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「今いるのはここ。
で、この○印をつけてあるのは自家発電の建物──まぁ病院やショッピングモール、それにホテルだったかな。
街自体の送電は止まってるけど、自家発電が生きてるかも知れないし、水が出る所なら、温かいシャワーも使えるかも知れないよ」
「それはいいな……湯船たっぷりのお湯なんてあったら天国だな。
運があれば、の話だけど」
二人で顔を見合わせて笑い出す。
そして──どちらからともなく、僕らは見つめあい、軽く触れあうくらいのキスをしていた。
アリスが隠れ家にしていた建物の屋上、空は青くてこんなに綺麗なのに、下を見れば地獄のような景色が広がっていて、嫌でも現実を思い知らされた。
「ここから屋上伝いであそこに行く。
綱渡りは得意?」
へっ、今何を言われた?
綱渡りって、サーカスじゃあるまいし、得意なわけないだろ?
そんな僕の顔を見て、くすっと笑ったアリスの顔が可愛くて、しかも綺麗で、思わず見惚れてしまっていた。
「この辺りはビルの高さが同じくらいだから、屋上から屋上に長い板を渡して、隣のビルに移動するんだ。
ちょうど平均台くらいの幅の板かな。
あいつらが上に上がって来たとしても、バランスが取れなくて渡れないだろ?
その代わり、命綱は無いから、落ちたら最後。下は見るなよ?」
にっ、と親指を立てて笑うアリス、確かに、高さと風さえ気にしなければ大丈夫だろう。
「大丈夫……、木の上で眠るよりはずっと簡単だよ。
平均台だと思えば簡単さ、多分ね」
「じゃ、行こうか」
渡るビルの屋上に、あいつらが居ないのを確認してから、長い板を隣の建物に渡して、馴れたように歩いていくアリス。
アリスが渡りきると、僕が細い板に足を踏み出して、恐々と渡り始め…、ギシギシと板が音を立ててきしむのに心臓が縮む。
下を見ないように、前だけ見て、と自分に言い聞かせて、なんとか渡りきる。
渡りきったら板を引っ張って、違うビルの屋上にかけて渡る、というのを何度か繰り返した。
長い板は長さの分、重さもあって二つ目のビルからは僕が変わって橋をかけたが、腕が重さでミシミシと言い始めた頃に、アリスに手で止まるように促された。
ライフルを構えながら手招きされて、ライフルの向いた方向を見るとビルの屋上にあいつらがわらわらといるのが見えてぞっとする。
「……ざっと十匹、片付けておいたほうが後々楽だな……」
アリスが言い終える間もなくライフルが発射され、ゾンビが一匹倒れた。
思ったよりも音がしないってことは、ライフルにサイレンサーが付いていたんだろう。
あっという間に一匹、また一匹と倒れていき、数分も経たずに動いているゾンビの姿はなくなった。
「すごいな……アリス」
全弾命中──しかも全部が額の真ん中に当たっていて、無駄弾っていうのがまったくなかった。
感心した僕が呟いたのが聞こえたのか、アリスが右手の親指を立てて笑っていた。
青い空の下で、その笑顔はとても眩しかった。




