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Summer of the Dead  作者: 紅 紅
【序──始まりの日】
3/10

2

 逆に、僕がジョンの朝飯にされようとしているのではないか。

 昨日は、よろしくって笑って握手を交わしたジョンに、喰われる?

 外のあの女の人みたいに、身体をバラバラにされて、喰われるのか?

 生きたまま、腸を引きずり出されて手足をバラバラにされる──そんな光景を頭に描いてしまって全身に冷たい氷水を浴びせられたみたいな悪寒が走る。

『と、ともかく逃げなきゃ……このままじゃ……』

 ジョンの──朝食にされる。

 このままドアが壊されるのを待っていたら、ジョンに喰われる。

 どうしよう、ドアからは出られない、なら──。

 考えているとドアの亀裂が大きく広がって、真っ赤に血走った目が覗く。

「がぁああああっ!」

 僕を見つけたのか、ジョンだったモノが動物のように叫ぶ。

 もうドアがぶち破られるまで時間がない、そう思ったら頭がすうっと冷えて、ちょっと冷静になれた。

『外しか──ないな』

 逃げる場所は、とりあえずは外だ。

 何か、使える物はと日本から持ち込んだ物と、部屋にあった物を思い出す。

 テレビでは相変わらずニューヨークで大規模テロ発生とだけ伝えて来て、役に立たない。

 ちらりと窓の外を目の端で確認し、これのどこがテロだよとテレビに向かって呟いた。

 叫び声や銃声で騒がしかった外の音が──聞こえない。

 逆に部屋の中ではドアを叩く音、ミシミシと亀裂の広がる音、獣のような叫び声がひっきりなしに聞こえて来る。

『こんな時、映画とかなら銃でも引き出しにあるんだろうな……』

 そう言いながらクローゼットを開けると非常袋が隅っこに置かれていた。

 さすがに中身は確認出来なかったが、何年か前に大停電があったから置かれていたんだろうとその袋を取り出して背中に背負う。

 この部屋は二階、上手く行けば無傷で降りられる。

 建物の外観はレンガであちこちにデコボコがあったのを思い出しながら、窓を開ける。

 ぷん、と血なまぐさい匂いが鼻について、また吐きそうになった。

 カーテンにシーツを括り付けてロープの変わりにして窓の外に出る。

 運よくゾンビは場所を移したらしく、ドアの外のジョン以外は姿が見えなかった。

 カーテンとシーツのロープを降りていく間、ドアを叩く音が上からしていて、この状態で襲われたらひとたまりもないと思ったが、本当に運よく地面に降りることが出来た。

『ここからどこに……』

 どこに、逃げればいい?

 安全な場所なんかあるのか?

 人の多かった場所は映画ではゾンビが多かったような気がする。

 映画で得た知識が果たして役に立つのかどうか分からないが、このままじっとしていても喰われるだけだと、人が普段少ない場所に、街中じゃない方へと走り出した。

 多分、一生で今日ほど真剣に走ったことはないと思う。

 昨日荷物を部屋に置いてから散歩した公園まで走ると橋が見えたが、テレビで言ってたように爆破されたのか、煙が上がっていて岸から少しを残して橋は無くなっていた。

 橋のあった場所の下、川の中に手足を動かして助けを求めているような、溺れているような姿が見えた。

『あれ……は』

 生きてる人なのかゾンビなのか分かりかねたが、赤い血走った目にゾンビだと分かった。

 川の中で両手を動かしているが、しばらくしたら沈んでしまった。

『泳げない……のかな。あいつら、泳げないんだ……』

 なら、水の中なら安全だろうか?

 船とか……ボートでもあれば……?

 ぜいぜいと息をしながら走り続けて、林のような場所で走るのを止めて、なんとか木に登ることが出来た。

 下から手を伸ばしても届かないように、木の上の方へと必死で登った。

 ようやく大丈夫そうだと思える高さの枝を見つけて座り込んだ。

『っ!』

 ガサガサと木を揺らす音がして心臓が飛び上がりそうに驚いたが、何とか声は出さずにすんだ。

 よく見れば、小枝を揺らしたのはリスで、それに驚いたのかと苦笑する。

 安心したのか腹の音が鳴って、何も食べてなかったのを思い出す。

 非常袋の中を確認すると、食料──とは言ってもカンパンだが──と、水を見つけ、それを少しだけ口に入れた。

 ただのカンパンを、こんなに美味しいと思ったのは初めてだった。

 温かくもなく、ただ固いだけの、カンパンを食べながら、何でこうなったのか、昨日までは着いたばかりのニューヨークを楽しもうとわくわくしていたのに。

 そう思うと、カンパンを食べながら僕は──泣いていた。


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