時の彼方よりキララのもとへ
長く続く白い通路の途中の扉。
ビヤーキーの進入を防ごうとドアを力任せに押さえつけていた輝蘭、七海、絵里子だったが、繰り返されるビヤーキーの体当たりに耐えられず、もう扉は破損寸前だった。
扉が破られれば、もう輝蘭たちが生き残る術は無い。
神酒たちが朗報を持って駆けつける気配はまるで無く、輝蘭たちは半ば自分たちの運命をあきらめかけていた。
「・・・・まだミキたちは来ない!?」
最後の力を振り絞って扉を押さえる七海が、絵里子に視線を送った。
「こりゃあ腹くくったほうがいいかもね!」
絵里子が七海に応える。
「まだまだがんばりましょう!・・・・と言いたいところですけど・・・・・。」
すでに扉は崩壊の一歩手前で、度重なるビヤーキーの体当たりに大きく歪んでいる。
もう後が無いことを薄々理解していた輝蘭たちは、お互いに弱い笑顔を見せると、それぞれの手を握った。
「残念ですけど、これまでみたいですね・・・」
「ごめんね、キララ。最期に一緒にいるのがミキじゃなくってさ」
「何言ってるんですか。ナミさん、リコさん」
そして輝蘭は七海と絵里子の顔を見ると、2人にニッコリと笑いかけた。
「最期に一緒にいられて、本当に幸せでしたよ・・・」
そして、ビヤーキーの猛攻に耐え切れなくなった扉は、激しく砕け散った。
その勢いで、3人の少女たちは通路の奥に弾き飛ばされる。
幸いケガはしなかったものの、輝蘭の目に映りこんだもの。
それは彼女たちを目がけ、巨大な顎を開き襲いかかるビヤーキーの群れだった。
輝蘭も七海も絵里子も、自分たちの最期の瞬間を覚悟した。
しかし、その時だった。
ふいに彼女たちの目の前に、銀色の一閃が煌いたのは。
一閃はビヤーキーの数匹の体を貫き、その動きを止めてしまったのだ。
何が起きたかわからず、奇妙な表情を浮かべるビヤーキーだが、すぐにそれらの体が横滑りするように切り裂かれ、そのまま床に崩れ落ちた。
見ると彼女たちの目の前に、銀の鎧と剣を持つ中世の騎士のような者が立ちはだかっている。
輝蘭たちには、もちろんそんな人間には見覚えが無い。
ビヤーキーの群れの中央で、激しい炎が吹き上がる。
突然何かの攻撃を受けた魔物たちは、その驚きで混乱に陥った。
☆
何が起きたのか理解できず、唖然としてそれを見つめる輝蘭たちだったが、その時。輝蘭の肩を、後ろから触れる者がいた。
「・・・・・?」
輝蘭が振り向くと、そこには1人の女性が立っている。
齢の頃は20歳程度だろうか?
元気でキレイなお姉さんといったような顔立ちのその女性は、まるで輝蘭のことをよく知っているかのように親しげに彼女を見るが、それが誰なのか、輝蘭には見当も付かない。
「あの・・・・・誰ですか?」
するとこの女性は「あれ?」というような奇妙な表情を浮かべたが、すぐに納得したような笑顔を見せると、輝蘭にこう話しかけてきたのだ。
「キララ。あたしのこと忘れちゃダメだよ〜、もう!」
・・・・・・・・・・・・?
「言ったでしょ? 『 いつもあなたのうしろにいるよ。 』って!」
・・・・・・・え!!?
彼女の中に、驚きと共に、懐かしいあの日の記憶が鮮明に呼び戻された。
籠目小学校を卒業した時に出逢った、かわいい小さな姿。
いつも輝蘭のうしろにいてくれた、赤い民族衣装のステキな女の子の人形・・・。
「もしかして・・・メアリー・・・?」
優しかった人形の幻影が重なるこの女性が、笑顔でコクンとうなずいた。
「元気してた?キララ!」
「メアリー!!」
輝蘭はメアリーに激しく抱きついた!
彼女がメアリーのことに、すぐに気が付かなかったのは当然のこと。
輝蘭がまだ小学6年生の時、メアリーたちは人形の姿だった。
魔獣ショゴスを倒したのは2年も前の出来事。
人形の呪縛を解かれたメアリーたちは、今は元の人間の姿に戻っていたのである。
しかし、彼女たちは遠く時間の彼方に旅立ち、帰っては来れないはず。
そのことを思い出した輝蘭は、不思議そうにメアリーに尋ねた。
「・・・・でも。どうしてここに?」
するとメアリーも、少し妙な表情をして応えた。
「それが、よくわからないんだよね。
突然あたしたちの目の前に、変な扉が現れたんだ。
で、その中から声が聞こえたの。『輝蘭たちがピンチだから、助けてあげて』って。
だからそこに飛び込んだら、ここにいたワケさ♪」
向こうでは、ジャックやカーヤに気が付いた七海や絵里子が、場の空気そっちのけで再会を喜んでいた。
だがすぐにお互いにアイコンタクトをとると、メアリー、メリル、エース、ジャック、カーヤの5人の英雄は、再び厳しい目に戻っていった。
「キララ。今はあなたが、あたしのうしろにいてね♪」
そしてメアリーは仲間たちをぐるりと見回すと、右手をビヤーキーの群れに向け、魔物を倒すために、破壊の呪文の詠唱を始めた!
「さぁみんな、遠慮はいらないみたいよ! 思いっきり派手にやっちゃいましょう!!」
「おう!!」
友情の証のもとに集まったメアリーたち。
輝蘭たちがかつて示した思いやりは、遠い時間を越え、再び輝蘭たちの下に戻ってきたのである。




