うどん
「それ…頂戴。」
みんなは学食を利用したことはあるだろうか?
俺は普段、弁当持参なのでほぼ学食は利用したことが無く、仮に弁当を忘れたとしても通学途中にコンビにより、適当に惣菜パンを買うような生活を送っている。
そんな学園生活を約1年と2ヶ月繰り返していると、学食の存在すら忘れかけてしまうのだ。
で、俺が今なぜ学食でうどんを啜っているのか、そしてあまり馴染みの無い女子生徒に食ってるうどんを物欲しそうに見られているのか…
今16年生きてきてそういう経験ないから理由を説明しろといわれてもまったくできないわけなのだ。
「やばい寝坊だ…」
両親はダブル出張中であり、俺を目覚めさせるのは俺の暇を木っ端微塵にブレイクさせてくれる相棒のスマホしかないわけだが、設定したアラームはものの見事に停止しており、俺の睡魔はブレイクできていなかった。
そんなスマホが示す時間は7時50分。学校が近くにあればなんら問題が無いであろう時間帯なのだが、俺は自転車通学であり、それも結構遠い距離なのでどれだけ急いでもこの時間帯からだと間に合うかギリギリである。
とりあえずそんなことを考えている時間ももったいないのでベットから飛び上がり、急いで身支度を済ませると荒々しく家を飛び出しチャリを漕ぎ出した。
通学路は急な坂や曲がりくねった道などは無いにしろ全力疾走チャリ&5月の微妙な気温は俺の体力を奪うには十分だった。
かっ飛ばすこと数十分。予鈴数分前に何とか学校の門を潜り抜けることができた。正門で服装検査の取締りをしている生徒会と生徒指導の先生には何か冷たい視線を向けられた気もしたけど・・・
ちなみに、俺が通っているこの栄善高校。クラスは一学年10クラスあり、一クラスに30人くらいの生徒数が在籍している。三学年合わせると900人くらいになるのでかなりの規模ではある。
そのためなのか、校舎を増改築したような痕跡がそこ等中にあり校舎内は若干迷路状態だ。
この学校に入り、無事進級して二年になったがいまだに場所がわからない教室とかあるからな・・・。
と、栄善あるあるを思いつつクラス分けして間もない、まだ馴染みの無いクラスに2年D組に到着し自席に腰を下ろした。
「ふぃ~危なかった~」
「マジぎりぎりじゃねぇか。昨日夜中までお楽しみだったのか?」
「何の話だよ…」
遅刻ギリギリだった俺に真っ先に話しかけてきたこのチャラオ君は峰岸竜間だ。
一年のころから何かと席が近かったりした影響でよく話すようになり、今に至る。
一年の時もクラスのムードメーカー的存在でこの2年D組でも着々とその地位を確立している。
ちなみに説明するとこの学校、1年から2年に進級するにあたり、クラス替えがある。そして2年から3年に進級する際も当然・・・とはいかず、その時はなぜかクラス替えはしないという謎システムだ。
つまり、ワクワクしながら高校入学。馴染み無い顔ぶれとドキドキしながらも親睦を深め、ようやく仲良くなった段階でクラス替えをくらい、また2年からは入学当初の心境に逆戻りというわけ。
なのでまだ新学期もとい2年生生活始まって2ヶ月くらいしか経過していないので1年のときに顔なじみがいないと話し相手すらいないというボッチ状態が発動してしまうのだ。
まぁ・・・1年のときもボッチだったやつは新しい邂逅の場を得たわけであるが・・・
その点、俺は竜間と同じクラスになれてラッキーだったわけだ。
といっても話し相手は竜間くらいなのだが・・・
俺・・・相沢悠斗は竜間のように社交的なタイプではないのだ。
★
「よっしゃ、弁当食おうぜ弁当!授業中もう、腹が鳴りそうであせったわ~」
きれいに巾着で包まれた弁当片手に俺の席に歩み寄る竜間に俺はいつも通り鞄に手を差し伸べる。
あの弁当は母親お手製なのだろうか?それとも彼女がいるのか?
