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プロローグ

はじめての方、はじめまして。そうでもない方、お世話になってます。中野アキヒロと申します。作ったはいいものの一年ほど放置しっぱなしだったアカウントに初投稿だよ! 某光の巨人のパロディだよ! 意見に感想、何でもくれると嬉しいです。

 プロローグ


「座標軸固定。地球標準時刻(GMT)二〇時三〇分。これから通常空間に出るけど、亜空間酔いは大丈夫?」

「うん……そんなに心配しなくても大丈夫だよ、ソフィ姉さん」

「いくつになっても、アタシにとってはアナタは弟。それにこれは訓練じゃない。本当の犯罪者を相手にするのよ? 新米のアナタを無事に監視団に帰してやるのもアタシの任務のうちなの」

「わかってるよ」とだけ投げやりに答えて、四次元潜航艇の操縦桿に再び向かった。ソフィのいう通り、三次元空間で生活している身体は、時軸を体感する(、、、、、、、)ことに慣れていない。口うるさい姉が隣に座っていなかったら、間違いなく弱音と一緒に今朝食べた銀河ベーグルを吐き出してたところだ。これでも自我境界線すら曖昧になる五次元空間と比べると遥かにマシというのだから、他人に憑依するなんてとても自分には無理だという考えが頭に浮かんで、銀河警備士二級試験に三度も落ちた苦い記憶が甦った。

 ――やっぱり才能がない、のかな。

「二時方向に不審な船舶! 亜空間潜行の跡も確認。間違いない、地上げ屋よ!」

 通常空間に位相を転移した瞬間、ソフィアの怒声が響いた。続いて、四次元潜航艇の天井に備えつけられたパトライトが点灯する。真空中にあるせいでサイレンは聞こえないのが、少し味気なかった。

《そこの船停まりなさい! この周辺宙域は、無許可での航行禁止令が出されています! 許可証がある場合はすみやかに提示を――》

「まずい」

 不審船はソフィアの勧告が終わる前に、重金属粒子砲の砲門をこちらに向けてきた。赤熱した光の束が次元潜航艇の脇をかすめ、余熱で分厚い装甲板がささくれ立った。

「連中、本気だよ」

「アタシたちだって遊びでこんなド田舎をパトロールしてるんじゃないわ! 本当だったら今頃マディソン・スクェア・ギャラクティカでジャスティン=ビリーバーのコンサートを――」

「ジャスティン!? あの乳臭いガキのどこがいいんだよ! それともまさか姉さん――」

「黙れ! あの天使みたいな子が存在したことそのものが銀河の奇跡よ! 神様が許してくれるなら無理矢理にでも食べちゃいたいくらいにね!」

「実の弟の前でそんなカミングアウトはよしてくれよ……そんなんだからいつまで経っても彼氏ができないんじゃないか」

「奥手のアンタに言われたくはないわ!」

 姉弟喧嘩が始まろうとしたところで、不審船から二射目の重金属粒子砲が放たれた。一射目でこちらの位置を確認してきたのだろう、直撃コースを見事に狙っていた。完全にかわすのはあきらめ、こちらも備え付けの重金属粒子砲を放って相殺する。二つの火線が混ざり合うと、漆黒の宇宙にそこだけ光の渦が衝撃波とともに生まれて辺りを照らした。

「なめやがって! 銀河同盟第七方面監視団の名にかけて、何がなんでもしょっぴいてやるんだから! フルブーストで追い抜くわよ!」

「こんだけデブリが多い場所で何言ってるんだ! アクセルを踏んだ瞬間僕らも宇宙の塵だよ!」

「これだから新米は――操縦桿、アタシに回しなさい」

 黙っていれば美人と評判の相貌を鬼のように変えながら、ソフィアは操縦桿を引ったくった。ぶつくさと文句を言うこちらのことは歯牙にもかけず、アクセルペダルを踏みこむと、

「舌、噛まないでね」

 それだけ告げるとエンジンの回転数を告げるタコメーターが一瞬でレッドゾーンに突入した。目の前を超高速でデブリが通り過ぎ、宇宙急(そらきゅう)ハイランドで乗せられた大銀河地獄車よりも遥かに激しい重力加速度()と恐怖が心身を塗りつぶしていく。

 ソフィアの運転技術は本物だった。デブリを華麗にかわしたかと思うと、次の瞬間にはメインブースターを噴かして加速体勢に入る。姿勢制御用のスラスターも彼女の手にかかれば手足も同然で、縦横無尽に姿勢を変えながら四次元潜航艇は不審船との距離を縮めていった。

