ドルテン
先日、より一層絆を深めた鈴音とシルヴィア。そんな二人の元にある依頼が舞い込んだ。
「あー… 今回は前振り短いね。いい事だよ。」
呑気にお茶を飲んでいる鈴音をよそにシルヴィアは考え事をしていた。
「鈴音様ー 最近客が少なくなった気がするんだけど、気のせいかな?」
それもそのはず、ここ一週間近く依頼が来ていないのだ。
二人にとっては商売上がったりである。
「ん~… でもまぁ、いいじゃない?皆自力でやってるって事なんだから、気にする事はないと思うけどね~」
超ポジティブ発言に一瞬シルヴィアは戸惑うが、表情が柔らかくなり、ジュースを飲み出した。
「でも、鈴音様?その場合のお金はどうするの?あと私達の必要性はどこにあるの?」
イチゴジュースをズビズビ飲みながら問いかけるシルヴィアに鈴音は少し困惑した。
「確かに皆が自力でやるのも良いんだけど… 頼られないっていうのはちょっと寂しいかな。お金は気にしなくていいんだけどねー…」
頭を掻きながら苦笑いで答える鈴音。するとそんな会話を知ってか知らずか久々の客が現れる。
「おっと!いらっしゃい!どういう要件かな?」
慌てて飲み物と茶菓子を出すシルヴィア。しかし、客の表情は暗かった。
「えーと… まず名前を聞かせて、それから要件を言ってもらっていいかな?」
そんなにガッツリいける雰囲気ではなかった為、少々控えめに接する鈴音。
「私は… エルといいます。要件は、ドルテン星に行って死んだ弟の… 形見を持ってきて欲しいのです。どうかお願いします…!」
二人にとっては初の別の惑星を経由する依頼となったが、その内容は重く暗いものだった。
「そっか… じゃあ今すぐにでも行ってくるから、住所教えて?んで形見はどういう物?」
「家はジルグ第二区画の東の青い家で、形見は… 弟の物だったら何でもいいんです。贅沢は言いません。」
その話を聞く間にもそそくさと支度をする二人。エルという女性は体が弱く、行きたくても行けないらしい為、こちらに依頼してきたのだという。
「そいじゃ、行きますかね。エルさん、家まで送ってくよ。その後すぐに僕等はドルテンに向かうから。弟君の事… 任せて。」
その言葉を聞いたエルは、少しだけ表情が明るくなった。
エルを家まで送った二人は惑星間航空のホームにいた。荷物は無く、あるのは鈴音が腕に持っている刀だけだった。惑星移動をするというのに荷物が無いというのはどういう心境なのだろうか。
「鈴音様… 刀、目立たない?捕まったりしないよね?」
シルヴィアは不安そうに聞いた。
「大丈夫だよ。周りを見渡してごらん?弓だの剣だの持ってる人一杯居るでしょ?だから気にしなくていいんだよ。愛刀である黒椿姫は外せないからね。」
言われてみればと辺りを見渡すシルヴィア。心の中では何となく疑問を抱いていたが、それを口にはしなかった。
「さ、ドルテン行きの便が来たよ。乗っちゃおう。僕は立つから、シルヴィアちゃんは椅子に座ってていいよ。」
そう言い、刀を立て掛けながら壁にもたれ掛かる鈴音。運悪く居合わせた乗客全員が武器を所有しておらず、シャトルに乗っている間鈴音には痛い視線、シルヴィアには熱い視線が集中していた。
痛い視線を物ともせずドルテンのホームに到着した鈴音は眠っているシルヴィアを起こす。
「おーい、着いたよー!今降りないとまた、デベロンに戻っちゃうよー!」
「ん…?あぁ、鈴音様… もう着いたの?ふあぁぁぁ~…」
あくびをしながらフラフラと歩くシルヴィアを優しく見守る鈴音。
「全くもう!シルヴィアちゃんが寝てる間に大変だったんだよ?正面に立ってる人とか写真撮ろうとするしさ!やめさせるのに一苦労したよ~」
「そ、そう… 乱暴な事はしてないよね…?」
「そんな乱暴なんてしないよ!ちょ~っと黒椿姫を抜いただけさ…」
そう言いながら持っている黒椿姫を少し引き抜く鈴音。
「え…」
意外と顔がマジな感じだったのでそれ以上の詮索をやめる事にしたシルヴィア。そうこうしている内にホームの外に出たが、惑星の特質である湿度と初めて見る景色のお陰で何だか曖昧な感情に包まれる二人。
時刻は既に夜になっていた為、休憩を優先する事にした。
「取り敢えず… 宿を探そう。そして明日、じっくり探そうか…」