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悪夢の始まり
以前公開していた「僕の忘れられない夏」の改稿作品です。
大改稿に登場人物も増えています。
――はぁ、はぁ、はぁ、息が切れそうに走る。
多分今日ほど真剣に、命がけで走ったことは生まれてこの方無い、と思う。
冗談ではなく、言葉通り命がけの逃走、足が止まってしまえば死が、いや死よりも酷い運命が待っている。
「うわっ!」
走り続けて足が限界になったのか、かくりと膝が崩れて道路に尻もちをついてしまう。
ズルッ、ペタリ、コツ、ペタ、ペタ……と、呼吸を何とか整えようと血と腐臭の混ざった空気を吸うと、足音が複数聞こえて心臓が掴まれたようにズクリとする。
「い……嫌だ、死にたくない……」
死にたくない、こんなところで一人で死にたくない、こんな死に方は嫌だ。
足音がさっきよりも近づいて足音だけじゃなく、姿も目に入る。
ズタボロになった服であったもの、赤黒く引きずられている紐のようなもの。
ぷん、と鉄臭い匂いが鼻をついて、吐きそうになる。
「い、嫌だ、来るな、来るなぁあああっ!」
ズダン、と重い音が響いて目の前で血しぶきが飛んで、目の前が真っ赤に染まった。