイトを始め生活をすることになった。


 日々の借金地獄の中、思考が朦朧としながらも、いつか借金を返せると信じ、

 バイトに全力を注ぐ生活を送ったいたのだが、日々状況は悪化していった。

 なぜなら、行く先々でバイト先の会社の業績悪化し、解雇されてしまうのだ。

 バイト代が払われないことも珍しくなく、少年はどんどん追いつめられていった。


 新しいバイトを始めては、バイト先が業績悪化によりつぶれていく。

 お金は一向にたまる気配を見せず、バイトをしてもしても借金は再現なく増えていくという

 循環から抜け出すことは最早無理であった。


 借金取りからは逃げ続ける。

 住み込みのバイトも多く有るわけではない。

 精神的に極限の状態で日々を過ごしていた影響から、

 明るかった性格は、暗く、全てを諦めたものへと変わっていった。


 そんなある日、いつもの様に勤めていたバイト先を解雇され、行くあてもなく彷徨っていた。

 そこに偶然、少年時代に仲の良かった友人が声をかけてきた。

 軽い気持ちで関わってしまって大丈夫かなと思いながらも、

 自分の現状を説明し、助けを求めたのだ。

 そして、友人も快く受け入れてくれたため、お世話になることにしたのだった。


 一緒に暮らし始めてから、生活が落ち着き始めた頃、

 またしてもお金絡みの不幸が起きる。

 家に強盗が入り、金品が全て盗まれ、通帳のお金も不正に引き出されるという事件が起きたのである。

 当然一緒に暮らしていた少年が疑われ、裁判を起こされ、弁護士を雇うお金もないため、敗訴。

 損害賠償を支払うことになったしまった。

 友人とは縁を切り、さらなる借金地獄へと進んでいくのである。


 その時、今まで気づきつつも認められなかった

「自分がお金に愛されていない」という事実を受け入れた。


 それ以来、人と関わるのが怖くなり、なるべく人にかかわらない職場を転々とした。


 20代後半になる頃には、開き直り、鋼の心を手に入れていた。

 人間不信と借金地獄、当然、病んだ時期もあったのだが、

 ある時、バイト先の同僚がお金のトラブルによって正気を失い、殺すと脅されて

 保証人のサインをさせられ、逃げられた時に、開きなおること成功した。

 あぁ、何をやってもお金の不幸からは逃げれないんだと悟ったからだ。自然と笑いが出た。


 同時に、もう働く意味はないと割り切りホームレスとなった。

 恵んでもらったお金すら、こじつけとも言えるレベルで奪われていく。

 ゴミをあさり、なんとか生きるようにして1年がたったある日、

 突然、行方不明になっていた母親が現れた。

 見た目は随分老け込んでいたが、すぐに母だとわかった。

 目が合うと、母親が優しく微笑み「ごめんね」と言いながら抱き寄せてくる。


 あぁやっと救われると思った。


 チクっとした痛みがあった。

 自分の腹部を見てみると、ナイフが刺さっているのが見えた。

 そんな状況でも母親は微笑み、幸福そうな顔をしていたのだった。


 大量の血が一面を埋め尽くし、朦朧とする意識の中で思った。

 ――あぁ やっとこの地獄から開放される。

 ――来世では、お金に愛される人間になりたいな、と。


 こうして、お金に愛されていない男の30年の人生が終わりを迎えたのである。

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