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五月──大学留学の準備に夏休みを利用してニューヨークに行く予定を立てた。
小遣いやお年玉を溜めたのと、足りない分はバイトをした。
泊まる予定の安ホテルだけは両親から却下され、代わりに短期留学用のアパートを借りてもらって、見て回る大学や息抜きの観光地などを調べてガイドブックに付箋を貼ったり、マーカーを引いたりして、八月になるのを待っていた。
七月──卒業式の二日後の昨日、意気揚々とニューヨークの地を踏んだ。
宿泊予定のアパートで管理人と話し、部屋の鍵をもらって隣室のジョンと挨拶をした。
それから川沿いを散歩して、熱々のホットドックを食べて、明日からは何処に行こうとか、何をしようかと思いながら、初めてのニューヨークの夜はテレビを見て夜更かしをして、テレビをつけたまま眠ってしまった。
そして──今日。
起きたら、ホラー映画の世界だった。
眠るのも昨日は柔らかなベッド、今日は固い木の上で。
意気揚々の昨日とは違い、泣きながら眠っていた。
慣れない木の上での眠りは浅く、ちょっとした音で目が覚めては周りを見渡した。
まるで──敵に怯えるように、安心して眠れることなどなかった。
非常袋の中に入っていたロープで木の幹と身体を結びつけて、枝から落ちないようにして眠りについたが、寝ぼけて木から落ちるような深い眠りにつくこともなかった。
一度夜中に起きると、眠るのは怖かった。
変わってしまったジョンの血走った目や、腸を引きずっている男や、喰われて身体をバラバラにされた女性を夢にみそうで、とても恐ろしかった。
テレビのニュースではニューヨークだけが大規模テロにと言っていたが日本はどうなっているんだろう、そんな事を考えてしまっては考えたくない事を――映画と同じように周り全部がゾンビになってしまって、両親も友人もゾンビになって帰る場所もなくなってしまったんじゃないかと思ってしまった。




