変態お仕置き伝説
「お、今回は前ぶりなし?いい事だねぇ。でもちょっと寂しいかな…」
どこか他所を見ながら呟く鈴音。宿で一泊した二人はエルが探している弟の形見を探しに出かけた。
「あー湿気が凄い。髪がヒッタヒタだよ。ちょっと蒸れてきたな…」
「ロングコートなんか着るからそうなるんだよ?私はこの湿気でお肌がつるつるすべすべになった気がする♡鈴音様の為に、一杯綺麗にならなくちゃ!」
他愛もない会話をしながら街に繰り出すが、ある重大な事に気付く。
「そういや弟君の名前聞いてなかった…」
鈴音は苦笑いを浮かべた。空を見上げ途方に暮れる。そこでシルヴィアがいそいそと携帯電話を取り出し、ある事を言い出す。
「鈴音様、安心して!実はこんな事もあろうかと依頼者の番号聞いてたの!電話して聞けば嫌でも分かるわ!」
褒めてと言わんばかりの表情を盛大に向けながら携帯電話を差し出すシルヴィア。
「本当かい!あ~流石僕の右腕シルヴィアちゃんだねぇ。これで安心だよ。良くやった!よしよ… おぉっと危ない忘れてた。」
ドルテン特有の湿気のせいで髪が濡れている事を思い出して撫でるのを止める鈴音。それに対してシルヴィアは頬を膨らます。
「まぁまぁ怒らないで。後でた~~~~っぷり嫌気がさすまで撫でてあげるから、今はちょっと勘弁ね。」
「もう!約束だからね!いっぱい、いーっぱい撫でてね鈴音様♡」
それを他所に携帯電話の濡れた画面に手こずりながら依頼者であるエルに電話をする鈴音。機械には慣れていないからか、かなりぎこちない。
「あ、もしもし?エルさん?鈴音だよ。本当申し訳ないんだけど弟君の名前聞き忘れてて… ごめんねぇ。あー、うん。了解でーす。ありがとね~。」
まるで友達と電話しているかのような素振りをシルヴィアは何も言わずジト目で見つめていた。
「さぁ~て、仕事に移りますかね。弟君の名前はユーカって言うらしいから、名前で聞き込みしようか。」
「ユーカ?何だか女の子っぽい名前ね。ちょっと怪しいんだけど。」
「こらこら、どっかの機動戦士の主人公っぽいとか言っちゃダメだよ?」
「そんな事一言も言ってないけど!?」
問題が解決した二人は時間のロスを取り戻す為に二手で聞き込みをする事にした。
「僕は東側のこっち行くから、シルヴィアちゃんは西側のあっちを宜しくね。」
「りょーかい!頑張っちゃうんだから!」
ダッシュで別れ、急ぎ足で進行させる鈴音。しかし隅々まで聞いても情報が得られず時間だけが過ぎていき、徐々に不安が募っていく。
「一応二日は猶予貰ってるけど、早い方がいいだろうから今日の内に切り上げたいけどね… とにかくこっち地区じゃないって事か。戻ろう。」
元いた場所に屋根から屋根を飛びながら向かう鈴音。するとある光景を目にする。
「あれは… シルヴィアちゃん!」
なんとシルヴィアが男三人組に捕まってどこかに連れて行かれているのだ。鈴音は屋根をつたい、尾行することにした。
「離しなさいよあんた達!こんないたいけでか弱い女の子に男三人で掛かるなんて、あんた達一人一人がどれだけ小さいのかが丸分かりね!」
「うるさいな… あの時は邪魔が入ったけど今度こそは大丈夫だよ。僕達だけで楽しもうよ。痛くしないから…」
「あたしに手を出したら鈴音様が黙ってないわよ!くそっ!鈴音様の言いつけがなければあんた達なんか!」
男達を殴り飛ばしたい欲求を必死に抑え、屋根から様子を伺う鈴音。そんなこんなで男達はシルヴィアを連れて一軒の廃墟に入っていった。
「もしあの三人以外に仲間がいたとしたなら… まとめてお仕置きしてやる!」
屋根から飛び降り、後に続いて入っていく。が、どこを探しても見当たらない。
「しまった。見失ったか、何処かに隠れたか?はたまた何処かにまだ部屋があるか… 探してみよう。待っててシルヴィアちゃん。」
