特殊型ヤンデレの対処法伝説
夢を見た気がした。しかし思い出せない。
でもやっぱり見た気がする。だけども思い出せない…
そんな負のスパイラルに陥った時の様に、鈴音は考え込んでいた。不意に現れた水の女神、それが残した謎の言葉、たいして手応えがなかったこと…
来る日も考えていた。
「あーもう!なんでそう前置きが長くなるかな!あの時の子の事も分かんないし… Its,Shit! …おっと、口癖が。」
揺り椅子に揺られながなら頭を掻き毟る鈴音。
そこにパジャマ姿のシルヴィアが現れる。
「ふあぁぁあ〜… 鈴音様…?朝から何してるの?最近なんか変だよ?朝も早いし… 何か考え事?」
あくびをしながら問うシルヴィアに鈴音は項垂れながら言う。
「いやーあの時のネルヴァちゃんだっけ?あの子の事がなんか引っかかるっていうか、気になるっていうか…」
それを聞いた瞬間シルヴィアの表情が一変、禍々しいオーラが放たれる。目元は闇に染まり、強い口調で問いただす。
「ねぇ… まさかとは思うけどこのあたしよりあの女神の方が気になる訳…?あの女神とあたし、どっちがいいの…?ねぇ、どっちなの…!?ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねえ」
いきなりと驚くほどに恐ろしい程の剣幕で迫るシルヴィアに鈴音は溜め息をつきながら至って冷静に話す。
「はぁ… あのさ、僕が言いたいのはどっちがいいとかどうとかじゃなくて、あの子が何でデベロンに来て、わざわざ宣戦布告したかっていう事だよ。今まではそんな事は無かったし、ましてや戦争なんて無かった。でもアルディアちゃんが女神の座を降りる事を予知してた様な言い草だったし… あれが本当ならとんでもない事になりそうだからね。その事について考えてたんだよ。」
そうか、なるほどと頷きそうになったシルヴィアはそれに対して激しく反論する。
「話を逸らさないで鈴音様!話を逸らして切り抜けようなんてそんな手には引っかからないわ!本当の事を話して!どっちがいいの!?ねぇ!!!」
鈴音は呆気にとられていた。こんなにも話が通じなかったか。それが頭の中を一杯にした。鈴音はしばらく考えた後、呆れ顔で切り出す。
「あのねぇ… さっきも言ったけどどっちがいいとかそんな話はしてないでしょ?考えてもみてよ。シルヴィアちゃんとは60年間の付き合いだよ?その蓄積分の信頼を他の女の子を一目見ただけで崩せると思う?君は唯一無二の僕のパートナーなんだからさ。まぁ人間の中ではね。」
それを聞いて一瞬表情が和らいだシルヴィアだったが最後のフレーズに疑問をぶつける。
「人間の中でってなに!?あたし以外に他にいるの!?それなら… それなら見つけ出して殺してやる…!」
鈴音は初めてシルヴィアに馬鹿じゃねーのコイツみたいな顔を向けた。鈴音は面倒臭そうに強行手段に出る。
「言っておくけどね、僕のパートナーは君以前に居るんだよ。それも僕がこの地上に来た頃からのね。僕の愛刀、黒椿姫がそうだよ。今は封印してるけど、人の姿になれるんだ。分かった?もういいね。はい、終わり。」
「ちょっと!話を勝手に終わらせないで!そんな話信じられるわけ無いじゃない!」
「あーそう。信じてくれないんだ。悲しいなぁ… 60年間も一緒に居るのに僕の話を信じてくれないなんて… あーヤダヤダ。僕はもうシルヴィアちゃんの事が嫌いになりそうだよ…」
椅子から立ち上がり、背伸びをしながら冷ややかな言葉を浴びせる鈴音。その言葉を聞いた瞬間シルヴィアは凍りついた。大量の冷や汗が体をつたい、徐々に青ざめていった。胸を押さえ、震えながら抗議した。
「えっ…!?そ、そんな… 鈴音様ぁ!あたしの事を嫌いにならないで!謝る!謝るからぁ!あたしを見捨てないで…!何でもするからぁ… お願い…!」
涙を目に溜めながら縋り付くシルヴィアに鈴音は変わらぬ態度で切り返す。
「あー無理無理。あんな事言われた後にそんな事言われても言い訳にしか聞こえないよ。じゃあね。君と僕はもう赤の他人だから…」
他人。その単語を聞いたシルヴィアは鈴音の足にしがみついてズルズルと引きずられながらも抗議していた。
「うわぁぁぁん!!鈴音様ぁぁぁ!!!ごめんなさぁあいぃ!!見捨てないでぇぇえ!!何でも、何でもするからぁあ!」
「異論は認めぬ。」
「許してぇ!!鈴音様ぁぁ!!もう何も言わないかr」
「異論は認めぬ。」
ズルズルとシルヴィアを引きずりながら一番奥の部屋に着いた鈴音は勝利を確信し、微笑んでいた。
「本当に反省しているのなら今日から一週間、僕に話しかけないでくれないか。それが出来たら許してあげるよ。」
シルヴィアは精一杯首を縦に振り、俯いたまま部屋に戻っていった。鈴音は安心したのか、そこにあった椅子に腰掛けて上の空で独り言を言った。
「やっぱりこうしたら僕の勝ち… シルヴィアちゃんには悪いけど落ち着かせる為には仕方ないんだ。ごめんよ…」
一週間一切口を聞かなかった鈴音と話し掛けたくても話し掛けれないシルヴィア。食事中も、仕事中も一切の会話もない悲しい一週間だった。
しかし期限が過ぎた後、シルヴィアの執拗な話し掛けに笑顔で対応していた鈴音がいた。