「ミレニアムファルコン号はもっと図体がデカかったんだから、アタシだって!」

 接近するこちらに気づいたか、不審船も加速をはじめていた。重金属粒子砲が何度も襲いかかり、その度に慣性を力で屈服させたような挙動でかわしてみせた。

 見事なものだった。乗っている側の負担を無視してしまえば。

「ね、姉さん」

「針路予測、可及的速やかに(ASAP)

 弟の肉体の心配など端からするつもりはないらしい。ちらりとも視線を合わせずそう告げると、「のろのろやってたらこのまま宇宙に投げ棄てるぞ」と言わんばかりの形相で進行方向をにらみつけていた。

「大気圏突入コースだ。間違いない。連中、地球に降下するつもりだ」

 HUDに地球の地図を表示させてコンピュータが予測した不審船の針路を指でなぞる。太平洋と呼ばれる、この星で最大の海洋の西端にある島の沖合――そこが、連中の目的地らしい。

「日本か。ああいう連中は相変わらずあの場所に向かいたがるのね」

「交通の要衝だもの。資料だと、あの星は東側と西側で常に対立していて、互いの入口に位置しているのがあの国だって話じゃないか」

「星間紛争だって珍しくないってのに、まさかまだ自分の星で対立しているなんて――これだから田舎は嫌なのよ」

 不審船に追いつけぬまま、四次元潜航艇はデブリを抜けて大気圏突入コースに入ろうとしていた。これだけ大気の層が分厚い星も珍しい。船底の表面温度がみるみる上昇して、この星の宇宙開発には相当な障害がつきまとうのだろうということが嫌でも察せられた。

「だとしても、この星を守るのが、僕らの使命なんだ」

「そうね」

 互いに言わんとすべきことを察して、黙り込んだ。それが、銀河同盟第七方面監視団の使命なのだから。

「亜空間震動――?」

 四次元潜航艇の警告音が鳴り響いたのはその時だった。何者かが、何物かをワープアウトさせようとしている。

 そして、そんなことができるのはこの宙域で自分たちをおいてひとつしかない。

「まずいよ姉さん、アイツらM兵器を使う気だ!」

「何ですって!?」

「時軸の歪みが強くなってる。連中、ここからM兵器を投下して直接攻撃をしかけようとしているんだよ」

 そう言っている間にもそれ(、、)は姿をあらわしはじめていた。この星で日本と呼ばれる国の首都、東京の上空一万メートルに発生した巨大なワームホールは徐々に拡がり、やがてM兵器が吐き出される。

 この星の技術で果たして抵抗し得ることが可能なのか――最悪の事態が頭を過ぎった。

「やられたわね。まだ正式な派遣要請が出ていない以上、アタシたちの戦闘行動は認められない。超空間通信だって、タイムラグでどれくらいかかるか――」

 ソフィアは厳しい目つきで顔をしかめると、世界地図からワームホールの生成状況に切り替わったHUDを眺めた。

「僕が行く」

 咄嗟に口にしてしまった言葉に、「正気なの?」と問い返したソフィア以上に自分が驚いていた。銀河警備士二級試験に三度も落ちた落ちこぼれ中の落ちこぼれが、M兵器相手に勝負になるなど、到底あり得ない。

 それでも、この状況を黙って見過ごしてしまえるほど、大人にもなりきれなかった。

「重大な違反事項よ。監視団の派遣要請を受諾していない、それも正式な星間修好条約すら結ばれていない惑星での戦闘行為なんて、バレたら始末書どころじゃすままないのは、わかってるでしょう?」

「でもこの状況をなんとかできるのが僕たちしかいないことも、事実のはずだ」

「アナタが戦うことで、この惑星の人々が成長する可能性をつんでしまうかもしれない。そのことは――」

「何度も座学でやった。でも、だからって僕たちが戦わなければ確実に多くの人命が損なわれる。僕は他人を見殺しにするために、監視団に入ったわけじゃないよ」

 沈黙が、二人の間を流れた。どちらも正論であり、だからこそ退くわけにはいかなかった。

 だがやがて、ソフィアがあきらめたように溜め息をついて、

「わかったわ。ただし、重力調整装置グラビティアジャスターは交戦規定の通り五分が限界よ。この星の重力で、もし時間切れになったら――考えたくないわね」

「それまでにケリをつければいいんだろう?」

「三回も銀河警備士二級試験に落ちてるのはアナタよ? そんな余裕、あるのかしら?」

 呆れる彼女を背にして、手を振った。

 四次元潜航艇下には、どこまでも続く蒼と白のコントラストが描かれていた。濃厚な大気を感じながらM兵器の降下予測地点を眺めた。こちらが到着するまでに、果たしてどれくらいの被害が出ているのか。想像しかけてやめた。

 どうなろうと、ベストを尽くす以外に方法はない。それが、一番後悔しないやり方なのだから。

「行きます」

 そう告げると、自らの体を大気圏に投げ出した。


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