一方その頃シルヴィアは手枷と足枷を付けられて壁に貼り付けられていた。
「あんた達…!こんな事してタダで済むと思ったら大間違いよ!三人だけじゃなく、あと二人居たなんて余程小さい人間の集まりなんでしょうね!でもいつかは鈴音様が来… んんん!」
五人の内の一人がシルヴィアの口にガムテープを張り付ける。
「威勢がいいのは好きだけど…あんまり煩いのは嫌いだから少し黙っててね…」
何もできないシルヴィアに対して余裕の笑みを浮かべて後ろに下がる男。するともう一人が近づいて来て
「ヒッヒヒヒヒ!さぁ…その顔だけでなく可愛らしい身体も見せておくれよ…!」
そう言うと男はシルヴィアの着ていたワンピースを剥ぎ取ってしまった。下着と未成熟な体があらわになる
「可愛い下着付けてるじゃないか…!ヒヒ!そうでなくちゃねぇ!じゃあ、御開帳といきますか!」
男はブラジャーのホックを外し、そのまま取り上げた。羞恥心からか、シルヴィアは眼を瞑り、顔を背ける。
「(そんな…! 裸なんて鈴音様にしか見せたことないのに!選りに選ってこんな汚い男達に…!助けて鈴音様ぁ!)」
必死に涙を堪え、心の中で助けを願う。それを他所目に男の一人がある物を取り出す。
「さぁ、これさえあればとても気持ち良くなれるからねぇ!」
取り出したのは注射器だった。注射器を持ち、歪んだ笑みで近づいてくる男。
「(ごめんなさい… ごめんなさい鈴音様…!)」
その瞬間だった。突然の騒音と共にドアが弾け飛び、光が差し込みだす。その逆光が映し出したのは刀を携えた漆黒の姿。
「(鈴音…様?)」
「まさか地下があるなんて思ってなかったよ… おかげで時間かかっちゃった。ごめんねシルヴィ… なにされたの!?」
シルヴィアのパンツ一枚の姿を見て驚愕+怒りに震える鈴音。
一方である男は目に見える程に動揺していた。
「そうか…君か。宇宙電車の中でシルヴィアちゃんの目の前で写真撮ろうとしてた君か。何をしようとしてたのかは知りたくもないけど君達にはお仕置きが必要みたいだね…」
声を荒らげながら感情を押し殺す鈴音。男達は慌てながら刃物を取り出し、シルヴィアの喉元に突きつける。
「近づくな!それ以上近づいたら、この女を殺すぞ…!」
その行為に怒りが爆発。持っていた黒椿姫を鞘ごと地面に突き刺し言い放つ。
「僕も君もテンプレ過ぎて正直呆れるけど… 殺せるもんなら殺してみろ!!!」
そう言った瞬間男の腹部にめり込む程のパンチをかまし、壁を破壊して遠くまで吹っ飛ばした。
「君達みたいなクズ人間に黒椿姫を使う必要はないからね…」
そう言いながら次々と一瞬で男達を吹っ飛ばす鈴音。地下室の四方八方に大穴が空き、左右には吹き抜け、上には光源。明るい日差しが地下室を照らす。
「終わったか… で、大丈夫かい?何もされてない…訳ではなさそうだけどとりあえず無事で良かった… ごめんね。僕がもっと早く駆け付けていれば…」
シルヴィアのガムテープを剥ぎ、手足の枷も粉砕。悔しそうな声でそっと抱き寄せながら呟いた。それに対してシルヴィアは
「大丈夫!あたしはこの通り!ただちょっと服と下着をダメにされちゃっただけ。それ以外はなーんにもされてないわ!あと、一つ言うと今この格好はちょっと… いや鈴音様なら別にいいんだけど…」
「なんで?どうしたんだい?」
目と鼻の先にある現状を忘れている鈴音に対して頬を染めながら服と下着を指さす。
「あぁ、そっか!ごめんよごめんよ!そうだね… それだったらここで隠れて待機してて。僕がシルヴィアちゃんに似合うような服を買ってくるから!待ってる間は僕のコート着ててね!依頼はそれからにしよう!」
コートーを被せバタバタと慌ただしく去っていく鈴音を微笑みながら見送るシルヴィア。ここで買ってもらう衣装が後の基本形となるのであった。
「やっぱりコート濡れてる… 湿気って怖いわね。」