運命の歪み 前
闇は怖い。そんな先入観が生み出す恐怖は計り知れず、数知れない程の人たちが闇を恐れ、光を求めた。一度夜になれば錯乱したように光を欲しがる者達を作り出し、光が無ければ生きていけないような人格を形成した。まるで何処かの世紀末の帝王の様に。
さて、そんな事は関係無しにこれからお話しするのは運命を変えられ、戦いの渦へと身を投ずるきっかけとなるお話しである。
「ZZZ……… …前振り長っ! あ、あぁ、夢か… 最近こんな夢ばっかだな… これはある種の悪夢だね…」
自宅の揺り椅子に揺られながら独り言を口走ると鈴音はちゃっちゃと着替え、シルヴィアを連れて家を後にした。
「鈴音様、どうしたの?今日はなんも依頼来てないよ?」
「うん、分かってるよ。でもね、なんかやーな予感がするんだ。」
そう、二人には何の依頼も来ていない。だがこの時点で鈴音は嫌な予感がしており、それで家を出たのだ。
「流石鈴音様!鈴音様の勘は絶対当たるから今日も大変な事になりそう… けど今までも乗り越えて来たし、何とかなるよね!」
鈴音は以前にも何度か嫌な予感がした時、必ず何か良くない事が起きていた。その経験から二人は鈴音が嫌な予感がした時には依頼を延期したりしていた。
「なんかジルグ第二北区域辺りで起きそうな予感… 今がジルグ第一南区域だからここからだと結構距離あるし、未然に防ぎたいから急いで行くよ。ほら、背中に乗って。」
「やったー!久々の鈴音様のおんぶ♡ そして鈴音様の超速が体感できるわ!」
そう言うとシルヴィアは鈴音におぶられ、うっとりしながらこれ以上ない程の幸せそうな表情を見せる。
「しっかり捕まってるんだよ。それじゃ… レッツゴー!」
次の瞬間、二人が立っていた足元の周りの石畳がめり込み、一瞬にして姿を消した。その時激しい風圧が巻き起こり、そこの近くを歩いていた人達は皆転び、何が起こったのか飲み込めない状態だった。
「やっぱ… すご…いけど! 速すぎ…て… うっぷ…」
鈴音はテレポートのような瞬間移動の類ではなく高速で走っているようだ。シルヴィアが必死に嗚咽を抑えていると瞬く間にジルグ第二西区域に到達した。
「あ〜 よいしょっと。さて、どれくらい掛かったかな…? 30秒か〜 ちょいとゆっくり来すぎたかな…」
「で、でも鈴音様… それでも南区域からここまで20kmはあ、あるんだけど… オェッ… それでも十分… す…ご… オボロロロロ!」
なんと第一南区域から第二北区域までの20kmある距離を30秒で駆け抜けたというのだ。それでも本人からしたらゆっくり来てしまったらしい。
「あーらら大丈夫?流石にシルヴィアちゃんからしたら速すぎるもんね。これはちょっと考える余地ありかな… ちょ、だ、大丈夫?」
吐き疲れた冷や汗でびしょびしょのシルヴィアを木陰で休めながら鈴音は辺りを探る。
すると奥の方から銃を構えた軍人らしき人達が現れる。
「時波 鈴音さん、シルヴィア=ゲートハートさん。あなた方を迎えに参りました!!敬礼!!!」
いきなりの事に自体が飲み込めずたじろぐ二人。いきなり軍人が現れてしかも自分の名前を呼ばれて迎えに来たとか言われたらそりゃ誰だってそうなるものだ。しかし二人は冷静さを取り戻し質問する。
「あーっと… 何故僕達の名前を?それに迎えに来たって?」
「話せば長くなりますが、説明致します! 我々は神童教会直属の護衛隊であります!そして我々はこのデベロン星の女神の一柱、アルディア様にこの時間帯でこの場所に二人が来るとのお告げがあり、連れてきて欲しいとの命令を受けたので迎えに参った所存です!!敬礼!!!」
デベロン星の女神、アルディアからの命令により送られたという護衛隊。どこか信じ難い話ではあるが、これでは断るわけにはいかず承諾することにした。
「それではこちらへどうぞ!お入りください!」
「う、うん。それじゃあお邪魔するよ。(嫌な予感は気のせいだったか?)」
今朝の予感を気にしつつ奥へ進んでいくと巨大な門が現れる。それがゆっくりと開き、眩いばかりの光を放つ。するとそこにはその光を放つ一人の女性。されどれっきとした女神・アルディアの姿。
この出会いが二人の運命を変え、日常を変えるきっかけとなる事に気付いていたのか、鈴音は薄ら笑みを浮かべていた。