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屋上から屋上へ、時には建物の壁をよじ登り、目的地にと着いた時には僕はもうへとへとで床にへたり込んで息をしていた。
「シュー、まだへたり込まないで」
何の建物かは分からないけど、今いるのは非常扉で閉鎖された廊下で、僕らがどうやって入ったかというと、廊下の窓が一つ、アリスが前にぶち破っていたからだ。
ちらと聞いたところによると、そこから投げ捨てたらしい──何を、というのは怖くて聞けなかったがゾンビしかないんだろうな。
ふかふかした感触の絨毯が足にすごく気持ちいい。
このまま絨毯に座り込んでいたいくらいだった、が、よろよろと立ち上がり、アリスの後を付いていく。
今の僕を遠くから見たら、足がよろよろでまともに歩けなくて、ゾンビと間違うんじゃないかってくらい、へとへとになっていた。
「あった」
部屋の番号を確認したアリスがドアを開けて中に入れと促される。
壁に触ってスイッチを探していると、ドアに鍵をかけたアリスに止められた。
明るい内に出発したのに、ここに着いたら既に夕方になってしまっていて、窓から夕陽が赤く部屋を照らして、明りをつけなくても部屋の様子が見てとれた。
「……マンションかホテルの部屋みたいだ」
「……ホテルだよ、ほらこれがキー」
アリスの手に何枚かのカードがあり、その内の一枚を渡される。
「えっと……ホテル……暗くてよく見えないな」
目を凝らしてようやく見えたカードには僕でも知ってる高級ホテルの名前があって、思わず言葉をなくしてしまう。
「こういったホテルは自家発電でさ。
前に安全な通路を確保した時にキーをもらっておいたんだ。
シャワーはお湯が出るかも知れないし、なんといっても床じゃなく、柔らかいベッドで寝れるのは嬉しくない?」
まるで悪戯が成功した子供のような笑顔で言われて、どうやって確保したとか、もらったとか聞かないことにした。
安全=ゾンビが居ないってことは、そういうことなんだろう。
外から灯りが見えなければ、奴らは気付かないことが多い。
部屋はカーテンを閉めて蝋燭を一つだけ、シャワールームは壁に囲まれて灯りが漏れないのを確認して、それでも用心の為に電気ではなく、洗面台に蝋燭を置く。
バスタブの蛇口を捻るとお湯が出て、それが何より嬉しかった。
お湯につかれるなんて何日ぶりだろう。
喜んでいる僕にアリスが先に入っていいと言ってくれたので、その言葉に甘えて先に風呂に入らせてもらうことになった。
「ふぅ……、やっぱりいいなぁ…」
たっぷりのお湯に身体を浸すと、ガチガチになった身体が解れていくようで、長く息を吐く。
短い間に色んな事があって、気が休まる時がなかったからだろうか、あまりに気持ちよくて、お湯に浸かるなんて何日ぶりだろうと、肩どころか頭までお湯に沈めてしまっていた。
残念なのは日本の風呂と違って、身体を洗うのもバスタブの中だったことだろう。
それでも、身体を洗ってすっきりして、湯に肩まで浸かるというのがこんなにも贅沢な事なのだとは、今まで思ったこともなかった。
この続きは改稿が済んでないのでまだ少し先になります。