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──怖かった。
──もう誰も、居ないんじゃないかと、そう思うのがとても怖かった。
──ゾンビのように、皆が化け物になったんじゃないかと、世界でたった一人きりになってしまったのかと、それがとても怖かった。
──怖くて、怖くて。
──襲われてもうダメかと思った時に、天使みたいな彼女に助けられた。
──一人きりじゃないと、話せる相手がいるというのが、とても……嬉しかった。
「あの、さ……ハンカチなんて洒落たものはないんだけど」
使うように差し出されたのはガーゼの塊で、何故ガーゼ?とよくそれを見ると包帯の切れ端だった。
「ありがとう……。」
目に包帯を押し当てて、目を伏せる。顔から包帯だったものを離すと、涙と浴びた血とで真っ赤になっていた。
「助けてくれて、ありがとう……」
「ん、まぁ……無事でよかった。
お前、なんて名前?
私は……、アリスだ」
彼女は少し躊躇したように名前を教えてくれた。
「アリスって……不思議の国の?」
思わず不思議の国のアリスが浮かんで口に出してしまった。
「ああ、綴りは一緒、けどアリス・イン・ワンダーランドじゃなく……デッドランドとかデスランドなんだろうけどさ」
くすくすと笑いながらアリスが言った。
彼女の──アリスの言う通りなんだろうなと、僕も釣られて笑って、なんだか久しぶりに笑った気がした。
「僕は修一、鳴海修一だよ」
「ナ……ルミシュー、イチ?」
「うん、ナルミでもシュウイチでも呼びやすい方でいいよ」
アリスは何度か僕の名前を言い直し、結局シューと呼ばれることになった。
少し落ち着いて、アリスを良く見ると本当に綺麗な顔をしていて、白い肌に青い瞳、金色の髪が天使を思わせるが、その着ている物はというと、天使とはかけ離れていた。
長袖のTシャツとジーンズは普通だが、それにポケットのいっぱいついたベスト、弾の詰まった帯を肩から斜めにかけて、背中に大きなリュックと、ライフルだかショットガンだかの大きな銃をしょっていて、腰のベルトにも銃のホルダーが二つ下げられていて、まるで戦争に行く兵士か傭兵のような格好をしていた。
その姿は嫌でも今は平和なんかじゃないって思い知らされてしまう。
「シュー、日本人なら銃は持ったこと、……ないよね」
「ああ、うん無いよ」
首を横に振ると、アリスは僕の顔をじっと見つめて、それから軽く肩を竦めた。
「シュー、使い方は教えるからこれ持ってて」
アリスに差し出された物を両手で受け止ると、その重い鉄の冷たさに心臓がぞくりと震えた。
「ショットガンて分かる?」
日本でよく狩猟に使われている散弾銃の事だよなとアリスに頷いた。
「あれだろ、弾が四方八方に散らばるって殺傷力の高い、狩りなんかに使われてる銃」
「よく出来ました。素人があいつら相手に撃つならこれが使いやすい。狙いがちょっと外れても吹っ飛んでくれるから」
「ああ……なるほど。……出来ればゾンビみたいなのとは戦いたくないんだけどなぁ」
「ゾンビ?」




