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第三十九話 疑惑を呼ぶ巨人 Ⅱ

 王国は遺跡の破壊を一つの基本としているそうだ。これは俺も、帝国暮らしを始めてから何度か痕跡を目にしている。


 ……破壊活動を行っている理由は定かではない。部外者から見る分には、メリットなんて殆どない筈なのだが。


「――召喚に関係があるのでしょうか? 各地にある遺跡の存在が」


「さてな。まあ、いつか関係者に直接質問したいもんだが……」


 自分たちだけで真実を掴めるなら、楽な話であることに違いはない。

 適当に会話を切り上げて、俺達は調査を再開する。

 

 得られたのはこれまでと同じ、ギリシャ神話に基づく巨人の名前が使われていたこと。この調子だと他を調べても同じだろう。

 ――思えば、パレーネ遺跡という名称も妙だった。


「なあ、この遺跡の名付け親って誰なんだ?」


「ギガ―スの方ですね。王国から亡命してきた人物の一人で、各地の遺跡を放浪しているとのことです。もう亡くなってるんですけどね」


「直に話を聞ければなあ……」


「何か気になるんですか?」


「……パレーネって、古文書にあるギガ―スの故郷なんだよ。そんな名前をつけるってことは、魔獣について何か知ってそうだな、ってさ」


「確かに、有り得そうですね」


 でも、亡くなっているのなら仕方ない。最低でも子孫に話を聞くか、痕跡を辿るかはしたいところだが。

 一通りの建物を回った後で、俺達はナーガの元へと移動する。


「さっそく奥の方へ行ってみましょう。まだまだミコトさんでなければ読めない文字がありますから」


「……写しとか取ってないのか?」


「あるにはありますけど、すべてではありませんね。重要そうな施設に書かれている文字については、エオスの研究所にあると思いますが」


「……持ってきてない?」


「残念ながら。――そんなにナーガへ乗りたくないんですか? ヘカテさんに頼んでは?」


「そうするかね……でもせっかく手配してくれたんだし、乗らないってのは……」


「男らしくハッキリ決めてください」


 耳の痛い指摘である。

 ならば言われた通り、覚悟を決めて乗ることにしよう。何事も経験だ、挑戦する気持ちを忘れてはならない。


 背中を下ろすナーガに、俺は恐る恐る足を乗せる。

 一方でイダメアの方は準備を終えていた。実に落ち着き払った様子で、ナーガの方も抵抗感は見せていない。


「……ミコトさんって、意外と保守系の人間です?」


「多分……色々と環境に甘えることは多いよ。――どうにかしたい気持ちはあるんだが、コレがなかなか治せないんだよな」


「そうですか……でも、恥じる必要はないと思いますよ? 人間としては、一般的な反応ではないでしょうか」


「だったら余計にどうにかしたい」


 言いつつ、俺は無事にナーガへと跨った。


 すると眼下の竜は、なけなしの勇気を讃えるように吠える。更にはこっちが驚くぐらいの勢いで立ち上がって、直ぐにでも走り出そうとしていた。


「ふふ、元気なナーガですね。まだ若いようですし」


「ね、年齢とか分かるのか?」


「まあ何となく。大人の個体はもう少し大きいですし」


 では出発、とイダメアはナーガに指示を飛ばす。

 俺が乗っている方も含めて、彼らは迷うことなく駆け出した。頭を低く、風を切るように疾走する。


 握っている手綱を離せば振り落されるのは確実。俺は全身から冷や汗を吹き出しながら、とにかく力を抜くなと必死になっていた。


「この遺跡、実は地下空間がありまして! そこにも解読して欲しい文字があるんです! 研究所からお礼が出るかもしれませんし、よろしくお願いしますね!」


「わ、分かっ――」


 直後のこと。

 数時間前に聞いたばかりの咆哮が、俺達とナーガの鼓膜を揺さぶった。


 さすがに異常状態だと理解したんだろう。まず急停止が行われ、ナーガ達は目つきを変えて周囲を見渡している。


「……フェンリルではありませんか? 今の」


「かもな。――この遺跡、普段から人はいるのか?」


「はい、少数ですが。……彼らと合流し、至急対策を練りましょう。エオスにも連絡を入れておきます」


「えっと、頼んでいいのか」


「もちろん。こちらも、ミコトさんにフェンリルとの戦いをお願いすることになるでしょうしね」


 簡単な取引。それぞれの役割に従って、物事を進める。

 なら俺が考えるべきは、いかにしてフェンリルを退けるかの一点。拘束に使うクレイプニルが無い状態で、どう呪縛結界を突破するか。


 頭の痛くなる難題が、振りかかっていた。

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