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「シュー、銃の練習をしようか」
アリスがしばらくしてから口を開いた。
「うん、教えてくれるんだろ、アリス先生」
「ああ、きちんと撃てるまでな」
最初は装填の仕方、それから銃の持ち方、それから狙い方と、初めて銃を触る僕にも分かるように丁寧に順を追って教えてくれる。
「ああ、だめだシュー」
ピストルの構え方でアリスにダメ押しをされた。テレビなんかではよく頭上から目線にと構えて撃つのを見てたけど、違うんだろうか。
「それだと標的が一瞬消えるだろ、だから銃は下から上に動かして狙うんだ」
「あ……本当だ、標的が見えなくなる」
「狙い方はピストルもショットガンなんかも下から上に、だから」
基本的な銃の構え方、撃ち方を習い、リボルバーの薬莢の取り出し方を教わった。
「リボルバーは弾の交換に手間がかかるけど、念の為に」
最初に弾込めしておけるマガジンは予備でいくつか用意しておくこと、と空のマガジンに弾を込めて空のマガジンと交換する、という練習もした。
「それから……ライフルを振り回すのは危ないから、なるべくならしないこと。……うっかり暴発なんかしたら目も当てられないしね」
くすくすと笑うアリスに、笑った顔を初めて見たとびっくりしてたら、ふいに近づいて来た彼女にキスをされてしまった。
「何そんな呆けた顔してんだよ」
何だか顔が赤くなっていくのが分かる。
金髪の美少女に頬だけどっ、キスされるなんて初めての事で。
アメリカじゃ挨拶くらいの意味しかないかも知れないけど、僕は日本人で、頬のキスでも意識しちゃうじゃないか!
あ、いや……これじゃあ本当に僕がヒロインで、アリスがヒーローじゃないか……。
否定出来ないあたり、ちょっと情けないなぁ。
「シュー、その背中のリュックの色さ、目立つから別のにしないか?」
アリスが僕の背中あたりをじーっと見てて、何だろうと思っていたら、嫌そうに言われてしまい、背中の非常袋を手で叩かれた。
確かに銀色の布地で出来ていて、目立つことこの上ない。
「……でも他に持ってない」
「……じゃあさ、いっそ服もリュックもまとめて取り替える?」
そういえば、服も靴も日本から着てきたままで、あちこち薄汚れて破れていた。
もし、疲れて服のまま寝てなかったら、今頃パジャマであいつら──Zから逃げなきゃならなかったんだよなぁ。
いくら夏でも公園でパジャマで寝るなんてことにならなくてよかった、本当によかったとつくづく思い返す。
「どうせなら──」
「え?」
アリスが何か言いかけて、僕を上から下まで眺めているのに気付いて、ちょっと恥ずかしくなってしまう。
「よし、移動しようシュー。
新しい服とカバンをプレゼントするよ」
楽しげに言いながら地図を広げて、僕を手招きする。




