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祈りよ届け!

 神酒と詩織がたどり着いた実験室で見た、ティムの無残な姿。

 治癒の能力を失った神酒は、絶望の中、それでも最後の希望を捨てきれずに、彼女の左手の能力が輝くことを祈りながら、ティムを介抱し続けていた。


 しかし彼の体は次第に冷たくなり、呼吸もどんどん弱くなっている。

 詩織はティムを抱きしめたまま、もう目の前の小さな命が尽きかかっていることを憂い、ただ見守ることしかできないままでいたのだ。


 突然、実験室の反対側の扉が開いた。

 振り向くと10名ほどの兵士たちがそこから現れ、神酒たちのほうへ向かってくる。

 おそらく実験室を警備する者たちなのだろう。その中のリーダーらしき男が兵士たちを制止させ、彼女たちに叫んだ。


「お前たちが高村神酒を始めとする反動グループだな。その実験体をテーブルに戻せ!」


 実験体とは、おそらくティムのこと。男は部下たちに右手でサインを送る。

 すると兵士たちは横並びに整列し、一斉に銃を構えた。


「警告だ!もし警告に従わなければ、ここでお前たちを射殺する。」


 突然の警告に、神酒が強く反発する。


「作戦?作戦ってなんなの!?

 あんな化け物を呼び出して、みんなを苦しめるのが作戦なの!?」


「旧支配者の召喚は進行中だ。お前たちに作戦を邪魔する権利は無い!」


 すると、それを聞いていた詩織が、抱いていたティムを神酒に手渡すと、銃を構えた兵士たちに叫んだ。


「どうして!?どうしてティムをこんな目に遭わせるの!?

 ミイちゃんはティムを助けようとしているんだ!誰も邪魔しないで!!」


 しかし、子どもたちの純粋な心の叫びは、無慈悲な衛兵たちに通じることは無かった。


「仕方ない。構え!」

 兵士たちが銃を構えた。もう後は無い。

 神酒はティムを抱きしめ、そして彼女たちを守るように、詩織がその前に立ちはだかった。


「ダメ!ミイちゃんを撃たないで!ダメ!!!」


「撃て!!」


         ☆


 軍曹の発砲命令は、確かに実験室の中に響いた。

 しかし、発砲音は聞こえない。


・・・・・・・・・・・・・・風?


 この時、神酒と詩織は実験室の中に、真っ黒い風が吹いたような錯覚を憶えた。

 ふいに扉から黒い何かが飛び出してくると、それがまるで強いつむじ風を操るように吹き荒れ、その中に衛兵たちを次々と巻き込んでいったのである。


 そして風が止んだ時。

 神酒と詩織は、目の前に巨大な黒い影が現れたのを目撃した。

 それは、黒く輝く美しい毛並みを持つ、誇り高き獣の姿。

 一見黒いライオンのようにも見えるが、それよりも遥かに気高く、まさに『神の使い』と呼ぶにふさわしい獣が、たくましい4脚でそこに屹立していたのである。


 神酒は、その獣の姿に見覚えがあった。

 かつて神酒、輝蘭、七海、絵里子が迷い込んだ、『雛の森』での出来事。

 そこで彼女たちは、悪魔レギオンに犯された1頭の獣に出逢った。

 獣の正体は、人の邪心を浄化する神獣。

 今神酒たちの目の前にいるそれこそ、かつて『雛の森』で出逢った神獣・パラケルススだったのである。


 詩織が良く見ると、パラケルススの背中に見覚えのある人物が座っていた。

 キョトンとした表情をしながらも、小さな瞳でうれしそうに詩織たちを見つめている。

 そして少女はパラケルススの背中から飛び降りると、詩織に駆け寄り、泣きそうになりながら抱きついてきた!


「マム!!」

「シオリちゃん!!」


            ☆


 目の前で突然起きた出来事に、神酒はしばらく呆然としてそれを見守っていた。

 しかしその時、彼女の下にも1つの奇跡が手を差し伸べたのである。


 神酒の周りに、小さな光が集まる。まるで蛍のような小さな光の数々。

 しかし光は次第に強くなり、まるで神酒に降り注ぐかのように強さを増したのだ。

 まぶしい光の中、神酒は誰かが彼女の左手に優しく手を添えたのを感じた。

 彼女が振り向くと、そこには・・・・・・。


 そこにいたのは、1人の天使だった。

 白く輝く衣をまとい、背にもまた白鳥のような純白の翼を携えている。

 長い髪は、まるで煌くような金髪で、神酒は全ての美の象徴がそこにあるような感覚を憶えた。


 そして、神酒が天使の顔を見つめた時だった。


「・・・・・・・・・ベル?」

挿絵(By みてみん)

 そう、神酒の下に舞い降りた天使の正体は、ベルだったのである。

 かつて『雛の森』で出逢った、友情を知らない少女。

 多くのすれ違いがありながらも、神酒との友情を信じ、そして息絶えた哀しみの乙女。

 神の下へ去っていったはずのベルもまた、遠い時と空間を超え、天使として再び神酒の下へ舞い降りたのである。


『よくがんばりましたね、ミキさん!』

 ベルが、まさに天使の笑顔で微笑んだ。


「・・・ベル!」

『あきらめないで。私も力を貸します。あなたの願い、必ず届けます!』


 神酒はティムをテーブルに静かに寝せると、その上に左手をかざした。

 神酒の左手の上に、ベルがその手を優しく添える。


 するとそこに、扉の向こうから見覚えのある顔ぶれがなだれ込むように実験室にやってきた。


 瞬、輝蘭、七海、絵里子。

 時の彼方より現れた無二の友人たちの手助けにより、無事にビヤーキーからの襲撃を切り抜けることができたのだ。


 6人の運命の少女たちと、それを守る1人の少年。

 絵里子、七海、輝蘭、瞬、真夢、詩織、神酒。


 ベルの純白の輝きが、7人の子どもたちを激しく包み込む。

 ここに集まった純真な少年少女たちの、汚れの無い熱い願い。

 みんなは手を重ね、そして祈った!


 祈りよ届け! 君のもとへ!!


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