海と風
「ごめんください。ミキちゃんいますか〜?」
「ミキ!早く出迎えなさい。リコ様が来たよ」
「シオリちゃん♪来たよ〜。」
『ニャ〜ン(と言ってみる)』
するとそこへ、新たな訪問者が現れた。
彼女たちと同じく、ヒマを持て余していた瞬・真夢・絵里子・そしてティムである。
顔ぶれが新たに4つも加わり、さすがに執筆に集中できなくなった神酒は、4人?を玄関まで迎えると、そこから神酒の部屋でのおしゃべりタイムとなった。
「ティム!元気だったか?ひさしぶりなのだ!」
『シオリ。毎日会っているはずだけど・・・・』
☆
「ところでさ、ミキ。キララはいつ空港に着くんだっけ?」
出されたジュースに手を付けながら、絵里子が神酒に聞いた。
「5日後だってさ。みんなで出迎えに行こうよ」
「授業中なんじゃないの?」
「夜に着くって言ってたから、大丈夫だと思うよ」
「例の手紙はできた?ほら、『君のポケットに届いた手紙』ってやつ」
「アハハ・・・。まだ」
「どれ、ちょっと読ませて」
絵里子は原稿用紙を手に持つと、その物語を読み始もうとしたが、ティムが絵里子の膝に乗り原稿に顔を潜らせ、同じように読み始めた。
『リコ!まだ読んでないから、次のページに行かないでよ』
「うるさいUMAだな、もう!」
そして読み終えた頃、絵里子はふうと息をつぎながら、原稿用紙をティムの頭の上にドサッと置いた。
『痛っ!』
「けっこう良く出来てるんじゃない?
まあ将来美人売れっ子作家になるリコから見たら、まだまだの作品だけどね」
原稿用紙の山の中から顔を出したティムも、絵里子に同調した。
『へぇ〜、こんなことがあったのか。みんなずいぶん苦労したんだね』
「まあね」
『でもね・・・』
ティムは再び原稿に目をやると、その数枚を口にくわえて神酒に歩み寄った。
神酒が原稿を受け取ると、ティムは神酒の腕に擦り寄る。
『これを読むと、本当にミキがやってきたことのすごさがわかるよ。
いろいろ辛いこともあったんだろ?
本当にミキって、まるで海みたいな存在なんだね』
「海?」
ティムの言葉を不思議に思った神酒が、彼に聞き返した。
『うん、海さ。柔らかくて、時々激しくて。
でもみんなを受け止める懐の深さと大きさがあるんだ。
本当にミキは海みたいな女の子だよ。』
「うん、そうだね。」
瞬がティムに同意した。
「うまく説明できないんだけどね。
でもミキちゃんが『海』っていうイメージ、なんだかピッタリなような気がするよ」
「物語のヒロインになってるからね。ちょおっと美化してるんじゃない?
・・・・・って言いたいけど、まぁリコも賛成しておくよ」
「もう、リコったら素直じゃ無いんだから」
絵里子や七海の横槍を聞いて、神酒は顔を赤らめる。
「ちょっと待ってよ!
たまたまあたしが書いてるからそう見えるだけで、
あたしはそんなんじゃないよ!」
そんな神酒の慌てふためいた様子を見て、みんなが笑い出した。
☆
「ねえ、ティム・・・」
それぞれが勝手な話題でおしゃべりに花を咲かせていた頃、その様子をポカンと眺めていた詩織が、膝の上のティムに話しかけた。
『どうしたの?シオリ』
「さっき、ミイちゃんのことを、みんなが『海』だって言ってたよね」
『うん。そうだよ』
「それじゃあさ・・・」
ティムが詩織の顔を見上げる。
「あたしは・・・・・・・何かな?」
するとティムは、ニンマリと笑いながら詩織に応えた。
『そうだね。ボクのイメージだと、シオリは「風」かな?』
「風?」
「あ、それピッタリかも」
詩織の横にいた真夢が、彼女たちの会話に入り込んだ。
「シオリちゃんてね、ちょっと気まぐれで、同じ所にジッとしていられなくて、
時々イタズラして、それでもみんなをいい気持ちにしてくれて。
みんなのことを考えて大事にしてるもん。
あたしもそれが1番ピッタリだと思うよ」
真夢の意外な答えに、詩織は目をパチクリさせながらティムの顔を見ると、彼もニッコリ笑いながら、コクンとうなずいた。
『うん、つまりそういうことさ。』