↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Archive:神話戦争 ―信仰を奪う神々―  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
286/321

第293話「停滞する日差しと錆びたシリンダー」

七月第二週に入っても、資料室の窓外に広がる地方都市の景色に変化はなかった。

久世恒一が鍵を開ける際、シリンダーの奥で金属が擦れ合う鈍い音が室内に響いた。

湿気を含んだ朝の空気は、棚の隅に積まれた古いファイルの紙の匂いを強く引き出している。


柿崎はすでにいつもの席に着き、新しく用意したノートの最初の行に万年筆を置いていた。

彼女の指先は動かず、ただ白い紙面を見つめる視線だけが一定の硬さを保っている。

まだ一文字も書かれていないその余白が、室内の薄暗い明かりを静かに反射していた。


「駅前の商店街のアーケード、一番奥の看板の文字が削れていたわ」

柿崎は窓の外を見つめたまま、感情の起伏を一切交えずにその事実だけを呟いた。

「塗り直されたのではないの。ただ、そこに何が書かれていたかを誰も気にしなくなったのね」


久世は手元にある夢記録の束を整え、受理スタンプを静かに、かつ均等な力で押した。

説明を試みる記述はすべて排除され、ただ起きた事象の輪郭だけがそこに定着していく。

世界がその意味を失っていく速度は、人々の意識の隙間を静かにすり抜けていた。


何も語らない無言の空間が、資料室の壁際にある古い棚の厚みを少しずつ増していく。

久世はインク瓶の蓋を開け、ペンの先端を静かに浸し、次の淡々とした作業に備えた。


観測層:第4層 記録単位:局地沈滅記述 対象:生活圏(境界外縁)

備考:存在強度の微小な低下に伴う、物理的記号の非破壊的摩耗の確認。

記録主体:Archive 状態:稼働中

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。