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黒幕の最期

 アメリカ合衆国ニューメキシコ州ウォーカーフィールド基地。


 そこはもともとロズウェル陸軍基地と呼ばれた場所で、1947年6月4日に起きたUFO墜落疑惑事件(ロズウェル事件)の舞台となった場所である。

 後にウォーカー空軍基地と名前を変え、アメリカ最大の戦略空軍の拠点となっていたが、1967年に閉鎖。

 その設備の一部を移動させ、新たに地球外生命体とのコンタクトのための研究施設を充実させたものがこの基地の最大の特徴となっている。


 本来ここは表沙汰に公表されることなく運営されていて、地球外生命体の研究およびコンタクトを目的とした秘密機関『B・D』のメンバー以外は、その存在を知る者はほとんどいないはずだった。


 しかし、今・・・。



 ニューメキシコの砂漠地帯の中央に位置するこの基地の周辺は、常にその気候から乾季には雨が降ることもほとんど無く、いつもなら雲が湧き上がることなど皆無のはず。

 しかしその日、まだ昼であるにも関わらず、厚い雲と不気味なオレンジ色の空に囲まれたウォーカーフィールド基地の周辺は、およそ現実とは思えない情景に囲まれていたのである。

挿絵(By みてみん)

 基地の上空に浮かび上がる、およそこの世のものとは思えない巨大な扉。

 推計で高さ3キロメートルにも及ぶその扉は、ティムの持つ、時間と空間を越える扉と全く同型のもので、まるで地面から空の果てまで届くかのようにそびえ立ち、見る者全てに終末の到来を予感させる最上級の威圧感を与えていた。


 扉はほんの少しだけ開いていて、わずかだがその中の様子を伺うことができる。

 その中にあるもの、それは闇。

 通常の闇とは違う、見る者を恐怖感のうちに引き込む邪悪な闇。

 その中からは、絶えることなく幾万もの闇の従者が現世の空に飛び出し、我が物顔でオレンジ色の空を飛び交っていた。


 闇の従者とは、ハスターの眷属・ビヤーキー。

(Byakhee バイアクヘーとも読む。)

 今まで瞬や詩織を何度も襲ったあの魔獣が、数え切れない数の軍勢を引き連れ、ついに現実の世界へ侵攻を始めたのである。


 ウォーカーフィールド基地の上空には、ビヤーキーの迎撃と扉の破壊のため、数百機のエアフォース(アメリカ空軍)の戦闘機がスクランブルをかけ激しい空中戦を挑んでいたが、多勢に無勢の上に扉があまりにも巨大すぎるため、ほとんど効果を挙げられずにいた。


 そして、それは他のどの国でも同じような状況だったのである。

 アメリカのニューメキシコを中心に大量発生したビヤーキーの群れは、そこから世界各国に分散し、世界中の人々を恐怖の底に陥れたのだ。

 アメリカからカナダへ、メキシコへ、キューバへ、中東へ。

 ある群れはアフリカからロシアへ渡り、またある群れは太平洋を渡りアジアへ。


 1つ1つの個体は2〜10メートルほどの大きさだが、突発的に大量発生したため、住民の避難もままならず、大量破壊兵器の使用のタイミングも失われ、世界各国では充分な対抗策を練ることができずにいた。


 しかしその中で、不思議なことに、大量のビヤーキーの群れの襲撃を免れていた国が1つだけあった。


 それは日本。

 かつて日本中を放浪し、多くの鳳凰の彫像を作り上げた仏師・たかむら

 彼の作った鳳凰の配置は『鳳凰の血脈』と呼ばれ、旧支配者からの襲撃を免れるための風水の陣を形成していたのである。

 しかし、時が経てば陣形は崩れる。

『鳳凰の血脈』も完全な防御柵とは言い切れず、そのすき間から忍び入ったビヤーキーに対して、自衛隊は充分な反撃を行うことができず、突然現れたトカゲの顔とコウモリの羽根を持つ怪物の攻撃に、人々はただ逃げ惑うだけで、多くの住民がその凶牙の餌食になってしまったのである。


                       ☆


 おびただしいビヤーキーの死骸と、戦闘機の残骸が散らばるウォーカーフィールド基地の片隅に、その場にはそぐわない1人の男の遺体が転がっていた。

 高級なスーツに上品な蝶ネクタイに身を包んだ初老の紳士。

 ジェームズ・フォレスタル元B・D長官。


 およそ変死と思える状況下に置かれた遺体ではあるが、彼のその死に顔は満足に満ち溢れている。

 彼が死の間際に見たもの。それは、『旧支配者』ハスターの姿だった。

 瞬きをするだけで全ての人間を悪夢に悩ませ、姿を見せただけで人を発狂させ、寝返りをうつだけでこの世を滅ぼすことができると言われている『旧支配者』の力。

 彼は扉のすき間より、直接ハスターの姿を見てしまったのだ。


 しかし、それでも彼は満足していた。

 本来なら彼は発狂し、例えようの無い恐怖の中で絶命していただろう。


 だが彼は死ぬ間際、自分の生涯の夢が叶えられたことを理解していた。

 彼の望みは、ハスターの召喚。

 国のためでも、イーバのためでも、歴史に名を残すためでもない。

 それは、カルトとして存在するハスター信仰の狂える信者たちの究極の願い。


 ジェームズが若き日にアーカムで見た歌劇『黄衣の王』は、彼の精神に大きな変化を与えていた。

 誰がその戯曲を書いたのかも、いつ製作されたものかもわからないこの呪われたオペラは、はたしてハスターが幽閉から逃れるために、その信者に完成させたものなのか。

 その戯曲を見た少年ジェームズは洗脳され、1人の熱狂的なカルトへと変貌していたのだ。


 ジェームズも、ある意味ではハスターの犠牲者の1人になるのであろう。

 ハスターが地球に振りまいた解放への野望は、ジェームズの手により成就が達成されようとしているのである。


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