妙に女性ものっぽい巾着に毎度疑問を浮かべるが、以前それに関して聞いた時何故か話をはぐらかされた。
まぁ、その話はさておき、現在昼休み。学園生活で言うところの至福の時間。昼飯&自由時間は昼間の退屈な授業から開放された学生諸君のオアシスともいえよう。
といっても俺の場合、竜間を無駄話視ながらダラダラしてるとすぐに授業が始まっちまうんだが・・・。
そんなことを考えつつ、鞄の中に手を突っ込んだ瞬間、あるひとつの事実に直面した。
「あ・・・今日弁当持ってきてねぇ・・・」
「マジかよ。そういえばこう来るのぎりぎりだったしな~。やっぱり昨日の晩・・・」
「だから何の話だよ・・・」
朝聞いたような台詞にため息をつく。
「それじゃあどうすんだ?購買でも行くのか?」
「購買か~」
昼休み開始からもう5分経過している。
以前、移動授業の帰り、昼飯時に購買の前を通過したことがあったがドン引きするくらい人の群れが成されていた。
あの時は確か昼休み開始から3分くらいだったので、5分経過した今から言ってもたいしたものは残ってないだろう・・・。それにこの教室から購買までは結構距離あるし。
となると見出される選択肢は・・・
「しょうがない・・・学食行ってくる」
「まぁ、それが妥当だわな。しょうがねぇ・・・友達に振られてボッチの俺は一人さびしく―」
「あ、竜間君ひとり?なら一緒に食べようよ!」
「ほらみっちゃん、席あけてっ」
俺の前から立ち去ろうとする竜間にクラスの女子グループから声がかかる。
これがリア充というやつか・・・。よく考えると俺、高校入学から女子に声かけられたことって・・・いや、涙で適そうだから考えるのやめよう。
「じゃ、学食行ってくるわ・・・」
「どうした?テンション低くね?」
「うるせぇー!」
俺は打ちのめされた小悪党のごとく捨て台詞を残して教室から去った。
教室を出た勢いでもあるが俺は急いでいた。
そう、購買の場所も遠いが学食の場所も遠いのである。普通の高校なら景色のいい屋上付近とか、中庭が望める本館とかなのだろうがこの学校の食堂は何故か暗い地下にある。
なぜそんなところに食堂を作ったのか・・・食材運搬等も不便な気がするが。
人が押し寄せ、売り物がほぼゼロ状態の購買を横目に俺は無事、学食に到着した。
そこそこ生徒はいるものの、そこまでの混雑はない。その理由は先程の購買の影響だったり、弁当を持参するもの、近くのコンビニに寄るものが大半だからだと思う。
そういう理由があるので学食は場所が遠くともスムーズに昼飯が済ませるのだ。
さぁ、今日は昼飯済んで教室に戻っても竜間は女子に絡まれてそうだからどこかで昼寝でもしてから戻るか・・・などと考えつつ、何の気なしに食券の肉うどんのボタンを押し、受付のおばちゃんに渡す。
うどんは1分も待たぬうちに俺の手元に届いていた。はやい、やすい、うまい・・・かどうかと聞かれれば普通だが、手短に済ませたいならやっぱりうどんが早くていい。
お盆を手に適当に席を探していると、ちょうどテーブル席の端っこが空いていた。向かいに人はいない。
一直線にそこに向かい、座ると即効で割り箸を割る。
あれだな・・・一人学食は何か・・・あれだわ。うん、とっとと食べてここを出よう。
そう心に決め、俺は一心不乱にうどんを・・・
「熱い・・・」
うどんは熱かったよ・・・
あせる気持ちを抑え、仕方なく息で覚ましながらうどんを啜る。啜る。啜る・・・とただ食べる音だけに夢中になっていたのだが、ふと、向かいの席から異様な視線を感じ、俺は顔を上げた。
そこには―
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ヨダレを垂らしながら輝かしい大きな瞳で俺の食べるうどんに視線を送る少女がいつの間にか向かいの席に座っていたのだ・・・